ある夜の不毛なる攻防
夜更け。若い男女。部屋には二人。寝台はひとつ。
これらの条件の上、彼と彼女が揃った時の状況を加えるならば、男の寝入り端に女が寝台に寄り添った、という具合だ。
二人の影が重なり合ったこの状況下で、考えうる選択肢はそう多くはないだろう。例えば涙をのむような、例えば褥に強く皺を刻むような、そんな一夜とか。
戦いにおいて、人は常に独りだ。協力、連携体制をとろうが、結局の所、個々それぞれが奮戦する事に変わりはない。
自分の身は自分で守れ。この言葉とて、そんな現実を如実に表しているといえよう。
つまり、窮地に助けは来ない。どんなに望んでも叫んでも、この状況に変化をもたらす第三者などいない。己が一人でどうにかせねば活路は無い。そういう事だ。
だが、それでも。戦場で染みついた性根をもってしても尚、誰かと縋らずにいられないのは、この身を危ぶむ恐怖心が警鐘を鳴らし続けるからだ。
固く閉じた瞼がじわりと滲む。現状を拒み、ただただ今が過ぎ行く事を強く念じながら、毛布一枚をもって己を守り覆う。薄く儚い防御壁を握りしめる手は強張り震え、四肢は自然と縮こまっていく。
心の臓が、歯の根の震えが体に直接響く。いっそそれだけしか聞こえないのなら、どれだけの救いとなったか。
自分を恐怖の沼へと突き落とした囁きが、命の鼓動に割り入って、仄暗い声を脳髄へ流し込んでくる。
「大事な所返せ大事な所返せ大事な所返せ返せ返せ……!」
虫も寝付く夜の頃合い。
月明かり差し込む部屋には寝台が一つ据えられている。
その寝台で、この部屋の主は毛布の下で小さく震え、花のかんばせの闖入者は枕元でひたすら同じ言葉を紡ぎ続ける。
延々続く恨みがましい声を浴びながら、部屋の主は決壊寸前の涙目で思った。
もうやだ、この人。
作品名:ある夜の不毛なる攻防 作家名:on