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無未河 大智/TTjr
無未河 大智/TTjr
novelistID. 26082
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D.C.IIISS ~ダ・カーポIIISS~

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「なるほど……」
 あからさまに肩を落とす清隆。
「清隆、私この前説明したわよね?」
「その時ぶっ倒れて休んでたんですよ。覚えてないんですか?」
「あー……そういえばそのあとでエリ……コホン!女王様からの勅命で出ていたから忘れてたんだったわ……。ごめんなさい」
 あれ、リッカが素直に謝っているだと。これはレアな場面だな。
 ……と、そんな冗談はさておき。
「姫乃が入ってくると何か問題でもあるのか?」
 俺は聞いてみた。
「いえ、そういうわけではなくて……」
 清隆が口ごもる。……まさか。
「ただでさえ女子しかいないこの空間にこれ以上女子が来ると色んな意味でダメな気がすると、そういう意味か?」
「大体その通りです……」
「まあ、わかるよ。俺も三年間そうだったからな……」
 同僚のクラスマスター達は全員男だったものの、生徒会役員は引退するまで全員女子だったからな……。そのせいでカレンにあらぬ疑いをかけられた事もあったが、それは置いておこう。
「だから決して、姫乃が悪いというわけではなくてですね、女子ばかりだと精神的にクるというかなんというか……」
「では、希望としてはうちのクラスのセルウェイ君をご所望かな?」
 間で巴が口を挟む。セルウェイというと、あの大きな魔法使いの家か。アルペジスタには及ばないものの、多くの歴史と功績を持っているといえよう。そこの御曹司といえば、イアン・セルウェイか。
「はい。イアンなら仕事も出来るし、信用も出来ます」
 ……まあ、彼なら人一倍プライドが高い分、仕事や役割はきちんと熟すだろう。
「まあ、選ぶのは生徒会以外の全学生よ。誰がなるかなんて、わからないわよ」
「その通りだ。俺達が出来ることなんて、彼等のサポートくらいさ」
 今回の立候補者は、姫乃、イアンと、ホームズ家の子女であるメアリー。さて、誰に転ぶか、見物だな。





 夜。
 今日もカレンは俺の部屋にいた。彼女が久しく読んでいなかった、俺の持つ魔導書に目を通していたのだが。
 ……今彼女は俺のベッドの上ですやすやと寝息を立てていた。まあ、生殺し状態なわけですよ。
 だが俺は紳士だ。こんな状況でも自制心はある……。と、思いたいだけなのだが。
 とりあえず、俺はカレンの頭を撫でてみる。
「ん……」
 すると可愛い声を出してもぞもぞとカレンは身じろぎした。心なしかカレンは笑顔になったように見える。どうやら、俺も末期らしいな。
 いままでなら、ずっと一人で生きて行くと意気込んでこんな風に誰かと深く接することなんてなかっただろう。それが、今この娘と共に歩いている。独りだと思っていたと俺の隣に、カレンがいる。それが幸せなんだと実感している。
 俺は彼女の頭を撫でつづけた。
「うにゃ、ユーリしゃん?」
「ありゃ、起こしちまったか?」
 調子にのってしまった。今度は気をつけなければ。
「いえ、ちょっと仮眠を……」
 いや仮眠どころかがっつり寝てたぞ。口がつたないのはそのせいじゃないのか。
 などと不粋な事は言わずに「まあ、別に咎めはしないさ。お前がしたいようにすればいい」と、言ってやる。……なんだかんだ言って、俺も甘いのかもしれないな。
「では、お言葉に甘えて……」
 するとカレンは俺の膝の上に頭を乗せてきた。……これ逆じゃね?いや逆もありなのか?まあ悪くはないが。
 俺はいっそうカレンを撫でつづける。
「……なんか、悪いな。俺が出無精なせいで、デートとかそういう色っぽいことが出来なくて」
 学生をやっているとはいえ、ほとんど研究職みたいなもんだ。加えてエリーからの勅命を受けたりでカレンにあまり構ってやれていない気がする。事実、最近までの半年ほど女王の依頼として世界中を飛び回っていた。……最初はエリーからの嫌がらせかと思ったがそうではないらしい。
 さらにもう風見鶏を卒業ということもあり、時間がないのも事実。おそらく宮廷魔法士になるか、風見鶏に残って教師をやるかの二択なのだが、それにしたってあと四ヶ月ほどしか時間がなかった。
「いえ、別に私は気にしてないですよ」
 カレンは言葉とともに起き上がった。
「だが……」
 そして俺の膝の上に座る。俺はカレンが落ちないようにカレンを抱きしめた。
「んしょっと。……ユーリさんが忙しいのは分かってますし、無理な事は私も言いませんよ。ただ……」
 正面を向いていたカレンは不意に首だけで俺に向き直り、告げた。
「ただ、少しでも長く私との時間を作ってくれれば、ユーリさんの部屋でも、外に遊びに行くのでも、なんでもいいんです」
 そして彼女は笑顔になった。……本当に、出来た彼女だよ。俺は、何もしてやれないって言うのに。
「私は十分してもらってますよ。ユーリさんがそばにいるから、淋しくなんかないです」
 ……久しく心を読まれた気がする。
 俺は何度この娘に助けられただろうか。俺は未だ俺に顔を向けるカレンにキスをした。
「ありがとうな、カレン。俺もお前がいるから頑張れる」
「お互い様じゃないですか。……大好きです、ユーリさん」
「俺も、愛してる」
 こっ恥ずかしいやり取りのあと、俺達は再度唇を交わす。そして―。



   ◆   ◆   ◆



 ……やらかした。
 俺の部屋には朝日が差し込んでいる。では、周りの状況を見てみようか。


 ベッドの周りに散らかる俺とカレンの制服。
 近くにあるテーブルには使いかけのゴム。
 そしてその開けた後のある包装。
 裸の俺。
 同じく裸で眠るカレン。


 もう一度言う。……やらかした。
 いくらあんな状況だったからって普通に手を出しちゃったよ。実を言うと一回目じゃないんだけどね、うん。
 閑話休題。
 とりあえずリッカとかに見つからないようにしないと。とか言ってると……。
「ユーリ、起きてる?」
 ノックと同時にリッカの声が聞こえた。やべっ。
「待て!昨日寝落ちして部屋が災害跡地みたいになってるから片付けてからにしてくれ!」
 我ながらとっさの言い訳としてはいい方だろう。だがそんなものリッカには通用しない。
「そんなこと、いつもでしょう?……まあ、でも部屋は見ないから出てきなさいよ」
 助かった……か?まあ、それでいいならいいのだが。
 俺はすぐに服を着て、扉を開けた。ちなみに、扉がある部屋と個人スペースは日本で言う暖簾のようなもので仕切ってあるから中は見えないはずだ。
「全く、なんで今日に限って」
「いつも散らかってたら見せないだろうが」
「そうだったかしら。まあいいわ」
 突然、リッカが神妙な面持ちになった。
「……どうした、朝早く来たかと思ったらエリーの千里眼に何か引っ掛かったか?」
「察しがよくて助かるわ。そのことよ」
 ふむ、また俺が出ずっぱりになりそうか?
「それが、どうやら近いうちにウィザリカの反乱が起きそうなの」
 ウィザリカとは魔術結社のようなものだ。今の魔法使いの在り方に異を唱えるものの集団。大方、風見鶏のような管理されている団体とは対極に位置するような者達だ。魔法使いの数は風見鶏には遠く及ばないものの、それが全員集まって暴動を起こすとすれば……。
「……ちょっとやべぇんじゃねぇのか……?」
 俺は眉間にシワを寄せた。