紅と桜~貴女のてのひら~
紅と桜~貴女のてのひら~
雨泉 洋悠
忘れないでいて、今日のこと。
貴女が初めて、私の手を、取ってくれたこと。
初めて私を、貴女の場所まで、連れて行ってくれたこと。
一日の終わり間近、部屋に射し込む光に、微かにオレンジ色が混ざり込む中、合宿メニューを無事にこなした私達は、思い思いに休憩している。
真姫ちゃんはどこだろ。
ちょっとばかり見回してみるけど、見当たらない。
だから希、そうやって私が周りを見回したぐらいでニヤニヤしないの。
私の正面のソファーに腰掛けて、今度はいつも一番多く、私に対して向けられる顔をしてくる。
全く、勝手に思い込んで、ちょっかい出して、いつもお節介して、余計なお世話を、してくれちゃって。
まあ、全部お見通しで、図星なのが何ともね、余計にいつも、腹立たしい物があるのだけど。
それでもね、私が何より気に喰わないのはね、希がいつも私を気に掛けてくれる分に対して、私は同じだけ気に掛けてあげられる程の余裕が無いと言う事よ。
希は何時だって、私を気に掛けてくれてきた。
一年の時も、二年になって、生徒会と放課後のバイトで忙しくなっても、私が危ない時には希が居てくれた。
そんな風に忙しい中でも、私の事ばかり気に掛けてくれていた貴女。
三年になってからも、ミューズに出会う前も、出会ってからも、誰よりも、私だけでなく、皆の事を思っていた、希。
そんな貴女はちゃんと、自分自身に対しては、気を遣ってあげているの?
今だから、私も冷静に希の考える事を、見つめられるようになったから、希が誰を一番大切にしたいと思っているのかを、気付いた上でも、何とか私でも貴女と普通に接することが出来る。
それでも私は、その点に関しては、貴女を気遣ってあげることが、今も、多分これからも出来ない。
それなのに、貴女は今も変わらずに、むしろ去年以上に、私を気遣ってくれる。
真姫ちゃんのこと、希にはもう最初からとっくに気付かれている。
昨日だって、真姫ちゃんに対して、希があれやこれやしていたのを、少しは気づいている。
それが、私のことを抜きに考えても、真姫ちゃんの為になると、貴女は解っている。
だから昨日は、私だって出来る限りおとなしくしていたつもりだし。
こんな良い環境の中で、貴女は真姫ちゃんや、私に対する気遣いばかり。
今日ぐらい、少しは貴女と、貴女の一番大切にしたい人との時間を大切にしなさいよ。
まあ、希のことだから今も当たり前に相手の隣に座っているように、普段も私達が見ていないような所で、多少は色々やっているんでしょうけどね、生徒会もあるし。
それでもね、私達にとってこの夏はこの学校で過ごす、最後の夏なんだから、真姫ちゃんや私の事ばかり考えていないで、いい加減自分のために使いなさいよ、本当に。
「にこっち、今日も晩御飯はにこっち頼みやから、真姫ちゃん戻ってきたら、今日は二人で一緒に買物行ってきてくれへん?」
本当にね、そうやって私の事ばかり気に掛けているんじゃないわよ、もう。
「しょ、しょうがないわねえ、真姫ちゃん戻ってきたら行ってくるわよ」
私は後、どれぐらい希に、救われるのかしらね。
海沿いの道、陽射しは徐々にオレンジ色を増して、私の前でふわふわ揺れる、赤色の房に、その色味を落とす。
綺麗だな。
こんな何気ない、普通の日常の中の一瞬にも、一欠片ずつ、未だに変わらず降り続く。
いつも思うけど、真姫ちゃんの髪は、柔らかそう。
いつみても、ふわふわしている、その特徴的な赤色。
私よりも、真姫ちゃんの方が歩幅がちょっとだけ大きいから、普段は私に合わせて、真姫ちゃんは隣を歩いてくれる。
今日はちょっとだけ、私よりも前を歩いている。
何だろう、何となく真姫ちゃんが私に、何かを言おうとしている、そんな気がする。
真姫ちゃんは、初めて会った時からも大分変わってきた気がする。
昨日の事も含め、真姫ちゃんが歳相応に、少しずつ成長していく様な姿は、その本来の幼い姿と相まって、とても愛らしいと思う。
後輩って良いな。
そんな、私の心の底で、何時も高鳴る感情と、少しだけ違って、殆ど同質の想いが浮かぶ。
