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No.017
No.017
novelistID. 5253
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豊縁昔語―樹になった狐

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 貴方様は天昇上人を捕まえることはできないでしょう。
 渡した地図は正確ですが、一箇所だけ抜け落ちた部分があります。
 その抜け落ちた部分から上人は他国へ逃れるでしょう。
 そうしてどこからかあなたを見ているでしょう。

 悪狐はそのように言い残し、姿を消しました。



 悪狐は二重の裏切りを犯しました。
 主人への裏切り。
 上人への裏切り。
 どちらにもつかなかった故にどちらにも帰れなかったのです。



 龍を見たいなあと悪狐は思いました。
 いつの日か天昇上人が見たという龍を、空を飛ぶ鳥よりも高い高い場所を悠々と飛びながら、この豊縁全体を見ているという、一生地に足をついて生きる者には見れぬ景色を見ているという龍を見てみたいと思いました。
 悪狐はかつて新緑の国と呼ばれたその土地で一番高い山に登ると、一本の樹に化けました。

 山の頂上に立った樹は、晴れの日も雨の日もひたすらに空を見続けていました。
 数年が経ちました。数十年が経ちました。樹はいつしか本来の姿を忘れてしまったようでした。



 悪狐は果たして龍を見ることが出来たのかどうか、それは誰も知りません。
 けれどある時、山に登った旅人がその樹の下で宿をとった時に、その樹が実をつけたことがあったといいます。
 お腹をすかせた旅人はすっかり実を食べると残った種を持ち帰って、故郷の土に埋めました。
 芽を出して若木は成長し、また実をつけて、その地にどんどん根付いていったそうです。
 その地では、今も人々が樹と共に暮らしています。


 ヒワマキシティ。
 それが今のその地の呼び名だということです。