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妖アパ 千晶x夕士 過去捏造

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「くしゅん」

寒がりの千晶は手袋、マフラーと雪だるまのような恰好だが(それをカッコよく着こなす)
厚着をしていると言っても、真冬の空の下

俺も両手を擦り合わせながら「そろそろ車に戻るか?」と声をかける

「その前に、お前に話がある」
「別に今ココでじゃなくてもいいだろ?」

話なら車内でも出来る
これ以上、千晶を寒空に放置し風邪でも引かれた、マサムネさんや薫さんに何を言われるか
わかったもんじゃない

俺はベンチから立ち上がり「いこうぜ」と千晶に手を差し伸べる
千晶はその手をマジマジと見た後、ぎゅっと握って「稲葉」と言葉を紡ぐ


「俺は、稲葉夕士が好きだ」
俺を見上げ、真剣な表情で話す

「他の誰でもなく、稲葉が好きだ。お前と恋人になりたいと思っている」

俺はというと、この展開は予想していたが、いざその時となると頭の中は真っ白で…
そもそも俺は「答え」を用意してない
真剣な千晶の告白を無下にあしらうことも出来ず…
恋愛初心者 経験値ゼロの俺は、無い頭でグルグルと考える

「稲葉、返事は?」
いつまでも何も答えない俺に痺れを切らしたのか、千晶が催促する

「ち…千晶…あのな?」
泳いでいた目を千晶の視線に合わせ、恐る恐る口を開く

「あのな、千晶。ごめんなさい!」
と腰を90度に折り謝る

俺の行動に驚いたのか、千晶が「ヒュッ」と息を吸う

「俺はフラれたのか?」
「いや…あの…違うっていうか、何ていうか…」
姿勢を戻し、空いている手で頭の後ろをガシガシとかく

ふぅーーと肺の中の息を吐き、深呼吸を三回
その間、千晶はずっと俺の手を握ったままだった

「俺、千晶のこと好きだよ」
握られていた手が、一瞬強くなった気がする

「だけどさ、どう『好き』なのか俺にはわかんねーんだ」
ここに来るまでの間、考えていたことをポツリポツリと千晶に話した

キスした時、イヤじゃなかったコト
他のヤツと想像した時、イヤだと思ったコト
千晶と一緒にいると、楽しいと感じたコト

千晶は黙って俺の話を聞いてくれた

「俺、経験値ゼロだから、正直どう答えていいのか分からないんだ」

そう締めくくると、千晶は破顔し「わかった。わかった」と
繋いだ手をブンブン振り回す

「なっ!なんだよ!俺、真面目に話してるのに!」
「いや。よ〜くわかったよ。ダーリン」

「なにがわかったんだよ?」
「ダーリンが俺に惚れてるってことがわかった」
「俺、そんな話してねーけど?」
「初心者クンだからね。俺が少しずつ教えてあげるよ」

そう言うと、千晶は立ち上がり俺をギュッと抱きしめた
「なー稲葉。いつか…一緒に住もうな」
「え?!話の展開についていけないんだけど?」

俺の肩に顎を乗せ、耳元で「俺、今幸せだわ」と囁く
息が耳にかかり、「ひゃっ」となる俺を、悪戯が成功したような子供のように笑う

「キス、していい?」
「それって確認することなのか?」

俺はグイっと少し身体を離すと「寒いだろ」と千晶が笑って、両手を俺の頬に添える
ゆっくりと吸い込まれるように互いが近づき、唇が触れる

額、瞼、頬、鼻とちゅっとキスをし、
「口、少し開いて」と言って、また唇に触れる

心臓が早鐘のように俺を打つ
さっきまで寒かった身体は、一気に熱を帯びる
 
互いの舌を絡み合えば、何とも言えない幸福感に満たされる
もっと千晶を感じたくて、もっと触れていたくて、今度は俺から唇を奪った



「お前って経験値ゼロのくせに順応性高いな」
「うっせー////」

「次のステップが楽しみだわ」
「くぅ〜////」

帰宅途中の車内では、千晶にからかわれぱなしだった



俺、稲葉夕士、今年24歳

両親は13歳の時に他界し、中学三年間は叔父夫婦の家に居候

晴れて寮付きの高校に進学が決まった矢先に、寮は全焼

途方に暮れいた俺は、古びた『前田不動産』の紹介で『寿荘』へ住むことになった

寿荘の住人は、人間、幽霊、妖怪、妖魔、精霊と人ならざる者達ばかり

今では第二の我が家であり、愛すべき住人たちだ

魔道書『小ヒエロゾイコン』通称プチや、姦し娘達やマサムネさん達との出会い

沢山の人と出会い、俺の常識は粉々に打ち砕かれ、新しく形成される

そして、千晶直巳との出会い

運命なんて言葉で片付けられない
俺達の出会いは必然だったに違いない

俺の可能性が無限であり、俺の世界は無限なのだ


End