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無未河 大智/TTjr
無未河 大智/TTjr
novelistID. 26082
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D.C.IIISS ~ダ・カーポIIISS~

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 葵の称賛の言葉に俺はそっけなく返した。理由は一つ。その後ろ人もう一人、人の気配を感じたからだ。
「やあ、スタヴフィード殿。ご機嫌麗しゅう」
「嫌みのつもりか杉並」
 いたのは杉並という青年。確か学年は俺より一つ下……だったはずだ。この二人が揃って現れるということは、理由は一つしか無い。
「……エリーがなにか用か」
「ああ、そうだ。陛下が貴方に用があるとおっしゃるのでな」
 俺やこいつらも所属する非公式新聞部絡みの事だ。イギリス王室を裏で支え、魔法犯罪者の摘発や危険な魔導書などの押収を主な活動としている。それが非公式新聞部。……流石に俺も全体像までは把握していないが、かなりの数の魔法使いがここに所属しているらしい。もっとも、魔法使い全体でいえば小数だが。
「個人的にシェルで連絡でもいいだろうに……」
「情報はどこから漏れるか分からん。だから細心の注意を払ってとの事なのだよ、スタヴフィード殿」
 俺はため息を漏らしていた。
「んで、どうしろって?」
「明朝七時に学園長室まで、だそうだ」
 まためんどくさい時間だ。
「てか、生徒会室で大丈夫なのかよ。大事な話なら、王室へ向かってもいいんだが」
「人払いを掛けるらしいから、万が一に何かあってもグリーンウッド嬢以外は近づけないはずだ」
 なるほど。そんで、話をしようってか。
 ……ん?
「リッカは聞いてもいいのかよ」
 今の話を聞いて出てこないのはおかしい疑問である。
「当の陛下は問題無いそうだ。非公式新聞部の事は関係ないとのことだ」
「じゃあなんでお前らが言伝を頼まれてるんだよ」
「任務のついでだ」
「私はたまたま杉並さんに会ってそれで……」
 俺は再度ため息を吐いた。もういい。そういうのなら仕方ない。足を運んでやろう。明日の朝七時。俺は記憶の中にそれを刻んだ。
「あと、誰か一人連れを連れて来いとも聞いたぞ」
「それを先に言え!」
 ……こいつと話すのは疲れる。俺は再三ため息を吐くのであった。





 その夜。
 俺は自室にいた。そして頭を抱えていた。いやさ、誰か連れて来いってもリッカにも巴にもシャルルにも断られたぞ。他に誰がいるんだよこの野郎。
「あーもう!エリーめ、無理難題を押し付けやがって……」
 ……何故だ。今まで俺はいつも一人で任務をこなしてきたはずだ。なのに何故今更連れを連れて来いだなんて……。
「……しゃらくせぇな……」
 俺はシェルを取り出し、ある人へ繋いだ。……想像に難くないだろうが、それは彼女であった。
 通話を開始してコール数回で彼女は出た。
『何の用でしょうか』
「カレン、少し頼みがあるんだ、聞いてくれないか」
『お断りします』
 予想通りの反応だ。……とりあえず少し説明してから少し切り返してみるか。
『……ですが昨日入学したばかりですよ、私。それだったら同じ本科二年の人とかそれこそ生徒会役員の才媛のみなさんを誘えばいいじゃないですか』
「全員に振られたんだよ。てか、今の本科二年は今年の予科一年の半分もいないことくらい知ってるだろ」
『……それはそうですけど』
「そんで、お前に頼んだわけだ」
『どういう理屈でそう繋がるんで―』
「カレン・アルペジスタ、カテゴリー3」
 そろそろ反論の機会を失いそうだったので、俺は早速カードを切ることにした。
『……!?どうして知ってるんですか?私ユーリさんにその事言ってないですよね』
 そう、これは一部の人間しか知らない、そして俺は知らされていない事実だ。……このせいでエリーを一発殴ってやろうかと思ったのは内緒だ。
「いやー、入学者の基本情報が載ってる資料にも書いてなかったんだがさぁ、一つだけ俺はある事実を知っている」
『……なんですか、それ』
「英国の公爵家であるアルペジスタの家には女児はいない」
 ……俺は数年前まで世界放浪の旅をしていたのでこの事実を知っていた。アルペジスタの前当主とは、古い付き合いだから色々融通を聞かせてもらっていたし、話をした事もあった。……回数でいえば、三度ほど赴いたことがあった。一度目は現在から二十年ほど前。次は十五年ほど前。この二回訪れた時には子供は男しかおらず、彼らの魔法使いとしての素養は普通の魔法使い、それこそカテゴリー1の魔法使いと同じくらいだった。
 しかし三度目に訪れた十二年前。その時には、見た目七歳くらいの女児がその家にはいた。俺はその時の当主―現当主に話を聞いた。どうやら、純粋な魔力持ちとして忌み嫌われ、人を心底避けていた少女を養子として引き取ったらしい。
 ……そういえば、清隆も同じような感じらしいな。しかし一点違うのは清隆ほど荒んでいなかった事くらいか。
「……悪いな、お前の親父さんと爺さんには色々世話になってたもんでな。事情は全部知ってる」
 ただ気づけなかっただけだ。あの野郎、一報くらい入れてくれれば気にかけてやってたのによ。まあ、判断するのはあっちか。
『……それで、どうするんですか?それをネタに脅して私を連れていこうって言うんですか?』
 うん、容易にカレンがジト目でシェル越しに話しているのがわかるぞ。
「……そうじゃねーよ、話が聞きたいだけだ。お前の家の現状とか、お前がここに来た理由とか。嫌なら断ってくれてもいい。ただ……」
『ただ?』
「ちょっとクラスで浮いてるカレンさんにとっては、頼れる人がいればちょっとは気が楽になるかなと思ってな」
『……』
 うわー、黙り込んじゃったよ。これどうすんだよ。
 と、俺はあれこれ心配してみるものの、それは無用に終わった。
『……わかりました。じゃあ、いつどこへ行けばいいですか?』
「あれ、いいのかよ」
『勘違いしないでくださいね。……ちょっと父の友人がどんな人か気になっただけですから』
「そうかい」
『それで、どうすればいいんですか?』
「ああ、えっと、明朝七時に学園長室だが、そうだな……。六時半頃にエントランスまで来てくれ。朝食はそれから考えよう。明日は休みだから、授業の事は気にしなくていい」
『わかりました。それでは』
 といってカレンは通話を終了した。……今思えば、確かに友人のツテという理由でカレンを呼んだのかもしれないが、それとは別に俺はカレンに気が合ったのかもしれない。よくわからないけど。
 そういえば服装の指定を忘れていた。俺は慌ててその旨をテキストで送った。案の定、返事はなかった。



   ◆   ◆   ◆



 翌朝。
 クラス対抗戦の翌日ということで、代表選手やその応援を行っていたクラスの者達の疲れを癒すという目的で明日も含め休みである。……元々休日なんだけどな。
 そんな日に当の俺はというとだ。
「現在午前六時二十分……」
 正直に話そう。
 ちょうど二十分前の午前六時ちょうど。女王の鐘により起こされた。七時じゃねーのかよ。とか思いながらエリーに連絡をしてみると、『もしかしたら起きてないかもと思って鳴らした』と言われた。……確かに起きてなかったけどな。てか女王の鐘を鳴らすなら先に言っとけよ……。まあ、七時に来ればいいらしいし、予定の変更はなさそうだ。
 そんなことを考えながら待っていると彼女は現れた。
「おはようございます」