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ななつとせ

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少女がおっかなびっくりで花畑に戻ってみると、男の子はまだそこにいた。しゃがみこんでいたようだが、彼女に気づいて立ち上がる。そして、手にしたリースを掲げてみせた。
「×◯□×△◯□?」
そうして声をかけてくるが、言ってることがさっぱり判らない。思わず少女は、顔を引っ込めかけたが、いけない、と思い直して、再び恐る恐る顔を出した。少年は、今度は赤いバケツを掲げてみせる。さっき逃げたときひっくり返したものだ。その中に、きちんと草花が収まっていた。拾ってくれたんだ。そう思うと、急にお腹の中が暖かになった。気恥ずかしさより嬉しさが先に立って、お礼を言わなくっちゃと、ととと、と少女は少年の元へ向かう。
「あの、あのね、さっきは逃げてごめんなさい。それとね、お花拾ってくれてありがとう」
腕に抱いたぬいぐるみのタマに半分隠れるようにもじもじと、それでも何とかお礼を言って、少女は恥ずかしそうに少年に笑いかけた。ところが、今度は少年のほうが驚いた顔をする。
「××◯△×◯□……」
よくわからない言葉で困ったように返されて、少女の方も困惑する。どうやら言葉が通じないらしい。
(どうしよう、他所の地域の人みたい。何言ってるか、全然解らないよ……)
困っていると、ふいに彼が持っていたバケツとリースを突きつけてきた。返す、ということらしい。
「あ、うん。ありがとう……」
タマを抱え直して受け取ると、少年は開いた手で自分のズボンのポケットから、なにか片手サイズの機械のようなものを取り出した。
それを見せながら、さらに何か言っている。しかし彼が伝えたいこともさっぱり判らない。だが、解らないながらに、聞き覚えのある単語を拾った。
「え? 『電話』? 『電話』って言ったの?」
すると、少年が明るい表情になって、こくこくと頷いた。
(そっか、公用語なのかな? もしくはそれに近い感じ?)
少女が普段話しているのは、彼女の暮らす地域の言語だが、この世界にはそれとは別に世界共通の公用語がある。上の学校にいくようになれば嫌でも使わねばならないので、少女も現在勉強中だが、正直まだあまり喋れなかった。それに、少年の言葉はその公用語とも若干違って聞こえる。共通点はあるようなので、近い言語なのだろうが、公用語を自由に操れない少女が意思の疎通を果たすのは至難の業だった。
「えっと……えっと、『電話』は『家』なの。『あなたは迷う』してるの?」
公用語といつも使う言葉とが入り混じったおかしな片言で訊ねると、少年はホッとしたようにこくんと頷いた。
「『迷子』××□『交換エラー』□△××。『どこ』□△『データ通信』×□△『ネットワーク』△××□△?」
途端に早口で何やら捲し立てるが、半分も聴き取れない上に聞きなれない言葉が多すぎて少女には少しも判らなかった。
「ま、まってまって! えーと『待って』。『急に』『たくさん』『わからない』よ?」
すると少年は、ああ、と頷いて少し考えた。
「『ネットワーク』『使う』『したい』。『ポートはどこ?』」
ポートが何かはよくわからないが、ネットワークは多分インターネットのことかな、と少女は思った。
「『コンピューター』?」
問うと、少年が明るい表情で頷く。
「えっと、うちにあるけど、パパとママが帰ってこないと使えないかも。…ああ、えっとね『わたしのうちにある』『今使えない』『少し待つ』『いい?』」
片言で問うと、少年が神妙な顔で頷く。
「やっぱりはぐれちゃったの? えと、『お父さんかお母さん』『一緒』『来た』?」
「『おかあ…さん?』」
繰り返して少年は眉を顰める。
「『判らない』」
(どこにいるか判らないってことかな? やっぱりはぐれたんだろな。不安、だよねきっと……)
思って、少女は手にしていたバケツを足元に置くと、その空いた手で抱えていたぬいぐるみの手を取り、それを動かして、少年の腕を優しくなでるようにした。
「大丈夫だよ? きっとちゃんとおうち、帰れるからね?」
顔を覗き込むようにそう言って、それから自分の胸を軽く叩いた。
「えっと『わたし』『名前』ユノハ。ユノハだよ。この子は『タマ』」
今度はぬいぐるみを撫でながら。そうして小首を傾げる。
「『あなた』『なまえ』『何』?」
少年は察してくれたようで、やはり自分の胸に軽く手をおいて名乗った。
「『ジン』」
そして少し躊躇して。
「『ジン・ムソウ』『知らない?』」
知らないか、とはどういう意味だろう。判らなくて不思議そうに首を傾げつつも、少女――ユノハは頷く。
「ジン……ジンくん、ですね。えっとね、よろしくね」
そう恥ずかしそうに笑った。


こうしてアルテアの少年ジンは、この陽だまりの世界の少女、ユノハと知り合うことになった。
作品名:ななつとせ 作家名:SORA