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【相棒】(二次小説) 深淵の月

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  「…春樹くん。私もうあの頃の子供じゃないわ。」
  「わかっている。」
  「理屈ではね。…しょうがないよね、心で理解してくれるの待つわ。だって…」
  「ん?」
顔を上げた大河内は椀を口元に置いたままじ、と自分を見つめる怜を見た。
  「…たかが刃物持ってるくらいの“あの程度”を、危ないとか言ってたらね。」
  「うん?」
  「ウチのおじさん、逮捕しなきゃいけなくなるわ。」

    「……………」

ウチのおじさん、とは怜がずっといた道場の師範であり怜のおじだ。そのおじを、逮捕?
  「…どういう意味だ?怜。」
  「……………………………………。」
沈黙。ちろんと視線を右斜め上に外す。椀をそのまま、ずずず、と味噌汁をすすった。
  「…んと。とにかく、あのくらいは稽古で日常茶飯事で…」
  「なに?」
  「別に“危ない”の範疇に入んないから、気にしないでくれないかなー、とか…」
思うんだけど。

    ふふふ。

どこかはぐらかすような、どこか妖艶な。底の見えない笑顔で怜は椀を置いた。
  「…一度、君の“おじさん”に会った方が良さそうだな。」
大河内の顔が険しくなっていた。監察官の顔だ。あらら、ヤブヘビ、と怜は苦笑した。
  「そうだね。一度、会いたいっておじも言ってた。いつか…ね。」
  「怜。何があった?」
この八年に何があったのだろう。机に身を乗り出し怜に詰め寄る。あの頃と変わらない生真面目な大河内に怜は少しの罪悪感を抱く。
  「…別に何も。オニのよーに厳しい師範代にビシビシしごかれてただけだよ?」
  「本当に?」
す、と大河内の手が怜の頬に触れた。内心どきりとした怜だが、懐かしいその掌の感触に痺れたような嬉しさを感じる。
  「…ほんとだよ。あ、あとおばんざいと三味線とお茶の師匠にも。」
ふふ、と笑ってその手に頬をすり寄せる。ほんの少し体温が移って怜はあの日の涙を思い出す。

 八年前のあの夜、言えなかった「桐生院の」秘密。怜自身に関するそれを言わなかった事が正しいのか不実なのか怜にはわからない。あまりに重すぎて背負うだけで精一杯だからだ。八年経っても未だに湊を忘れられない大河内に愕然とし、また絆の深さを否応なく見せつけられた。その大河内の隣にほんの束の間いさせて欲しいと願う己の浅はかさと強欲さを、触れた掌から思い知る。
  「…なんにもない。ほんと。」
  「…怜。」
大河内の親指がそっと頬をなぞる。ずるいなあ、と怜は思う。そんなに優しいから、だからつけこんじゃうんじゃないか、と。

    怜は大河内の秘密を知っている。

    大河内も怜の秘密のひとつを知っている。

仲間というより友達っていうより、これってもしかして共犯者?とふと怜は思った。

  『違うか。』

自嘲して怜は思う。

  『春樹くんの共犯者は、湊さんだもんね。』

ならば自分は?


    大河内にとって桐生院怜とは、一体何なのだろう。



  「…春樹くん。コーヒーも持って来てるよ。」
  「…ん?」
  「ショコラのパウンドケーキもある。甘さ控えめ。食後にいかが?」
うふ、と笑って誘ってみた。ふ、と笑って大河内も指を下ろす。
  「魅力的だな。…いただこう。」
  「執務室でいいの?」
  「ああ。今さらだろう。時間は大丈夫なのか?」
  「うん、講義は三時からだから平気。」
  「ちなみに今日の講義はなんだ?」
  「縄文の真実。失われた古代文明について。」
  「…大学の講義でなければ眉唾だな。」
  「ひっどーい春樹くん、それで論文書こうとしてる学生つかまえて。」
  「はは、すまない。」
食器を片付け食堂を出る二人。場に残った全員がはああああ、とため息をついた。退場と同時に一気にざわめく食堂内。
  「おいおい、あのピルイーターが笑ってっぞ。」
  「しかも若いと思ってたら大学生かよあの子!」
  「ていうかなにあの子の仕事量ハンパないんだけど!」
  「バッカだなあ大袈裟に言っただけだろー」
  「バカはどっちよ、あの重箱の中見なかったの!?あんだけ作れるってタダモンじゃないわよあの子!」
  「しかもスッゲー美人!オレちょー好みなんだけどー!」
無責任な噂という名の喧騒。様々な“反響”を呼んでいたその時間、はしっこの方で捜一の伊丹と芹沢が同じ重箱をつついていたのだが、そこがはしっこすぎて誰にも気付かれる事はなかった。しんと静まった食堂の中で洩れ聞こえた二人の会話を吟味し、どうやら学生に手を出すほどピルイーターも腐っちゃいなかったかと妙な安堵を覚えた伊丹。
  「…春樹くんですって。」
  「うるせー芹沢。」
  「つかわかんないなあ~、あの二人結局どういう“知り合い”なんすかね?」
  「……。」
伊丹にとってはどうでも良かった。とんでもない事を怜に言われていたからだ。

    “伊丹さんって、私の理想のお兄ちゃんなんですよ。”

  「…なーにがアニキだ…」

 親ほどトシ離れてるっつーの。


 ふん、と鼻を鳴らして伊丹は煮物の里芋を頬張った。田舎を思い出す味だった。





END.



2011.09.16.