ピロートーク
冗談だとわかる口調でもきちんと否定しないとこの男はやりかねない。
「時間はある」
「ごめんです」
そして、不本意ながら付け加えた。背に腹は代えられない。
「もう無理です」
葉山は羽布団を勢いよく引き上げて、そのままうつ伏せに寝転んだ。まるで猫が拗ねたような仕草だった。
「昨夜はどうした? 随分敏感だったな」
布団から出ている栗色の髪にエディは問いかけた。こう言えば葉山が恥ずかしがることは知っていて、それが見たかった。
「そんな話はしたくありません」
憮然とした声が布団の中から聞こえてきた。律儀に返事は返ってくるが、懸命に恥ずかしいのを悟らせまいとしていることがありありと伝わってきて少し心が躍った。
「満足したか?」
「もう喋らないでください」
エディは笑いを堪え、くしゃくしゃになった葉山の栗色の髪に指を滑らせた。無精をしてなかなか切りに行かない葉山の髪は不ぞろいだが、見た目よりさらに一層やわらかい。エディは葉山が何も言わないのをいいことに指の間を通る髪の感触をしばらく楽しんだ。
「時間はいいんですか」
「良くはないが、まぁいいだろう」
そう言って、エディはひょいと布団を引き下げて葉山の首筋に唇を落とした。
「冗談はやめてください」
「冗談じゃなかったら?」
葉山の首筋に顔を埋めたまま、エディが囁く。性感帯をねっとりと舐め上げた途端にとんできた肘を咄嗟に避けて、エディは今度こそ声をあげて笑った。
葉山はその笑い声に気分を害し、髪の先まですっぽりと布団の中にもぐった。舌の這った首筋がぞくぞくする。シーツに触れる乳首が少し尖っていることが葉山を腹立たしい気持ちにさせた。エディに抱かれた翌朝はいつもこうだった。ちょっとしたことですぐに反応して欲情する。
エディは乱暴に葉山の頭らしき場所を撫でて立ち上がり、椅子の背にかけていたスーツの上着を手にした。
「行ってくる」
すっかり仕事用になったエディの声が葉山の耳に届く。結局いつでもからかわれ通しだ。疲れる。
布団の中で耳を澄ましていると、パタンとドアの閉まる音がする。それからゆっくり20数えて、葉山は布団から顔を出した。
シン、と静まった部屋に雨の音だけがする。用心のために、またゆっくり10数えて口を開いた。
「・・・・・・いってらっしゃい」
それから閉まったドアに向かい、葉山は顔をゆがめて思いっきり舌を出した。