D.C.IIISS ~ダ・カーポIIISS~
「そんで、こんな時間に俺を呼び出すってことは、それは今日なのか?」
リッカは首を振った。
「いいえ、それがいつなのかはわからないの」
「なんだと?エリーの千里眼だろ?正確な時間までわからないのか?」
エリーの千里眼の的中率はほぼ百パーセント。それで予測出来ないとなると……。
「まだ計画段階というわけか……」
「そういうことよ」
「それでも、大体の日付はわからないのか?」
「エリザベスが言うには、ワルプルギスの夜よりは先の事らしいんだけど……、」
ワルプルギスの夜、つまり四月三十日以降ということか……。
なるほどな。
「私自身、ウィザリカの所在地なんてわからないし、あなたに頼みに来たんだけど……」
ふむ……。
「言いたいことはわかるが、俺でもわからん。そもそも、隠密行動を得意としている奴らと聞く。それじゃいくら俺でも気付けんよ」
「やっぱりか……」
「悪いな。俺も情報不足だな。ちょっと調べてみるわ」
「お願い」
そういうとリッカは去って行った。
……ウィザリカ……か。またずいぶんと大きく出たな。
「あっ、そういえば」
リッカが走って戻ってきた。
何か言い忘れでもあるんだろうか。俺のすぐ近くまで来ると俺の耳元で話しはじめる。女の子特有の甘いニオイが鼻孔をくすぐるがそんなのはすぐ気にならなくなった。
「カレンといちゃいちゃするのはいいけど、ニオイとかちょっとは気にしなさいよ」
「……お前、それ暗意に自分達もヤってるって言ってるよな」
「さて、何の事かしら」
リッカは微笑を浮かべると女子寮へと去って行った。……掃除、するか。今日が土曜日でよかった。
俺は部屋へ戻るとカレンをすぐに起こし、シャワーを浴びた……一緒に浴びましたすみません。
そして部屋に散らかった物を片付けた。
◆ ◆ ◆
三月二十五日。
今日は今年度二回目の投票日。ちなみに演説は昨日終わっている。
……もう、やってること同じ過ぎて覚えていない。後俺の挨拶に関しては忘れたいくらいなので語らないことにする。エリーめ……後で覚えてろよ……。
しかしこの二週間ほどでいろいろあったな……。俺は投票を受け付けながら考え事を始めた。
「エリー!これは一体どういうことだ!」
あの日、俺はすぐにエリーの元へ向かった。宮廷で、エリーは冷静に待ち構えていた。その隣で杉並が直立不動でいる。だがそれは関係ない。
「リッカさんから聞いたのですか?」
「ああ。今までウィザリカは押さえ付けていられたんじゃないのか!?」
「確かに、あなたの尽力で世界中に点在するウィザリカに関しては無力化出来ています」
そう。俺が半年も世界中をまわっていたのは、各国に存在するウィザリカの武装放棄、または解体任務のためだ。それで、俺は話し合いという方法でウィザリカの解体を進めていた。
そのおかげもあり、ロンドン以外のものではほぼすべての解体に成功し、帰国したということだ。
「それがロンドンのウィザリカは大きく、そして秘匿性が高くてだな、我ら非公式新聞部の力を以ってしても見つけられなかったのだ」
そう話すのは杉並だ。つまり。
「俺が半年かけて世界中を回っている間、何も出来てないってことか……」
俺はため息をついた。最初から予想していたことだが、まさか本当になるとは……。
「確かに、受けた報告の規模からしてもあまり活動していないと思ったら、一斉蜂起に向けて力を蓄えていたと考えれば、つじつまはあうが……」
俺は顔をしかめる。
「もうちょっと、確かな情報はないのか」
「はい。リッカさんに伝えたことがすべてです」
エリーの千里眼でも見抜けないなんて、どんだけおかしい組織だよ、ウィザリカは……。
「なので、ユーリさんには協力してもらいたいのです」
「わかるが、どうやって見つける」
「それは出来ない、ということはわかっています。なので」
エリーは宣言する。
「ユーリさんには、有事の際に女王の鐘を以って召集をかけます」
「……それって今までと変わんないじゃん」
俺は呆れるしかなかった。もちろんそれはリッカにも適用され、俺とリッカには特例として一人助っ人を連れていくことを許可され、今に至る。
「ユーリさん」
そこまで考えたところでカレンの声が聞こえた。
「おっと、どうした?」
「どうした、じゃないですよ。もう投票締切ですよ。集計に行きましょ?」
「あ、ああ。悪い。考え事してた」
……この事は、当分はカレンに言えないな。
そこから先の事は、結果しか覚えていない。なので単刀直入に言おう。今回の選挙では、イアン・セルウェイが当選した。元より信頼の厚かった彼は、先の一件―前回の選挙のときの清隆との一件―での事を反省し、よりいっそう努力した結果、全学生の過半数の票数を集め、圧倒的大差で当選したのだった。まあ彼自身のプライドが、その失態を許さなかったのだろう
それはともかく。
「それじゃあ、イアン、ここが生徒会室だ」
「知っている。だがありがとう、葛城」
俺は清隆とともにイアンを生徒会室まで案内していた。ちなみに、彼の付き人のメイドはいない。名前は何だったかな。後でイアンに聞いておこう。
「しかし、驚きましたよ。<失った魔術師>までこの風見鶏にいただなんて」
「まあ、お前らが入学してから半年ほど世界中をまわっていたわけだし」
聞かれた事には最小限で答える。変に喋って混乱を起こせば本末転倒だ。
「じゃあ、開けるぞ」
俺は扉を開いた。その中には予科二年以上の生徒会役員六人。そして学園長である、エリザベス。……ものの見事に女性だけである。やっぱり男女比おかしいよな。
「馬鹿な事考えていないで早く入ってきてくださいよ」
そう考えているとカレンに怒られた。そのカレンはメガネをかけている。細かい作業をするときなどにかけていたりするが。……なんか、久しぶりに見たな。うん、やっぱり―。
「早くしてください。時間押してるんですから」
「あっ、ハイ。すみません」
……ここでこの予科一年コンビはこう思っただろう。『『<失った魔術師>が圧されている……だと……?』』と。……まあ、仕方ないよね。
「ねぇ、カレン、あいつはどんな事考えていたの?」
「わーっと、悪かったって。そんじゃ、後はパスな」
俺は仕事をすべてシャルルに投げやる。
「うわっ、あからさまね……。まあいいわ。後でヨロシクね、ユーリ」
……ん?
「おいリッカ、俺何も聞いてないぞ」
「あれ、そうなの?じゃあ、エリザベスから説明してもらってちょうだい」
……エリーから、なんだ?まあいい。
「エリー、どういう事だ」
イアンがシャルルから説明を受けているとき、俺はエリーに訊いた。
「……実は、上院の決定で私が"視た"ものを生徒会に報告して、こっちで対処するって事になったの」
「ばっ……馬っ鹿じゃないのか」
俺は一瞬大きな声を上げそうになるが、堪えて静かに言い直す
「私は最後まで反対したのよ。だけど、押し切られて……」
「おいおい、女王様はお飾りかよ……」
「そんなつもりはないですよ。ただ、今の議会も横暴派が増えてきたってところかしら」
作品名:D.C.IIISS ~ダ・カーポIIISS~ 作家名:無未河 大智/TTjr