やっぱり、真姫ちゃんは真姫ちゃんとしてだけでなく、後輩としての真姫ちゃんも可愛い。
でなければ、やっぱりこんな感情は生まれてこなかったのかもしれない。
真姫ちゃんと、私はこの形で出会えて、良かったのかなあ、そんな風に思う。
「真姫ちゃん、にこに何か言いたいことがあるんじゃないの?」
おお、図星を突かれたのかいま背中がビクッとした、びっくり真姫ちゃんも、やっぱり何かいいな。
「べ、別に何も無いわよ」
こっち向かないで、ちょっとだけ耳を赤く染める。
うん、いつも通りに、とても可愛らしい反応。
「何も無いことないでしょ?だって、何時もと違ってさっきから全然にこのとなりを歩いてくれないし」
ちょっとだけ非難気味に言うと、ハッとしたような感じでスススっと歩調を遅らせて、私のとなりに入り込んでくる。
ああ、やっぱりいつもの通り赤いなあ
こう言う時に、少しだけ私が先輩として振る舞える余地を残してくれている真姫ちゃんが、やっぱりとても愛おしい。
「ほら、言ってご覧なさいな」
その陽射しのオレンジよりも、遥かに赤い頬と耳を眺めながら、先を促す。
本当にこういう素直な反応を見ていると、私の中で何かが目覚めてしまうような気がする、気を付けないと。
真姫ちゃんが、真姫ちゃんらしい言葉を紡ぎ始める。
「えっと、その。にこ……先輩って、料理得意よね?」
私的には今のところが、第一予想範囲だったんだけど、そっちかー、第二かー、フェイントね。
「うん、隠していた訳じゃないし、昨日はちょっと変な見栄はっちゃったけど、そうね、実は得意よ」
少しだけ誇ってみる、こうやって生活の上で、必然的に身につけざるをえなかったスキルが、真姫ちゃんとのことで役立ったりするんだから、世の中解らないものだなと思う。
「て言う事は、その、あの、何時も貰ってたお弁当って……」
更に赤みを増していく、頬と耳。
ああ、本当に私、真姫ちゃんにして良かったなあ。
「そうよ、私の手作りよ」
ちょっと勝ち誇った感じで、言ってみる。
どう?真姫ちゃん?惚れなおした?って、本当にどんどん赤くなってっちゃって、この子は本当に、本当は素直な子なんだなあ。
そうよね、何時もべた褒めにしてくれていたものね、それを作っている本人に対して知らずのうちに伝えていたなんて、そりゃあ照れるよね、何より私が何時も照れてた。
「そ、そっか、えっと、何時もありがとう。これからは作ってくれている人を正しく認識して頂くわ」
少しだけ大人びた、優しい笑顔、いつもの香り、真姫ちゃんから私に伝わってくるものは、何時も堪らなく、私の心を躍らせる。
真姫ちゃんは本質は素直だから、きっと本気で私じゃなくて、お母さん辺りが作っていると考えていたんだろうなあ、可愛いなあ。
雨泉 洋悠
忘れないでいて、今日のこと。
貴女が初めて、私の手を、取ってくれたこと。
初めて私を、貴女の場所まで、連れて行ってくれたこと。
一日の終わり間近、部屋に射し込む光に、微かにオレンジ色が混ざり込む中、合宿メニューを無事にこなした私達は、思い思いに休憩している。
真姫ちゃんはどこだろ。
ちょっとばかり見回してみるけど、見当たらない。
だから希、そうやって私が周りを見回したぐらいでニヤニヤしないの。
私の正面のソファーに腰掛けて、今度はいつも一番多く、私に対して向けられる顔をしてくる。
全く、勝手に思い込んで、ちょっかい出して、いつもお節介して、余計なお世話を、してくれちゃって。
まあ、全部お見通しで、図星なのが何ともね、余計にいつも、腹立たしい物があるのだけど。
それでもね、私が何より気に喰わないのはね、希がいつも私を気に掛けてくれる分に対して、私は同じだけ気に掛けてあげられる程の余裕が無いと言う事よ。
希は何時だって、私を気に掛けてくれてきた。
一年の時も、二年になって、生徒会と放課後のバイトで忙しくなっても、私が危ない時には希が居てくれた。
そんな風に忙しい中でも、私の事ばかり気に掛けてくれていた貴女。
三年になってからも、ミューズに出会う前も、出会ってからも、誰よりも、私だけでなく、皆の事を思っていた、希。
そんな貴女はちゃんと、自分自身に対しては、気を遣ってあげているの?
