二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
無未河 大智/TTjr
無未河 大智/TTjr
novelistID. 26082
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

D.C.IIISS ~ダ・カーポIIISS~

INDEX|17ページ/46ページ|

次のページ前のページ
 

「ほら、ストックがこれしかなかったから、勘弁な」
「別に構わないわよ」
 リッカにカップを渡し、向かいに座る。両手で上品にカップを持って紅茶を嗜む姿は様になる。これで性格があれじゃなければ多分モテるはずだ。
「……あなた、割と失礼な事考えたでしょ」
「いや、別に」
 ポーカーフェイスを保って返事する。そして俺も少し紅茶を啜る。うむ、我ながらいい出来だと思う。
「それで、あなたはカレンの事どうするの?」
 突然の出来事に俺は紅茶を吹き出した。
リッカはもちろん、あまり机や床などにかからないように精一杯頑張ったつもりだ。……とりあえずリッカは無事だった。
「うわっ、汚いわね」
 俺は咳込みながらリッカに返事をする。
「お前が変な事言うからだろ!」
「変な事って何よ。事実じゃない」
「……俺、カレンに惚れてるように見えるか?」
「ええ。とりあえず、カレンを見る顔が気持ち悪いのは分かってるわ」
 ……俺どんな顔してるんだよ。ちょっと見てみてぇよ。いや、見たら色々危ない気がするからやめておこう。
「でもさ、もし俺がカレンに惚れてたとしてだ」
「自覚してないのね。まあいいけど。で、何?」
「……大体250歳の俺と普通に年を重ねてきたと思われるカレンとでは些か問題ではないだろうか……」
「まあ、確かにアルトさんやジョージさんがどう言うかはわからないけど、見た目的には問題ないわよ」
 ジョージというのはアルペジスタ家の前当主で、カレンの祖父だ。
「いやいや、そもそもその二人が怖いわ!」
 確かにアルトにもジョージにも敬語で敬われてるような人間だけどさ!でも養子とはいえ娘を俺みたいな奴に持って行かれるのはどうかと思うんだよ。
「そうね……。……そもそもあの二人ってどれくらいなの?」
「お前よりは年下だ。若作りしてるけど」
「へぇ。……じゃあ、あんたなんて……」
「そうだよ。あいつらからすれば大魔導士クラスの人間だよ」
「いいじゃない。あなたは尊敬に値するような人間だと思われてるんだし」
 ……いや、そうもいかねぇよ。俺は一つため息をついて言う。
「……俺さ、あいつらに禁呪の事は話してないんだわ」
「あっ……」
 リッカも気づいたようだ。
 俺の行った禁呪―<最後の贈り物>。その恩恵により、純粋な魔力を大量に得たがそれを行使するための魔法を失ってしまった。俺はそれを解呪するために色々調べている途中だ。
「それで、カレンには話したんだ」
 俺は首肯する。
「一体なんで?」
「わかんねぇよ。あの時は、ちょっと手伝ってくれたお礼代わりに話しただけだったんだが、今となってはなんであいつにだけ話したのか皆目検討もつかねぇ」
「……それって、珍しいわね」
「えっ?」
 頭を抱えていた俺は、不意にかけられた言葉に驚く。
「だって、私やエリザベス、シャルルや巴に話した時は嫌々だったじゃない。それが自分から話すなんて、って思ってね」
 ……そういうことか。俺はその頃から、カレンに興味があったのか。
 何かと自然に俺の中に入り込んでくる娘だとは思っていた。気が緩んでいる時に心を読まれ、幾度となくいらん事を言われてきたが、それは俺がカレンに気を許しているからではなかったのだろうか。
「……なるほどな。まさか、お前が俺に諭す日が来るなんてな」
「あら、自分の中で決着は付いたのかしら?」
「ああ、悪い。ありがとう、リッカ」
 俺が素直に礼を言うと、リッカは目をパチくりとさせていた。
「ユーリが素直にお礼を言うなんて、珍しいこともあるものね」
 ……お前の中で俺はどうなってるんだよ。まあいいや。今回だけはなにも言わないでおいてやる。
「……おっと、もうこんな時間か」
「もしかして、カレンと約束?」
「ああ。スマンが、あとは頼んでいいか?」
「ええ。私が頼んだことだし、かったるいけどやっとくわ」
 これでも律義にやるリッカだ。おろそかにすることなんてないだろう。
「悪い」
「さっさと行きなさい。お嫁さん候補を逃すんじゃないわよ」
「うるせぇバーカ」
 俺はすぐに支度すると、学園長室を後にした。そして一目散に自室へ向かった。だから―。
「……頑張りなさいよ、ユーリ」
 だからリッカが最後に発した言葉を、聞き取ることが出来なかった。





