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ななつとせ

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少年ははじめさっきの子供を追うつもりだった。折角見つけた人間だ。現状を把握するためにも話を聞きたかった。だが、転けたせいで姿を見失ってるし、どうも斜面を転がり落ちた際足を痛めたらしい。歩けないほどではないが、走るのはキツかった。この状態で、全速力で逃げるように去ったあの子に追いつく自信もない。ここがどこだか判らないが、どうにも木立や草木の茂みで視界が悪く、どれくらいの広さがあるとか、近くに何があるとかがまるで判らない。下手に動いて迷ったら今より状況が悪化しかねない。それに。
少年は足元に転がっているバケツを手に取ると、そこに散らばっていた草や花を集めだした。これが先ほどの子供の持ち物なら、取りに戻ってくるかもしれない。
彼は集めたそれをバケツに突っ込みながら、その一部をしげしげと手にとって観察した。多分これは「花」と呼ばれるものだ。見る機会は滅多にないが、その程度の知識は彼にもあった。花や草。先ほど木に茂っていた薄い紫も、おそらくは花なのだろう。また随分と色んな種類や色形があるものだ。草に咲くそれと、樹の枝に群れ咲くそれとはまた違って見える。そうして、彼が直に見たことのある花ともまた少し趣が異なっていた。
あれはアルテアと呼ばれる彼の住む世界で、神官という特殊な地位にいる男が持っていたのだ。軍事や政治に直接関与していないらしい割に、議会も、そうして軍部も一目置く、ミカゲという男。彼に対し、誰もが丁重な姿勢を崩すことがない。さりとて、彼が偉いのかというと一概にそうとも言えず、彼の方でも、奇妙に慇懃な態度を崩さない。嫌味なほどに。子供ながらに、少年は彼の神官のことを胡散臭く感じていた。謎めいた男で、何度となく顔を合わせてもいるし、その度見惚れるほどの美しい顔でにっこりと微笑みを向けてくるのだが、決して心の底から笑ってはいないのだと、肌で感じるのだ。褒めそやされ、頭を撫でられても嬉しいとは思えず、なにか気味が悪くて正直積極的に会いたい人物ではなかった。
そのミカゲが花を愛好していて、その居城たる神殿で、独自に栽培しているのだとか言って、度々持参してくるのだ。贈り物だと受け取ったこともある。その花々はもっと大輪で、ここにあるよりさらに色鮮やかで、でもどこか屍体のように乾いて作り物めいて見えてもいた。
この地にある花は、どれももっと小さい。大きめのものもあるが、緑の茎や葉ばかり目立つものも少なくない。でも、大地に群れ咲く姿は、少年が知るそれよりどういう訳か活き活きと見えた。自然に咲く姿を見るのが初めてだからだろうか。小さな花も、それはそれで可愛らしい。というか、小さいのによく出来てるなぁと逆に感心して見入ってしまう。さっきあの子が落としたリースもそうだ。リースは半分だけ薄紫の花が巻きつけられ、バランスが悪かった。作りかけのように見えた。その薄紫の花、木に咲いてたそれも、よく見れば小さな小さな花の群れだ。瑞々しく息づいた、不規則で小さな造形物の無作為な集合体。今見ている世界、そのもののように。
少年はため息を付いて、改めて顔を上げる。ここは本当に、どこなんだろう。天井のあの青の遠さ。ホログラム投影の映像だとばかり思っていたが、ひょっとしてアイアンシーの天蓋の中じゃない可能性もあるのかもしれない。そういえば、高山とか、一部地域には天蓋設置が難しく、抜けている場所もあると聞いた。行ったことはないが、ミカゲの神殿なども確かそうじゃなかったか。とすると、あの青が空、なんだろうか。かつては当たり前で、今は繁栄と引き換えに人が失くしてしまった、空――
と、その時、少年は緑の影から先ほどの子供がヒョコリと顔を出したのに気がついた。

作品名:ななつとせ 作家名:SORA