今だから、私も冷静に希の考える事を、見つめられるようになったから、希が誰を一番大切にしたいと思っているのかを、気付いた上でも、何とか私でも貴女と普通に接することが出来る。
それでも私は、その点に関しては、貴女を気遣ってあげることが、今も、多分これからも出来ない。
それなのに、貴女は今も変わらずに、むしろ去年以上に、私を気遣ってくれる。
真姫ちゃんのこと、希にはもう最初からとっくに気付かれている。
昨日だって、真姫ちゃんに対して、希があれやこれやしていたのを、少しは気づいている。
それが、私のことを抜きに考えても、真姫ちゃんの為になると、貴女は解っている。
だから昨日は、私だって出来る限りおとなしくしていたつもりだし。
こんな良い環境の中で、貴女は真姫ちゃんや、私に対する気遣いばかり。
今日ぐらい、少しは貴女と、貴女の一番大切にしたい人との時間を大切にしなさいよ。
まあ、希のことだから今も当たり前に相手の隣に座っているように、普段も私達が見ていないような所で、多少は色々やっているんでしょうけどね、生徒会もあるし。
それでもね、私達にとってこの夏はこの学校で過ごす、最後の夏なんだから、真姫ちゃんや私の事ばかり考えていないで、いい加減自分のために使いなさいよ、本当に。
「にこっち、今日も晩御飯はにこっち頼みやから、真姫ちゃん戻ってきたら、今日は二人で一緒に買物行ってきてくれへん?」
本当にね、そうやって私の事ばかり気に掛けているんじゃないわよ、もう。
「しょ、しょうがないわねえ、真姫ちゃん戻ってきたら行ってくるわよ」
私は後、どれぐらい希に、救われるのかしらね。
海沿いの道、陽射しは徐々にオレンジ色を増して、私の前でふわふわ揺れる、赤色の房に、その色味を落とす。
綺麗だな。
こんな何気ない、普通の日常の中の一瞬にも、一欠片ずつ、未だに変わらず降り続く。
いつも思うけど、真姫ちゃんの髪は、柔らかそう。
いつみても、ふわふわしている、その特徴的な赤色。
私よりも、真姫ちゃんの方が歩幅がちょっとだけ大きいから、普段は私に合わせて、真姫ちゃんは隣を歩いてくれる。
今日はちょっとだけ、私よりも前を歩いている。
何だろう、何となく真姫ちゃんが私に、何かを言おうとしている、そんな気がする。
真姫ちゃんは、初めて会った時からも大分変わってきた気がする。
昨日の事も含め、真姫ちゃんが歳相応に、少しずつ成長していく様な姿は、その本来の幼い姿と相まって、とても愛らしいと思う。
後輩って良いな。
そんな、私の心の底で、何時も高鳴る感情と、少しだけ違って、殆ど同質の想いが浮かぶ。
やっぱり、真姫ちゃんは真姫ちゃんとしてだけでなく、後輩としての真姫ちゃんも可愛い。
でなければ、やっぱりこんな感情は生まれてこなかったのかもしれない。
真姫ちゃんと、私はこの形で出会えて、良かったのかなあ、そんな風に思う。
「真姫ちゃん、にこに何か言いたいことがあるんじゃないの?」
おお、図星を突かれたのかいま背中がビクッとした、びっくり真姫ちゃんも、やっぱり何かいいな。
「べ、別に何も無いわよ」
こっち向かないで、ちょっとだけ耳を赤く染める。
うん、いつも通りに、とても可愛らしい反応。
「何も無いことないでしょ?だって、何時もと違ってさっきから全然にこのとなりを歩いてくれないし」
ちょっとだけ非難気味に言うと、ハッとしたような感じでスススっと歩調を遅らせて、私のとなりに入り込んでくる。
ああ、やっぱりいつもの通り赤いなあ
こう言う時に、少しだけ私が先輩として振る舞える余地を残してくれている真姫ちゃんが、やっぱりとても愛おしい。
「ほら、言ってご覧なさいな」
その陽射しのオレンジよりも、遥かに赤い頬と耳を眺めながら、先を促す。
本当にこういう素直な反応を見ていると、私の中で何かが目覚めてしまうような気がする、気を付けないと。
真姫ちゃんが、真姫ちゃんらしい言葉を紡ぎ始める。
「えっと、その。にこ……先輩って、料理得意よね?」
私的には今のところが、第一予想範囲だったんだけど、そっちかー、第二かー、フェイントね。
「うん、隠していた訳じゃないし、昨日はちょっと変な見栄はっちゃったけど、そうね、実は得意よ」
少しだけ誇ってみる、こうやって生活の上で、必然的に身につけざるをえなかったスキルが、真姫ちゃんとのことで役立ったりするんだから、世の中解らないものだなと思う。
「て言う事は、その、あの、何時も貰ってたお弁当って……」
更に赤みを増していく、頬と耳。
ああ、本当に私、真姫ちゃんにして良かったなあ。
「そうよ、私の手作りよ」
ちょっと勝ち誇った感じで、言ってみる。
どう?真姫ちゃん?惚れなおした?って、本当にどんどん赤くなってっちゃって、この子は本当に、本当は素直な子なんだなあ。
そうよね、何時もべた褒めにしてくれていたものね、それを作っている本人に対して知らずのうちに伝えていたなんて、そりゃあ照れるよね、何より私が何時も照れてた。
「そ、そっか、えっと、何時もありがとう。これからは作ってくれている人を正しく認識して頂くわ」
少しだけ大人びた、優しい笑顔、いつもの香り、真姫ちゃんから私に伝わってくるものは、何時も堪らなく、私の心を躍らせる。
真姫ちゃんは本質は素直だから、きっと本気で私じゃなくて、お母さん辺りが作っていると考えていたんだろうなあ、可愛いなあ。
作品名:紅と桜~貴女のてのひら~ 作家名:雨泉洋悠