二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

たった一度だけ

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
少しずつ戦争の色を濃くさせゆく軍事大国ミッドガルズの民家で、少女がひとり男を待ち続けていた。

──この先の時代で、ウィノナに「さよなら」と告げる、返り血に染まったダオス。六人の、どこかの誰かに、殺される、ダオス。二度と動かないその身体。
 その映像が思い浮かぶ度、ウィノナは歯を食いしばり、枕に頭を押しつけて実体のない苦痛に耐える。
 声にならぬ叫びをあげた。数えきれぬほどダオスの名を呼んだ。そんなことが、ミッドガルズに来てのウィノナの日課となりつつある。──いつか、ダオスと引き離される日がやって来る。彼の死のタイムリミットが目前に迫っているのだと思うと、ウィノナは少しずつ身体を切り刻まれているかのような感触に陥る。いっそ、殺してほしいと思うほど。
 ダオスになら……殺されても、いい。そんな暗い思考を抱かざるを得なかった。


 その日の夕刻、何日かぶりにダオスは家に戻って来た。ウィノナは彼の帰還を大変喜び、ダオスも笑顔で迎えた。
「すまなかったな。今仕事がたてこんでいたものでな、なかなか帰らせてはもらえなかったのだ」
「ごめんね……。アタシにできるコトなんて、こうやってもてなしとくコトしかないけど……」
 夕食の置かれているテーブルにウィノナはうつむく。向かい合って話しているダオスが、顔を上げるように言う。
「それで十分だ。この家にいる間は、私は、疲れを忘れることができる。……楽しい時間を過ごせる」
「……ホント?」
「キミと出会って、毎日が楽しいと思え始めた。それまでは、故郷を救わなければいけないという重責に押し潰されそうだった。しかし、キミと出会ってからの日々は、私の中でかけがえのないものとして輝き始めた」
 ウィノナは、目尻に涙がにじむのをこらえ、
「ありがとう……ありがと、ダオス……」
 ダオスを見つめて言う。ダオスは、やさしくほほえむ。
「せっかくの夕食が冷めてしまうぞ。さあ、馳走になろう」
 そんなダオスを見て、ウィノナはある決心を固めていた。

 夜の帳が降り、ふたりは就寝の時間に入った。自室に戻るダオスを見送ったあと、ウィノナは、そこに立ち尽くしていた。
 また、脳裏にダオスが殺される映像が浮かぶ。本能的な恐怖にかられウィノナはダオスの部屋の扉を開けた。
「ウィノナ? どうしたのだ?」
 明日の準備の点検をしていたダオスは、突然血相を変えてやって来たウィノナに怪訝な眼差しを浮かべている。彼がそこにいることに、ウィノナは若干の安堵を覚えた。
「何かあったのか? 言ってくれ、ウィノナ」
 ダオスは立ち上がり、うつむくウィノナからは彼の足もとしか見えなくなった。
「ね、ダオス……。……いっしょに、寝てくれない?」
 その言葉を、ダオスは文字どおり捉えたらしく、顔に疑問符を浮かべていた。それに気付いたウィノナはかぶりを振って訂正する。
「ちがうの。アタシを……、アタシを、抱いてほしいの」
「ウィノナ……!?」
 彼女が言わんとするその意味に理解したダオスは、真剣な顔に変わりウィノナの瞳をねめつける。
「それが、何を意味するか、わかっているのか?」
「もちろん遊びでこんなコト言ってるンじゃない。ただ……アタシは……ダオスが……」
 それ以上は言えない。これから先の未来で殺されてしまう、とは──。
 どんなにいとしいダオスでも、いや、誰よりもいとしいダオスだからこそ本当のことを言ってはならない。あのとき眼前でウィノナに別れを告げたダオスの姿と、今のダオスの姿が不思議と重なって見える。
「落ち着け。なぜそんなことを急に言い出す?」
「だっ……だって、ダオスが」
 ――殺されてしまうから。今しか時間はないから。
「私がしばらく戻って来なかったので寂しい、という気持ちはわかる。しかし、その寂しさをそのように埋めることには、私は賛成しがたい」
 彼のその言葉に、突き放されたような気がした。ウィノナの心にヒビが入る。
「イヤ……イヤぁ……!」
 錯乱してウィノナは駄々をこねる子どものようにダオスにしがみつく。そんなウィノナの髪をやさしげにダオスはなでてやる。
「座ろう。気持ちが落ち着くまで私はここにいる」
 ベッドの片隅にふたりは座った。すると、不意にウィノナは口を開く。
「寂しいから……なんかじゃない」
「ウィノナ?」
「中途半端なんかじゃない。ホントに好きな人とするのって悪いコト!? アタシは……アタシはっ」
 顔をダオスに向けるウィノナ。
「ダオスが好きだから。ダオスとならできるって思ったから」
「……ウィノナ」
「ダメかな? アタシじゃ、ダメ?」
 縋るように、懇願するようにダオスの腕をつかむ。
「そういうことではないよ。私も、キミがそういう想いを抱いてくれていることは嬉しい。ただ、本当に私でよいのか、ということを訊きたいのだ」
 あまりにも近いダオスとの距離にたじろぎつつも、ウィノナは首を振る。

「……わかった」
 そう言って、ダオスは、ウィノナの手を取った。
作品名:たった一度だけ 作家名: