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ガールフレンド

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彼女と同じバンドが好きだ。
 特集の組まれた音楽雑誌を囲んでライブスケジュールを指でなぞって、「東京が羨ましい」と言い合った。宮城公演はあまりない。あっても仙台だ。田舎住まいの高校生としてはやや厳しい。だけど、「チャンスがあったら一緒に行こうよ」と言うので小遣いを貯め始めた。
「何、最近二人仲いいじゃん」
 意味深なニヤつき顔を跳ね除けるような、本当になんでもない笑顔で彼女が手を振る。
「全然そういうんじゃないよ。なんていうかね、菅原は―――」
 少し悩んで、彼女は『戦友』と称した。
 俺は、『ライバル』だと思った。

 部活が終わるとあっという間に解散する。部員は、部活に参加しているメンバーは五人っきり。他に、一年生で練習に参加していないメンバーが三人。
 練習はきつい。それでリタイアしてしまったメンバーを責めようとは思わないが、バレーは基本六人でチームを組むので、このままでは困る。なんとも言えない不安で盛り上がりに欠ける。
 先に帰っていく仲間を見送ってから施錠をチェックして、鍵を持った主将の澤村大地と一緒に部室を出た。
「腹減ったな」
「あー、でも、今日坂ノ下休みなんだよな」
 購買部のない高校の購買部的役割を果たす最寄り商店は都合により店休日。昼にも昼食を頼りきっていた生徒が阿鼻叫喚状態だった。数日前から予告されていたのだから自業自得以外の何ものでもないが。
「あ。飴ぐらいならあったかも」
 何でも詰め込んであるスポーツバッグに手を突っ込んでかき回すと、飴より先に四角い板が入ったビニール袋を発掘した。
「あーっ」
「忘れ物?」
「忘れ物……っていうか、道宮に返すCD持ってきたんだった」
 道宮結は女子バレー部に所属している同級生で、大地と同じく新主将になった。同学年で同じ階に教室があるのだからいつでも返せる、と思ってたら放課後になり、部活終わりの時間になってしまった。
「女バレ、もう帰ったかな」
「あっちの体育館、まだ明かりついてるぞ」
 少し戻れば女子バレー部が活動している体育館がある。だけど。
 大地をちらりと見ると、その視線を遠慮と思って「別に俺はいいよ」と促してくれる。気持ちは通じないものだ。通じても困る。
「じゃあ、道宮がいるか見てくか」
 嬉しくない気持ちは丸めて面の皮の奥にしまいこんだ。断る理由がない。
 女子バレー部が活動している体育館を覗くと、残っていたのは二年生が二人だけ。片方は案の定、道宮だった。
「オーッス、まだやってるのか」
 戸口から顔を出して声をかけると、片付け途中の道宮がボールを抱えたまま駆け寄ってきた。
「帰るトコだよ。菅原は……あ」
 そこで俺の後ろの暗がりで待っていた大地を発見した。手の中で遊んでいたボールが転がり落ちて外へ逃げるのを大地が追う。
 拾ってもらったボールを落ち着きなく受け取って、お礼の声も心なしか上擦っちゃって。片付けを続けている居残り組の片割れ、野中がニヤニヤしている。
 こんなにあからさまでも気づかない大地はどうかしてる。
 あたふたしていつもの調子が出ない道宮に助け舟を出すようなタイミングでCDを差し出した。
「ごめん、早いうちに返すつもりだったんだけど」
「別に明日でも良かったのに……ありがとう」
 その「ありがとう」はCDのことじゃないよな。
 そうこうするうちに、片付けを終えた野中が二人分の荷物を持ってやってきた。
「結、そのボール貸しな。これで片付け終わりだから、あたしが先生に施錠確認頼んでくるから先に帰っていいよ」
 道宮の分の荷物を押し付けるようにして渡して、返事をする間もなく校舎側の出口へと走りだした。それでも俺に目配せすることは忘れない。
「ええ、そんな……」
「とりあえずボール置いてこいよ。待ってるから」
「でも……」
「いいよな、大地」
「ああ、もう暗いし。野中も一人で帰るつもりだったら待ってるよ」
 そんなことをしたら俺が野中に睨まれそうだ。
「野中って俺たちと方向違うし、家すぐそこだったはずだよ」
「う、うん。潔子ちゃんちの方」
「そっか。じゃあ道宮、支度してこいよ」
 そうして大地が話をまとめたので、挙動不審をごまかすべく、ダッシュでボールを用具室に片付け、ダッシュで帰り支度を済ませてきた。
 道宮のそういうところを可愛いな、と思う。素直で、一生懸命で。
 道宮は大地のことが好きだ。

 まだ三年生が部活を引退する前、春先の暖かい日だった。
 卒業間際に人前で告白して成功したカップルがいて、あんまりドラマチックだったために、みんなちょっと浮かれていた。自分の片想いも勇気を出したら叶うような気がして。
 とはいえ、直接の告白は人前でなくても緊張する。そこで渡されたのが可愛い便箋に綴られたラブレターだった。
 手渡ししてくれたのは道宮。最初はまさかと思ったけれど、差出人が彼女の友達だというのはすぐに判明した。
 手紙を手にとって、中を読まないまま、差出人の子の代わりに道宮に頭を下げた。
「ごめん」
「えっと、友達から仲良くなってみるのもナシ?」
「うん」
「すっぱり言うなあ。わかった、伝えとくよ」
「嫌な役目頼んでごめんな」
「全然!そんなの、ホントなら本人が直接渡しに来なきゃいけないんだもの。菅原が謝らないでよ」
 両手をブンブン振って笑う。道宮とは同じバレー部だけれど、男女で使用してる体育館も違うし、出身中学も違った。お互い友達は多い方だし、顔を合わせたら当り障りのない話をする。だけど、親しいというほどじゃない。告白の仲介にも勇気がいったんじゃないかと思う。
「でもさ、即答だったけど、もしかして菅原ってカノジョいるの?」
「まさか。そういうのはいないんだけど……」
「好きな子は?」
「……うん」
 声音や俯く仕草で何かを読み取ってくれたらしい。「そっか」と呟いて、誰かという追求はしないでくれた。
「片想いなの?」
「うん、多分ずっとそうだよ」
「告白しちゃいけない人?」
ラブレターのやりとりができる人気のない場所ながら声を潜めた。何か勘違いされている。
「あのさ、先生とかじゃないよ?」
「え、そうなの?!ごめんっ!でも、違うんだったら、頑張ったら叶うかもしれないんじゃない?菅原人気あるんだよ?」
「うーん、どうかな」
 女の子に人気でも参考にはならないと思う。相手は女の子じゃない。
「どうしても叶わない人なの?」
「厳しいかも」
「そっか。しんどいね」
 大袈裟に同情するわけでもなく、静かにつぶやいて上履きのつま先に視線を落とした。ああ、彼女は彼女の好きな人のことを考えている。
 そう思ったら、迂闊にも口に出してしまった。
「道宮は大地に告白しないの?」
「うええぇ……?!」
 彼女は跳びはねんばかりに動揺してキョロキョロ忙しなく周囲を確認した。誰もないのはラブレターが出てくる前に確認済みだ。
 それから真っ赤な顔を両手で隠して、一呼吸置いてから指の間からちらりと顔を覗かせた。
「…………バレてた?」
「バレバレ」
「やだもー!えっ、えっ、澤村にもバレてる?」
「聞いたことないけど、大丈夫じゃないかな」
「ホントに?」
「多分」
「……………ハァ、菅原のこと信じる」
作品名:ガールフレンド 作家名:3丁目