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無未河 大智/TTjr
無未河 大智/TTjr
novelistID. 26082
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D.C.IIISS ~ダ・カーポIIISS~

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「……じゃあ、中身ってなんだ?」
 その疑問に俺達はニッコリ笑い、揃って答えた。
「「秘密だ」」
「ここを使うくらいなら教えろ!」
 ……結局、次に来るときのお土産バナナ倍増という約束を飲まされた。まあ勝手にここを使ったわけだしそれで手を打ってくれるなら安いものだ。
「では俺はこれで失礼するよ」
 杉並はそれだけ言い残すと事務所を去って行った。
 その様子を見ていた俺は、呟かずには居られなかった。
「……あいつもけっこう神出鬼没だよな。そのせいで前は探すの苦労したし」
 俺は事務所の応接スペースのテーブルのソファーに腰を掛けた。
「昔からあんな奴だろう、杉並は」
 呟きに律義に返答をくれた事務所の主は、俺の前にコーヒーを差し出した。そして自分は自分の事務机に座り、俺の持ってきたバナナをかじりだした。
「……しかし、お前は辛くないのか?」
 美夏は唐突に話を変えて俺に聞いてきた。
「何がだ?」
 頭では何を聞かれているかは分かっていたが、様式美とばかりに俺は聞き返した。
「決まっている。お前の恋人のことだ」
 やっぱりか。
 美夏には出会った時に俺の出自と生きて来た理由を教えている。もちろんその中にはカレンのことも含まれていた。
「……そのことか。前にも言ったはずだ。俺はあいつを待ち続けると決めた、俺の生きる意味はあいつにしかない、ってな」
「ああ、聞いたよ。お前は本当に健気だな」
 美夏の言葉に俺は口に含んだコーヒーを危うく吹き出しかけた。ぎりぎりのところで堪え、眉間にシワを寄せて美夏に言い返した。
「止せ。男がそんなのじゃ困るだろ」
「そうか?美夏は嫌いじゃないぞ、そういうの」
 美夏は食べ終わったバナナの皮をごみ箱に捨てると、俺の目の前に座った。
「お前はいい奴だよ、ユーリ」
 座ったと思いきやテーブルに身を乗り出し、俺の頭を撫ではじめた。
「お前に愛されたカレンという少女は、どれだけ幸せ者なんだろうな」
「……さあ、本当に幸せだと思ってくれていればいいが」
「少なくともロンドンに居た頃は両想いだったのだろう?それを今でも愛してもらえる彼女は、間違いなく幸せ者だ」
 屈託の無い笑顔で俺に諭す美夏。
 ……もしかして、美夏にもそんな風に好きだった奴がいたのだろうか?
 俺はされるがままに呟いた
「ありがとうな、美夏」
「礼はいらん。いい報告を待っているよ」
「ああ、必ず」
 俺はソファーから立ち上がり、鞄を手に出口へと向かった。
「それじゃあ、また来る」
「ああ、いつでも来い!」
 美夏は笑顔で送ってくれた。
 いつか、美夏にいい報告が出来るといいな。



   ◆   ◆   ◆



 数日後。
 俺はいつものように公園を目指していた。
 ゴールデンウィークも中盤を迎え、そろそろ散り出す頃の桜を見に来る観光客も多いが、流石に俺の定位置である奥まで来る物好きはいない
「兄さん、待ってよ!」
「全く、しょうがないな」
 兄妹と思しき少年と少女が桜を目指して駆けて行く。どこか見覚えがある雰囲気だ。顔までは見えなかったが、昔見た友人に似ているのかもしれない。
 俺はその様子を眺めた後、目的の場所を目指した。しかし。
「ユーリさん……ですよね……?」
 それは予想外の存在によって叶うことはなかった。
 掛けられた声に振り返ると、そこに彼女は居た。長く延ばした金色の髪。少し幼い印象を受けるが、その顔を見紛うはずが無い。その少女は、俺の探していた―。
「やっぱりユーリさんだ!ユーリさん、久しぶり!」
 刹那、少女が俺に向かって飛びついてきた。咄嗟に受け止めるが、少女は俺に抱き着いて来て支えることで精一杯になる。
「おまっ、カレンなのか?」
 驚きのあまり声が出なかったが、ようやく搾り出したのがそれだった。
「はい、そうです!」
 カレンと思しき少女は、俺の胸に埋めた顔を上げると笑顔で肯定したこの笑顔にはやはり見覚えがある。彼女はカレンだ。
 ……だがしかし。
「待て、何故憶えている?」
 少し驚いた顔のまま俺はカレンに聞いた。するとカレンは少し何かを考えるような仕種で頬に指を当てた。少しの思考の後、考えがまとまったのか俺に提案をしてきた。
「えーっと、とりあえずあそこでお茶しましょうか」
 そしてどこかを指差した。その先には喫茶店が存在していた。
「まあ、時間はあるからいいが」
 俺はそれを二つ返事で了承し、カレンに手を引かれて喫茶店へと入った。既に昼のピークを過ぎており、中は混んでいなかったため直ぐに座ることが出来た。
「ご注文は?」
 座ると直ぐにウェイターが注文を聞きに来た。
「アッサムティーを」
 カレンはそれに間髪入れずに答えた。
「ユーリさんは?」
「ああ、ダージリンで」
 カレンに促され、俺は慌てて答えた。
「畏まりました。少々お待ちください」
 注文を聞いたウェイターはすぐに去って行った。カレンはウェイターを見送ると、タイミングを見計らって話を始めた。
「うーん、何から話せばいいものやら……」
「ゆっくりでいい。時間はあるさ」
「そうですね。じゃあ、とりあえず」
 カレンは俺をじっと見つめてきた。計らずも俺は赤面してしまいそうになるが、俺はぐっと堪えた。
「私はカレン・アルペジスタが転生した、一条可憐と言います。改めて宜しくお願いします」
 カレン―もとい可憐は俺に深々と頭を下げた。こういう律義な性格は変わっていないらしい。
「とは言っても、前世の記憶……ロンドンに居た頃の記憶は、全部持っています」
 これは変なことではない。実際前世の記憶を持った人間というのは世界にはいる。珍しくはあるが、全くない話ではないのだろう。目の前にその少女がいるような事態が起こってるのでそこを疑う理由はない。
「ロンドンの地下にある魔法学校のこと、そこで私たちが魔法を学んでいたこと、ユーリさんの秘密、そして私とユーリさんが過ごした時間。全部、憶えてます」
 そこで一旦可憐は話を止めた。ウェイターが注文した物を持ってきたからだ。
 恐らく端から見れば、俺達は真面目な顔をして何を話しているのだ、ということを思われるだろう。それを避けるためにも一旦話を切ったのだろう。
「ごゆっくりどうぞ」
 何も言わないところを見ると、このウェイターは話を聞いているわけではないようだ。それが分かった可憐は、再度話を始めた。
「私がそれを知ったのは、小学生の頃でした。自分が体験したはずの無い記憶が私の中にあり、その頃は混乱していました。一度親に相談しましたが、妄想や思い込みの類だと思われたみたいで」
 俺は静かに聞いていたが、心の中では相槌を打っていた。
 確かに、小学生の頃ならそういう事だと考えてもおかしくは無い。それを考えると可憐が異常みたいに聞こえるが。
「……それで、私は一人でそれを解決しようと考えました」
 出されたアッサムティーを少し飲み、可憐は話を続けた。俺も自分の分の紅茶を飲みながら話を聞く。