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No.017
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豊縁昔語―樹になった狐

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■樹になった狐



 その黒い狐は元来、豊縁よりは北のほうにいる種でありました。
 小さいうちなどは豊縁の灰色犬などに似ておりますが、ひとたび成獣となりますとまるで人のように二本足で立ったりいたします。
 北の地には波導と呼ばれる不思議な力を使う犬人もおりまして、その狐はそれにも似ておりましたが、赤黒いその姿はどちらかというとおぞましく、人々からは恐れられておりました。
 そして何より北の地の犬人との最大の違い、それは「化ける」ということでございましょう。
 たびたび人に化けては悪さを成すものですから、人々は彼らを悪狐――"わるぎつね"、"あっこ"などと呼んでおりました。



 さて、ここ豊縁にも一匹の小さな悪狐がおりました。
 もともとは豊縁より北に住んでいたのですが、この悪狐ときたら成獣前だというのに、わるぎつねの中でも特に悪さの度が過ぎたものですから、悪狐の間でも煙たがられておりました。
 そしてある時、さる高僧によって木の実の中に封じられてしまったのです。
 仲間は誰も助けてくれません。
 悪狐はとうとう海に流されてしまいました。

 悪狐を入れた木の実は潮の流れに乗って、長い長い旅をしました。
 そうして長い旅路を経て木の実が漂着し、流れ着いた先、それが中津国の南、豊縁であったのでございます。


 最初に木の実を拾ったのは、海辺を歩いていた青い装束の男でありました。
 男は木の実から出された悪狐を見て、

「おかしな顔の灰色犬だなぁ」

 と言いました。
 傭兵であった男は内陸の部族と戦うためにたくさんの灰色犬を育てていたのです。
 この頃の豊縁は戦乱の真っ只中にありました。
 赤い色の部族と青い色の部族が互いににらみ合い、周辺諸国を巻き込みながら争っておりました。
 男のいる青の陣営、すなわち海の神様を信仰している青の一族は地を走る獣をあまり好みません。
 しかしながら、人が争うのは陸の上が主でありましたから、やはり地を走る獣の助けを借りる必要があったのであります。
 灰色犬とその成獣、噛付犬は比較的扱いやすかった為、陸上戦の戦力として重宝されておりました。
 男は灰色犬の群れの中に悪狐を放り込みました。
 そうして、噛付犬にする為の訓練をはじめたのです。
 悪狐はそれはそれははねっかえりでありましたから、反抗したかったのですが、なにしろ長旅のせいで化ける元気もありません。
 それに訓練の後、男は海で手に入れた食べ物をくれましたから、適当に言うことを聞くふりをしながら、しばらく灰色犬のふりをして厄介になることにしたのです。
 男のところに転がり込んで、しばらく経つと灰色犬達とも仲良くなりました。
 なにしろ同じ悪の属性を持つもの同士、容姿も似ておりますから通じ合う部分があったのでありましょう。
 ですが、別れは無常に訪れました。
 彼らが進化し、成獣となった時、同じようなタイミングで悪狐の姿も変わりました。
 その時、彼と彼らの違いは明確になったのであります。

「なんなんだこいつは!」

 と、男は叫びました。
 相変わらず四足で立つ噛付犬に対し、悪狐は二本の足で立ちました。
 噛付犬は黒いたてがみですが、悪狐のたてがみは血のように赤い色でした。

「こんな獣を持っていたら、お役ご免になっちまう!」

 赤い色を持ったポケモンなどこの世にごまんとおりましたが、彼らにとって赤い色の地をかけるポケモンは敵に他なりませんでした。
 こんなポケモンを持っていたら、青い装束の仲間から勘違いされかねません。

「早く俺の前から去れ! どこかへ消えてしまえ!」

 かくして、男は悪狐を犬の群れから追い出したのであります。
 悪狐は大変に怒りました。
 もともと長居などするつもりなどなかったはずなのですが、何しろ大変なはねっかえりでありましたから、とにかく怒りました。
 ある夜、悪狐は男に化けると鍵を持ち出し、犬達の鎖や束縛を解いてしまいました。
 こうして男の元からは犬達が全頭逃げ出しました。
 けれど、狐は犬達と一緒に行くことは出来ませんでした。
 彼らはもうお互いにあまりに違いすぎたのです。

 犬の群れが去って、男が青から去った後も、青に対して狐は執拗に悪さを繰り返しました。
 漁業用の網が破られたことは一度や二度ではありません。
 水ポケモンが逃がされたり、武器庫が荒らされたりしたことが何度もございました。
 しかも犯人の姿がその度に違い、たいてい味方の姿をしているものですから、陣営にいる者達はほとほと困りはてておりました。
 ですが悪事は長く続きませんでした。
 青い男達の一人がどこからか、逃がされた犬達の代わりにと大変に鼻の利く、よく訓練された噛付犬をつれてきたからです。
 獣の臭いを嗅ぎ分けた噛付犬は男達の一人に襲い掛かり、飛び掛られた男は即座に悪狐の正体を現したのでございます。
 悪狐は青装束の男達とそのポケモン達に取り押さえられてしまいました。
 もはや逃げ場はありません。
 悪狐の命もここまでと思われました。
 ところがその時、陣のあちこちから火の手があがりました。
 夜空を無数の火付矢が飛び、あちこちに刺さりました。
 火の手はさらに増え、夜空を赤く照らしたのでございます。
 それは彼らが敵とみなしている者達の奇襲攻撃でした。
 陣の中に赤い装束を纏った者達がなだれ込んでまいりました。
 彼らは地の力、炎の力を持ったポケモンを好んで使っておりました。
 夜襲をかけた赤い装束の者達は、まずはじめに水ポケモンのいるいけすを押さえると、武器庫に火を放ちました。
 陣は騒然となりました。こうなっては悪狐を構っているどころではありません。
 青い装束の者達はある者は捕らえられ、ある者は斬り殺され、ある者は命からがら逃げ出しました。
 夜が明けたとき、そこにいたのは赤い装束の男達ばかりでありました。

 赤の男達は、役に立ちそうなポケモンを残して、使わぬポケモンを放しました。
 その多くは海に住むポケモンでしたので海に放しました。
 ポケモン達を仕分けた後に、悪狐が一匹残りました。

「こいつはどうする」

 と、赤い装束の男が別の赤い装束の男に言いました。

「どうするも何もこんなやつは見たことが無い」

 と男は答えました。
 彼らの疑問も尤もでした。
 悪狐は本来もっと北に住んでいるのです。
 するとどこからか彼らのお頭(かしら)が現れ言いました。

「悩むことは無い。水かきがついていないのなら、使えばよいのだ」

 もっともだと男達は納得しました。

「それにこのたてがみと爪の見事な赤を見ろ。我らが持つ獣としてはふさわしかろう」

 その一言で悪狐は頭のポケモンとなりました。


 赤装束のお頭はポケモンを強く育てるのが上手でありました。
 より強い技を教え、誰よりも早く進化させました。
 あの青の装束の男が、半年かけてやることを一月や二月でやってしまうのです。