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aph 『ウムラウト日和』

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ウムラウト日和


「これがドイツ語……! すばらしい、すばらしいです……!!」
 日本が珍しく声を上げる。
「そうか? 日本、こういうの好きか?」

 経済危機ですっかり自信を失っていた時期の長かったドイツは、面と向かって褒められた時にどんな顔をすれば良かったのか思い出せずにいた。

「ええ!最高ですよ!」

 日本が見ているのはゲーテの詩。ドイツ詩の繊細な部分までもすべて理解できるわけではないだろうが、たしかにゲーテはドイツにとっては誇りとする存在である。

 そして、ゲーテの紡ぐ韻律の素晴らしさを生み出したのは、ほかならぬドイツ語の響きだ。
 ドイツは照れながらも日本の率直で裏の無い感嘆の言葉に気を良くしてつい口にしてしまった。それは嬉しさの表れだったが、礼の言葉ではなく――

「よし、じゃあ、そんな日本に俺からいいものをやろう。」


 金もないのに、贈り物の約束をしてしまった。
 人というのは大抵、自分のして欲しいことを相手にしてやろうと思うものである。
 そして今、ドイツは不況と貧乏に悩んでいた。相手への喜びや感謝の表現は、いきおい「物を贈る」という発想に結びついたのである。
 だが、言ってしまってからはたと気が付いた。
 気持ちは嘘ではないが、果たして何を贈ればいいのか……もうドイツには経済的な余裕などない。

 ドイツ語を素晴らしいと言ってくれた日本。その称賛の言葉に報いる、何か良いものは……。


 考えた末に、ドイツは「ドイツ語」の一部を贈ることにした。
「ドイツ語」にあって「日本語」に無い、特徴的なもの ――ウムラウト。


 それは、文字の上につける二つの点で表した、ドイツ語の発音のための記号である。
 同じ文字であっても音が変わる場合に、その発音をあらわすためにつけられる、二つでひと組の点だ。それを模して、ウムラウトに見立てて作った工芸品を大量に日本に船便で送る。

 これできっと、日本も喜んでくれるだろう。全国民に分けるには足りないかもしれないが、出来る限りいっぱい用意してやる。
 日独友好の証しとして一家に一ウムラウト。ゲーテの詩集の脇にでも飾っておいてもらえればいい。


 すばらしいドイツ語が最高に好きな日本の驚く顔を思い浮かべながら、ドイツは満足げに眠りに就いた。






 Fin.
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