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No.017
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ピジョンエクスプレス

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■ピジョンエクスプレス




1.カケルの悩み

 カケルは鳥ポケモンが大好きだ。十歳になって取り扱い免許をとった彼が最初に捕まえたのは「ことりポケモン」のポッポだった。
 カケルはポッポにアルノーという名前をつけ、アルノーと旅に出た。旅先でアルノーと一緒に、ホーホーやオニスズメを捕まえた。次にドードーとネイティを捕まえた。今度はヤミカラスやカモネギ、デリバード、エアームドも捕まえに行こう。まだ見ぬ鳥ポケモンたちのことを考えてわくわくした。

 そして、カケルにはもうひとつ楽しみにしていることがあった。
 進化だ。

 ポッポが進化するとピジョンになる。体が大きくなって力も強くなるし、何よりカッコよくなる。特に頭の羽飾りの美しさはこたえられない。それにアルノーはいつも一番に出して戦わせてるんだ。進化のときも近いに違いない。カケルはアルノーの進化後を頭の中に浮かべ、今日か明日かとその日を待っていたのだった。

 が、カケルの予想に反して最初に進化したのはオニスズメだった。首とくちばしがぐんと長くなり、頭に立派なとさかがついた。背中にはふさふさの羽毛、立派なオニドリルになった。
 次に進化したのはホーホーだった。体つきは立派になり、貫禄のあるヨルノズクになった。コイツに睨まれたゴーストポケモンはふるえあがるだろう。
 そして、二つあった頭が三つに増えてドードーがドードリオになった。以前にも増してギャーギャーうるさくなったのが玉にキズだが、攻撃力も数段アップしてポケモンバトルではたよれる存在だ。

 と、いうわけで、アルノーより後に捕まえた三羽が先に進化、という結果になった。

 なんだか予定外の順番になってしまったなぁと、カケルは思ったが、「まぁいい、きっと次に進化するのはアルノーさ」と気楽にかまえていた。

 が、次に進化したのはネイティだった。ネイティオになった彼は、カケルより背が高くなって、ますます異彩を放つ存在になった。目つきだけは前と変わらない。進化前と同じようにいつも明後日の方向を見つめている。

 こうして進化を待つ手持ちはアルノーだけになった。

 カケルは待った。アルノーはまだピジョンにならない。カケルはその日を待ち続けた。けれどその日は待っても待ってもやってこなかった。


 ――もしかしたら体のどこかが悪いのではないだろうか。

 ポケモンセンターで詳しく調べてもらったが、どこにも異常は見あたらなかった。むしろ健康そのものだと言われた。

「そうあせらないで。気長に待つしかないよ」

 先輩トレーナーのとりつかいはそう言ったが、カケルの心は晴れなかった。

「何事にも適した時期というものがある。今はまだそのときじゃないんだよ」
「じゃあいつそのときになるの」
「うーんそうだなぁ、鳥ポケモンにでも聞いてみたら」

 先輩トレーナーのとりつかいは苦笑いしながらそう言った。

「ねえ、アルノーはいつ進化するの」
 オニドリルに聞いたら長い首をひねって「さあ?」という顔をされた。

「ねえ、アルノーはいつ進化するの」
 ヨルノズクに聞いたら首を傾げるだけだった。

「ねえ、アルノーはいつ進化するの」
 ドードリオに聞いたら、三つの頭が互いに目配せして困った顔をした。

「ねえ、アルノーはいつ進化するの」
 ネイティオにも聞いたが、明後日の方向を見つめるばかりで、聞いちゃいなかった。

「ねぇ、お前はいつ進化するの」
 アルノー本人にも聞いてみたが一言、「クルックー」と言っただけだった。

「……大真面目に聞いた僕がバカだったよ」
 カケルは自分の言動がばかばかしくなってきた。

 ――何事にも適した時期というものがある。今はまだそのときじゃないんだよ

 先輩トレーナーの言葉が頭の中にこだました。焦ったってしょうがない、まだ時期ではないのだ。少々ふっきれなかったがそう思うことにした。どうしようもない。
 気がつけばもう夕方だった。オレンジ色に染まった空をヤミカラスが「アーアー」と鳴きながら飛んでいく。沈んでいく夕日を眺めながらカケルはつぶやいた。

「…たまには家にでも帰ろうかな」

 …と。



2.帰宅

 カケルの実家はジョウト地方の大都市、コガネシティにある。ジムあり、デパートあり、ラジオ局あり、ゲームコーナーあり、ありとあらゆるものが揃って、現在も発達し続けている街だ。近々、カントーヤマブキシティ行きのリニアも開通予定だった。
コガネシティにはいくつもの高層マンションが熱帯雨林の高木のように建っている。カケルはその高層マンションの一つに向かって歩いていった。
 入り口まで行くとサーッと自動扉が開く。入った先、一階は自由に使えるフロアになっており草木が植えられ、置かれたテーブルを囲んでマンションの住人が話し込んでいる。その先には久しぶりのエレベーター、カケルは中に入って「10」のボタンを押した。

 数ヶ月ぶりの息子の帰宅を母親は喜んで出迎えた。夜は食べきれないほどのごちそうが並べられ、手持ちポケモンを総動員して平らげた。おなかいっぱいになると、母親にみやげ話をせがまれた。それもひと段落してカケルはソファにゆったりと腰を下ろすとリモコンからテレビをつけた。ポケモンたちも画面を見つめる。四角い箱の中で人々がおもしろおかしくやりとりをしているのが見える。
 そういえば、最近テレビなんか見ていなかったなぁ。自分の膝の上で羽毛をふくらませるアルノーを撫で回しながら、カケルは懐かしさを覚えた。なんだかんだで我が家とはいいものだ。

「そうそう、あなた宛にいろいろ届いているわよ」

 カケルとアルノーが目を細めてウトウトしはじめ、ドードリオとオニドリルがリモコンの操作方法を覚えて主導権を争い始めた頃、母親が封筒の山をかかえて持って入ってきた。
 目の前のテーブルに母親はバサリと封筒の山を置くと「もう寝るから、あなたも鳥さんたちも早く寝なさいね」と言ってあくびをしながら去っていった。
 まさかこの封筒の山、僕が旅立った当時から貯めてるんじゃないだろうな…カケルは眠い目をこすりながら封筒の封をやぶり中身を見始めた。

 ほとんどはくだらないダイレクトメールだった。カケルは内容を確認してはクシャッと中身を丸くしてゴミ箱へと投げた。差出人を見ればだいたい検討はつくのだが、ついつい確認してしまうのは貧乏性だからかもしれない。
 丸めた紙は、たまにあさっての方向を見つめているネイティオに当たってしまったが、当のポケモンは気にしていない様子だった。見るとネイティオの横で、ヨルノズクがどこからかひっぱりだしてきた雑誌のページを器用に足とくちばしでめくって、中を覗いては首をかしげている。カケルは作業を続行する。
 そうしてダイレクトメールの山は次第に低くなり、丘になり平地になった。最後に、茶色い封筒1つが残された。
 それは、ダイレクトメール…というよりはごく親しい友人に宛てた手紙のような封筒であった。が、宛先は書いてあるのに差出人名がない。
 いったい誰からだろう? カケルは封をやぶいて中に入っていた明るいクリーム色の紙を開いた。紙にはこう書かれていた。

“アマノカケル様