 午後5時ジャスト。
 俺は自室の前にいた。俺の予定が正しければ、既にカレンはこの中にいるはずだ。
 俺はドアノブを捻った。予想通り鍵などかかっておらず、さして重くもない扉が、湿気で少し大きくなったおかげで鳴ってしまう黒板を引っかくような嫌な音と共に開いた。
「お帰りなさい、ユーリさん」
「ああ。それより、鍵」
「あ、はい」
 カレンは俺に鍵を渡す。この部屋の鍵だ。リッカのおかげで遅くなることが分かっていた俺は、カレンに鍵を貸し先に待っているように告げたのだった。
「何の用だったんですか?」
「生徒会だ。少しは会長を敬えってもんだが、リッカにはそうは行かないからな」
 同じくカテゴリー5のリッカに、俺への敬意はない。いや、少しはあるだろうが、おそらく友人のような感じで接しているのだろう。
「へぇ……」
 声ではそっけなく返すカレンだったが、その顔が少し膨れているのを俺は見逃さなかった。
「なんだ?」
「いえ、別に……」
「……まあ、いいが」
 言いたくないならそれでいいさ。
「……聞かないんですね」
「聞いてほしいのか?」
「……」
 黙り込んでしまった。
「聞いてほしくないんだろ。なら、お前が話そうと思うまで俺は聞かんよ」
「優しいんですね」
「どうだろうな。色々な人に迷惑かけたからな」
 主にエリーとかエリーとかエリーとか。
「だから、傷つけたくないだけだと思うぞ」
「でも、隠し事は私には通用しませんよ」
 そう言われて俺はカレンを見た。その顔は、ちょうど今頃色づく広葉樹の葉の様に真っ赤だった。これは、もう気づいてるな。だけどどう返事していいかわからない、といった顔か。
 俺は少し息を吐いた。
「でも、今言うことじゃないと思う。ちゃんと思いがまとまったら、言うから」
「……はい」
 その顔は少し、悲しそうな顔をしていた。
 俺はそれを見るのが、少し辛かった。





 後から聞いた話だ。
 カレンはこの時既に、俺の事ばかり考えていたという。ただ、色々知っていた彼女はどうしていいか分からず。
「……すみません、今日は失礼します」
「ああ。また好きなときに来い」
 と、こんなやり取りの後、すぐ帰ってしまった。そんなときに俺の心を読んでしまったのだろう。
 自分はどうしたいのだろう。どうすれば一番正しいのだろう。
 そんなことばかり考えていたという。
 その話を聞いた時に最初に思ったことといえば、『しくじった』ということだろうか。
 俺は無意識のうちに自分の秘密について深く話していた。そのせいでカレンに余計な事を考えさせてしまったのだ。……仕方ないといえばそれまでだ。だがそのおかげでカレンを落ち込ませるわけには行かない。
 ましてや今は大事な選挙期間。まずはそれを片付けるのが先だった。
 つまり、だ。俺はそれに上じて、この事を先延ばしにすることしか出来なかった。



   ◆   ◆   ◆