【腐】スカーレットサイン【モジュカイ】前編
「サイレンス!」
壁を回った瞬間、衝撃に体を吹っ飛ばされた。
「蒼雪!」
サイレンスの悲鳴に構う暇もなく、蒼雪はのし掛かってきた異形を引き剥がして、地面に叩きつける。ギャッと声を上げた異形を凍結させ、蒼雪は青ざめた顔のサイレンスへと駆け寄った。少女を庇うように抱いた腕には、無数の爪痕や歯形が残されている。
「大丈夫か?」
「何とか」
サイレンスの腕に抱かれた少女は、まるでまどろんでいるかのようにも見えた。だが、微かに上下する胸は血に染まり、破れた衣服から覗く肌には、いくつもの傷跡がある。少女の頭を引き寄せ、サイレンスは唇を噛んだ。
「傷は塞いだの。でも、意識が戻らなくて」
「分かった。フロイラインは?」
「姿を見せないの。もしかしたら」
途切れた言葉に、蒼雪も俯く。無事ならば、真っ先に少女の元へ駆けつけているはずだ。
「動かせるか?」
「担架になるものがあれば、多分」
蒼雪は、壁の陰から首を伸ばして、戦況を確認する。派手に砂埃が舞う中、異形らしき悲鳴が響いていた。
「あれが片づくまで、待ったほうがいい。下手に巻き込まれたら」
そこで口を閉ざす。サイレンスも気づいたのか、小さく悲鳴を上げて、少女に覆い被さった。
瓦礫の山を、無数の異形がよじ登ってくる。蒼雪は、途中で数えることを諦めた。
「応援を」
「無理だ。俺達で凌ぐしかない」
サイレンスの視線に、蒼雪は頷く。手の中に集めた冷気で氷柱を作り、固く握りしめた。
「その子を頼む」
蒼雪は、地面を蹴って異形の群へと突進する。一体一体は小さいものの、その数は膨大だった。
どこまでいけるか・・・・・・賭だな。
一瞬、モモの顔が脳裏をよぎる。あの子は、俺を許してくれるだろうか。
作品名:【腐】スカーレットサイン【モジュカイ】前編 作家名:シャオ