妖アパ 千晶x夕士 過去捏造
何処に行くとも告げられず、きままなドライブと洒落込む
辺りの景色が薄暗くなり、明かりがまばらになってくる
どうやら峠を上っているようだ
「もう少し先に秘密のデートスポットがあるんだ」
「デートスポット?!」
ニヤリと千晶は笑い「そう身構えるな。捕って喰ったりはしねーよ」
と、右手で俺の頭をグシャグシャとかき混ぜる
学生の頃と変わらない、優しい手つきで俺に触れる
嫌悪感もない、むしろ「もっと触れて欲しい」とさえ思えてくる
一人っ子の俺にしてみれば、歳の離れた「カッコイイ兄貴」的存在
人肌に慣れていない俺は、千晶の温もりに両親を重ねているのだろうか?
男同士だと言うのに、キスしても平気だった
これが、アスカやリョウ、マキだったら…どうだろう
あいつ等とは"そういう関係"を望んでいないし、仮に同じ状況になった場合、
俺は無意識に殴りかかっている可能性が高い
では、長谷は?
一式しかない狭い布団で一緒に寝ても大丈夫だ
でも、長谷とは想像が出来ない
長谷は俺の中では「家族」のポジションだ
悪戯でキスをしたとしても、頭を叩いて終わりだろう
その後の展開など、やっぱり想像できない
*
悶々と考えていると、「着いたぞ」と千晶がシートベルトを外した
俺は降車し、辺りを見回す
小高い位置で、周りは何も見当たらない
「こっち」
千晶は手まねきし、少し錆びた階段を下りていく
俺は千晶の後を追った
下りた先は、ベンチが二客ある展望台スペースだった
そこから先に見えるのは…
「スっげーーー!!!」
「だろ?」
周りを山に囲まれた窪みの中に、家々の明かりが灯っている
小さな、小さな宝石箱の様だ
「稲葉、上」
人差し指を天に向け、千晶の指した方向へ自然と顔が上がる
空には満天の星
ほんの少し郊外に来ただけで、こんなにも綺麗な星空が見えるとは考えなかった
「お前は世界旅行中、もっと感動するぐらいの星空を見てるとは思うがな」
と、少し悔しそうに顔をゆがめる
「ああ、確かにインドやアフリカで野営した時は周りに何も無いから
逆に空が明るくてビックリしたけどよ」
俺は上げていた顔を千晶の方へ戻しながら
「それでも、千晶と一緒に見る景色は特別だ」
ニヤリと笑うと、千晶は少し顔を赤らめ「すごい殺し文句だな」とつぶやいた
千晶は俺を迎えに行く途中で購入したペットボトルのお茶を二つ用意し、
「運転するからな」と言って、片方を俺に渡した
「お帰り、稲葉」
「ただいま、千晶」
ペットボトルのお茶で無事帰国の乾杯
俺のブログが本になる計画を話すと、「稲葉先生になるのか?」とケラケラと笑っていた
千晶は、俺達が卒業後も条東商へ三年間勤務していたが、去年の春に別の学校へ移った
「相変わらず女子に言い寄られてるのか?」
「やきもち?」
「べっ!別にそんな訳ねーだろ?!」
「まぁー、田代達のような姦し娘はいないけどな、皆いい子達だよ」
千晶はそう答えると、煙草を咥えた
「煙草、やめねーの?」
「ん、癖みたいなもんだな。仕事病?」
「なんだそれ、アンタ身体弱いんだから少し考えた方がいいぜ」
「稲葉が傍に居てくれるなら、止める」
咥えていた煙草を元に戻し、互いの視線がぶつかる
真剣な顔をして、何を子供じみたことを言ってるのか
これでアラフォーとは信じ固い
「アンタ、ホントに手がかかる」
「だったら、嫁に来い」
「なぜそうなる?」
「じゃ、婿でもいい」
「どっちもお断りだ!」
千晶はワザとらしく肩を落とす
そんな千晶を見て、俺は笑う
会話自体は滅茶苦茶だが、千晶と一緒にいると楽しい
作品名:妖アパ 千晶x夕士 過去捏造 作家名:jyoshico