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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 18

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 ウェイアード中を混沌に陥れたデュラハンの力も、外界と時間の流れまでもが違う、別世界ともいえるレムリアには、さすがの悪魔の力も及ばなかったようである。
 レムリアに着くとすぐに、ロビン達はドリー達を、レムリアの老医術師、マーティンの元へ連れて行った。
 ピカード曰わく、マーティン医師は、今は亡くなった母親の専属の医師だったらしく、彼女の今和の際に命を削ってまで延命の回復エナジーを使用した反動で、一気に年老いてしまったという。
 しかし、老いても腕は鈍っておらず、ドリー達に回復に特化したエナジーを使用し、治療すると、二、三日すれば彼らは目を覚ますであろうとの診断を下した。
 ロビンも安心したが、ジャスミンにいたっては、マーティン医師にすがりついて感謝の涙まで流していた。
 その後、ロビン達は宮殿へ向かい、ハイドロ王に謁見した。前回来た時は反灯台解放派の代表、コンサバトが怒鳴り散らしていたが、今回はその姿は見られなかった。
 ハイドロは、謁見の間に施されている、ウェイアードの全てを見通せる床で、ロビン達が来ることを予見していた。
 そして、世界にどのような事が起きているのか話すべく、彼は待っていたのだと言った。
「お久しぶりです、ハイドロ様」
 ロビンが恭しく挨拶する。
「久しぶり、か……。私にとっては、君達がここを出発してから、数日の時しか経っていないのだがな……」
 レムリアとウェイアードの時間差は、とてつもない間があるようだった。
「まあいい、君達が私の所へ来るであろう事は、予想していたことだ。全ての灯台を灯すことに成功したようだが、まさかあの様な事になろうとはな……」
 コンサバトの言うとおりだったかもしれないと、ハイドロは若干弱気になっていた。
「ハイドロ様、そのような事はございません。いくらハイドロ様とて、暗黒世界の事までは予測できるはずがありません。私は、ガイアフォールにウェイアードが飲み込まれる、という判断を下したハイドロ様が正しいと考えています」
 ウェイアードの調査の勅令を受けたピカードは、ハイドロの考えを否定することなく、励ますように同調した。
「ピカード、君がそう言ってくれるのは、とてもありがたい。しかし、私の下した命令により、母親の死に目にも会うことはできなかったであろう? どうか、私を恨んでくれ。これ以上の気遣いは一切いらんよ……」
「ハイドロ様、私は自らこの役目を担ったのです。そんなに自信をなくさないでください。それよりも、今はどうにか世界を救う手立て、いえ、デュラハンを倒す方法を見つけることが先決です。どうか英断を」
 ハイドロはしばらく俯いていたが、やがて玉座から立ち上がった。
「ピカードよ、本当に強くなったな。仮にもレムリアを統治する身でありながら、民に余計な心配をかけてしまうとは。これでは王失格だな……」
 ハイドロは自嘲するように笑うが、その後の表情は穏やかながら、真に迫ったものになった。
「ロビン、並びにウェイアードの民よ。これから私の力にて、悪魔の登場で、ウェイアードに何が起きているのかを見てもらいたい。どのような光景でも堪える覚悟はあるか?」
 ロビン達に迷う者はいなかった。
「どれほどデュラハンの力が強大か、僕達は身を以て知りました。ウェイアードを救う手立てはまず、相手を知ることだと思います。お願いします、ハイドロ様」
 ロビンが、仲間達の気持ちを一心に引き受け、ハイドロへと告げた。
「分かった、君達の勇気、無碍にはしない」
 ハイドロは力強く頷く。
 そして指を弾き、エナジーを詠唱した。
『ペナトレイト・フォーシー!』
 灰色にくすんだ色をした、謁見の間の床に、水面に水滴が落ちたかのような波紋が広がった。すると、飛行する鳥の視界のように、空からのウェイアードの情景が波に揺れながら、次第に露わになっていく。
 空から見るウェイアードは、毒々しい青紫色の霧に包まれていた。ロビン達を脱力させたあの瘴気は、僅かではあるが、残っていたのだ。
 瘴気に太陽光が阻まれているのか、大地は暗く、重苦しい雰囲気に包まれている。
「なんとひどい……」
 スクレータは、瘴気に満ちた大地だけでも見るに堪えず、呟いてしまった。
「スクレータ殿は、やはり見ない方が良いかもしれん……。私は一足先に世界を見渡したが、正直、胸が悪くなった」
「いや、お気遣いはありがたい限りですが、ワシも現実から目を背けたくありません」
 ロビン達のような、力のある戦士には、瘴気の効果は軽いものであったが、戦士ではない普通の人間であるスクレータには、その効果は強く現れていた。
 しかし、スクレータは、恐怖心を強められていても、現実に向き合う勇気を見せた。
「私もスクレータ殿の様に、強い心を持ちたいものだ。では続けよう。気分が悪くなったら、何も言わずに出て行ってくれて構わない」
 ハイドロは指を弾き、鳴らした。
 空を飛ぶ鳥の視点が、瘴気の中を通り抜け、ある町らしき風景が映し出された。
 先に起きた異変により、一月の後に必ず訪れる死に恐怖し、町の人々は無気力になっていた。
 曇った空よりも更に暗い、毒性の瘴気のせいで、外に出て働く者も、空の下で遊ぶ子供もいない。いや、いるはずもなかった。
 時折現れる人は、自棄になって強奪をするなど、非道に走る者ばかりであった。中には白昼堂々、道を歩く女を茂みへと連れ去り、寄ってたかる男達の姿まであった。女の衣服を破り、下半身をさらしている様子から、彼らの目的は一目瞭然である。
 他にも床に映し出される風景は、どれも生きる気力のない者達の、絶望から来る行動ばかりであった。
 今映っている女も、多くの男に襲われた後なのか、生気のない目をして枯れ井戸の底をのぞき込んでいる。
 ここから飛び降りれば、死ねるであろうか。そのような考えをしているのがよく分かる様子であった。
 女は井戸に足をかけ始めた。
「やめろ!」
 自ら命を絶とうと動き始めた、床に映る風景の中の女に、ロビンは思わず叫んでしまった。
「ロビン……、ここで叫んでも、風景の先の者に声は届かぬ……」
 ハイドロは、この床に映る人が、自ら命を絶っていくのを幾つも見ていた。最初は彼も思わず制止しようと声を上げていたが、次第に自身のしている事の無意味さを知らしめられてしまった。
「でも!」
 床に映る女が枯れ井戸に飛び込もうとした瞬間、一人の男が駆け寄り、女を羽交い締めして自殺を止めた。
 女は暴れ、井戸へ飛び降りようと何度も試みたが、男から平手をくらい、自殺は未遂に終わった。
「彼女は助かったか……、だが、これ以上見てはならん。君達にはあまりにも惨すぎる……」
 ハイドロは指を鳴らし、視点を別の場所に切り換えた。
 映し出された先は、ゴンドワナ大陸中央部に位置する、キボンボ村であった。
「あれは、アカフブではないか!?」
 ガルシアが叫んだ。
 床に映るアカフブは、磔にされ、村の者から拷問を受けていた。
「どうして彼がこんな事に……」
 キボンボ村へ行ったことのある者は、キボンボ族がどのようなものなのかが分かる。
「ガルシア、ジャスミン。あの男の事を知っているのか?」