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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 18

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 磔にされている者の名前を口にし、彼を知っているらしいガルシア達に、ジェラルドが訊ねた。
「アカフブは、今僕達が使っている船の動力源の、黒水晶を盗んだんです。どうやら黒魔術の儀式の為に、宝石が必要だったようで……」
 黒水晶を盗まれた被害者であった、ピカードが言う。
「アカフブは多分、デュラハンが現れたのは、儀式をして、その時にガンボマとかいう神様の怒りに触れたんだ、とでも言われて村人から拷問されているのでしょう。正直、僕はアカフブの事は大嫌いですが、さすがにこれは……」
 ピカードは、映像の中で、小石や汚物を村人達から投げられて汚れ、早くも衰弱し始めている憎き相手を見て、哀れに思った。このままでは、デュラハンが人間を駆逐する前に、アカフブは衰弱死する可能性さえもあった。
「人とは哀れなものだな。何かに当たらなければ、自分の心も支えられないとは……」
 小石が投げつけられても反応がなくなった、アカフブを見ながら、ガルシアは呟いた。
 天からの風景は、キボンボ村を離れ、西へと進んでいった。
 大ウェスト海に位置する、アテカ大陸に差し掛かろうかというところで、ハイドロは一度エナジーを切った。
「ハイドロ様、なぜ急にエナジーを止められたのですか?」
 イワンが訊ねる。
「……イワンよ、並びに他の皆。先に言っておくが、デュラハンの根城はアテカ大陸にある。その大陸の村、ギアナ村に隣接するアネモス神殿が彼奴の棲むところ……」
 妙に歯切れの悪い物言いをするハイドロに、イワンは追及した。
「デュラハンのいる所は聞き及んでいます。デュラハンが今何をしているのか、ハイドロ様のお力によって暴くべきです。ギアナ村を見せてください」
「イワン……、絶対に後悔しない心積もりはあるか?」
 ハイドロは尚も、ロビン達、特にもイワンにギアナ村の様子を見せることに難色を示した。
「そこまでひどい状態だと仰るのですか? それでは尚更です。ボクは本当の故郷の様子を見なければなりません!」
 食い下がるイワンに、ハイドロは顔を背ける。
「ハイドロ様、イワンの言うとおりです。デュラハンの住処が分かるというのなら、実際に見て、対抗策を練るべきです」
 ロビンもイワンに賛同し、ギアナ村の様子は見るべき、と言った。
「ハイドロ様、ボク達はデュラハンに仲間を浚われているのです。あの者は倒さなければいけない存在です。どうか、見せてください!」
 ハイドロはしばらく顔を背けたままであったが、絶対に見るまで引き下がる様子のないイワンに押し負け、ハイドロは再び視線を真っ直ぐに、イワンへ向けた。
「イワン……、そこまで言うのなら、これ以上隠すのは、君に対して失礼に値するな。分かった、見せよう……。だが、これだけは約束してくれ。目の前に広がる現実に絶望し、命を絶つような真似はしないでくれ。私はもう、人の死を見たくないのだ……」
 ハイドロは一つ、イワンと約束を交わした。イワンは二つ返事をする。
「では、皆も同然だ。死に急ぐようなことは、どうかしないで欲しい……」
 ハイドロはロビン達とも約束を交わした。彼らも迷いなく頷く。
「ではお見せしよう……。『ペナトレイト・フォーシー!』」
 ハイドロは詠唱と同時に、高らかに指を弾いた。
 世界中を見通すことのできる床に、大ウェスト海の海原が移り、視界は更に、西へと進んでいった。
 ハイドロがエナジーを発動して間もなく、アテカ大陸が風景に移り込んできた。
 アテカ大陸は、デュラハンらが根城とするアネモス神殿があるためか、瘴気はウェイアード中で一番色濃く残っていた。
 空気中に含まれる瘴気は、完全に太陽光を遮断し、夜よりも更に暗い、まさに暗黒の世界を形成していた。
 デュラハンをこのまま放っておけば、いずれウェイアード全域がこのような惨状に見舞われてしまうことになる。
 闇の力を持つ瘴気は、魔物にとってはこの上ない、力を高められるものであり、アテカ大陸に存在する魔物はまさに、水を得た魚のように、その全てが活性化していた。
 アネモス神殿にほど近い集落、ギアナ村がとうとう、ロビン達の目の前に出現した。
「これは……!?」
 ロビンは目を見開き、絶句してしまった。
「ひっ!?」
 ジャスミンは小さく悲鳴を上げ、顔を手で覆う。
「これが本当に、ギアナ村、なのか……?」
 ガルシアは最早、ここが人の住んでいた所だとは信じられなくなった。
 彼らがかつて集い、ともに世界を救う誓いを果たした場所は、もう原型を留めてはいなかった。
 村中に猛毒の霧が立ちこめ、大気中に含有する強力な瘴気の為、日の光が一切届かなくなったギアナ村は、魔界と言っても遜色のないほどの変貌を遂げていた。
 デュラハン登場の際に放たれた漆黒の閃光により脱力し、そのまま猛毒の空気を吸引したせいで、気絶、そして死亡したと思われる村人達の骸があちこちに転がっている。
 手を伸ばす位の距離でさえも、先を見通せないほどに暗い村の中は、活性化した魔物のものと思しき赤い眼光が点在し、その不気味極まりない光だけが、暗黒に満ちた村を照らすものであった。
 ふと、ハイドロの力による視界は、一匹の魔物を捉えた。その魔物は、悪夢のような行動を取っていた。
 狼のような姿をした魔物が、何かをむさぼり食っていた。
 魔物が食していたものは、死した村の人間であり、臓物を辺りにまき散らしながら死肉を喰らっていた。
「う……おっぷ!」
 ジェラルドは口元を抑え、謁見の間から急いで駆け出ようとした。しかし、抗しきれず、数歩駆けると胃から逆流するものを、びしゃびしゃ音を立てながら吐き出してしまった。
「きゃあっ!」
 偶然側にいたメアリィは、悲鳴を上げた。
「ジェラルド! 大丈夫ですか!? 申し訳ありません、ハイドロ様!」
 まだ吐き続けるジェラルドの背中をさすりながら、ピカードは謁見の間を汚損したことを謝った。
「構わぬよ、あの様な惨たらしい風景を見れば、誰でもそうなってしまう……。現に、私も最初見たときは激しい吐き気に襲われた……」
 ハイドロは使用人を呼び出し、掃除とジェラルドを休ませるよう命じた。
「うぷ……、すみませんですじゃ、ハイドロ様。ワシも気分が……。外さてもらいますぞ……」
 スクレータも具合を悪くした。
「僕も手伝います。スクレータ、掴まってください」
 ハイドロに命令された使用人の掃除を、ピカードも手伝い、エナジーで済ませ、ジェラルドとスクレータを別室に運んでいった。
「……やはり、君達戦士でもあれには堪えられなんだか」
 ロビンは堪えていたが、仲間達の中にはやはり、体に何らかの異常を来していた。
 ジャスミンは恐怖と驚愕のあまりに固く目を瞑り、頭を抱えてしゃがみ込み、メアリィは先程の驚きで腰を抜かしていた。
 ガルシアは恐怖のあまり震える妹を支えてやっていた。
 ロビン自身も、足の震えを感じていた。
「……もう良かろう、君達の様な子供に、これ以上見せるものではない……」
 ハイドロはエナジーを解き、床の悲惨な風景を消そうとする。
「……さんは?」
 ハイドロがエナジーを解こうとした瞬間、消え入りそうな声がした。
 ハイドロは声に反応し、動きを止める。