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桑野みどり
桑野みどり
novelistID. 52068
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Solid Air(後編)

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chapter.6


ガン、と扉を蹴破り、グレートは独房に踏みいった。
「…ジェット!」
囚われ人の姿を見た瞬間、グレートの全身の血がかっと熱くなった。
(野郎、ぶっ殺してやる。こいつをこんな目にあわせた奴らを一人残らず殺してやる)
グレートは沸騰するような怒りを必死で抑え込み、今は目の前の最重要任務に集中しようと自制した。
忌まわしい拘束具を断ち切り、自分の上着を脱いで傷だらけのジェットの体をくるんだ。彼の体にできるだけ負荷を与えないように、そっと、そっと、生まれたての赤子を抱くようにかかえあげる。ジェットは深い昏睡状態に陥っていた。
『確保した。…どうすればいい?連れて帰るか?』
しかし、乗ってきたヘリは基地の警戒網に引っ掛からないようにするため、だいぶ離れた場所に置いてある。間に合わないかもしれない。グレートの背筋を冷たい汗が伝った。
『この基地のメンテナンスルームに運んで。005、技師の人を引きずってでも連れてきて!』
『ああ、接触して事情を聞いた。彼本人もジェットを治療させてほしいと強く望んでいる』
『…信用できるのか?』
グレートが低い声で言った。
『そいつはなぜ今までジェットを助けなかった?なぜ治療してやらなかったんだ!?』

「仲間はきみが信用できないと言っているが」
ジェロニモはグレートの言葉をそのまま技師に伝えた。技師は真っ青になって絶句したが、やがて覚悟を決めたように言った。
「そう言われても仕方ありません。治療をするなと命じられ、私は自分の身可愛さにそれに従いました。許せないとおっしゃるなら殺してください。ただし、彼の治療が済んでからです。早く…!私は…どうなってもいいですから…早く彼を診させてください!」
「グレート、これでも信用できないか?」
『…すまん、頭に血が上ってた。そいつを連れてきてくれ。俺もジェットを連れてすぐ向かう』

ジェットを横抱きにしたグレートが隔離棟を出ようとすると、その進路上に一人の男が立っていた。
「助けるつもりかね」
男は冷笑するように言った。
「邪魔するなら殺す」
グレートはぎらりと目を光らせ、男が立ちふさがっている方へ速度を落とさずに進んだ。
「邪魔などせんよ。どうぞ通りたまえ」
男は素直に道をあけた。

グレートが通りすぎる瞬間、男は言った。
「ジェットは君たちのもとには戻らないよ」
私がもらうことにする、と言って男は笑ったが、グレートは一瞥もくれずに足早に歩き去った。


「整備スタッフ全員スタンバイ!これよりジェット・リンク中尉の緊急治療を行います!」
主任技師はメンテナンスルームに転がり込むや否や、かつてないほどの大声で叫んだ。スタッフ一同は驚いて注目する。主任技師の後ろには見慣れぬ二人の男。そのうちの一人が守るように抱きかかえているものを見て、彼らはどよめいた。
「こいつの治療を妨害する奴は命がないと思え」
グレートが悪人そのものの演技で脅したが、あまり効果はなかった。なぜなら、脅すまでもなく全員が、待ってましたとばかり「Yes,sir!!」と応えたからだ。
「武装した犯人に脅されて仕方なく…っていう筋書きにしてやってもよかったんだぜ?」
グレートはにやりと眉をあげた。
「まさか!あなたたちはヒーローですよ」

「早く処置台へ!」
「呼吸器持ってこい!」
慌ただしく、しかし慎重に彼らは動いた。ジェットの体に無数のチューブやバンドが固定されていく。彼を縛るためではなく、救うために。
そのとき、通話機がけたたましく鳴った。表示された番号を見て主任技師は舌打ちした。直属の上官だ。もしや勘づかれたか。なるようになれ、と彼は通話ボタンを押した。同時に、不安をにじませるスタッフに視線を向け、治療の手を止めるなと促す。
「ボス?どうせすぐバレるから先に言いますよ、リンク中尉の治療を行います。邪魔しないでください。ええ、命令違反は承知の上です」
早口でまくしたてるが、相手の反応は予想外のものだった。
『いや、ちがうんだ、きみ。許可はおりている。申請は受理された』
「は…?受理された?本当ですか!?」
『本当だ。つい今しがた連絡があった。きみはそれを知って動いたわけではないのかね?』
戸惑っているような声で上官は言った。
「…知っていたことにしてください」
『私の方でもわけがわからん。とにかく、リンク君はそこにいるんだな?』
「はい」
『では存分にやりたまえ。足りない物資があったら言ってくれ。すぐ手配させる』
「感謝します」
何がなんだか分からなかった。ひょっとして、という表情で技師はグレートを振り返ったが、肩をすくめるポーズで否定される。今考えても仕方のないことだ、と技師は気持ちを切り替えた。
(今はジェットさんを救うこと…!それだけ考えよう)

◆ ◆ ◆

「ボイド、これはどういうことなんだ!」
男が叫んだ。彼はジェット・リンクの『命令不服従および部隊内における騒乱の罪』を追及する査問会の最高責任者だった。
NSAのエージェントであるボイドは、問いかけには答えず一枚の紙をつきだした。
「軍事裁判所からの出頭令状です。内部監査班により、あなたは告訴されました。国家憲兵隊がまもなくあなたを拘束しに来ます」
質問は?とボイドは平淡な口調で言った。
「な…一体なんの…」
「なるほど、思い当たるふしがないとおっしゃる?では言いましょうか。
 一、貴君は先日起こった民間人攻撃事件の隠蔽に深く関わり、積極的に揉み消し行為および捏造行為をおこなった。
 二、貴君は勇気ある証言者であるジェット・リンク中尉をいわれのない容疑で査問会に呼び出し、真実と異なる供述を強要した。
 三、さらに、リンク中尉に対し治療を許可しないなどの悪質な嫌がらせをおこない、また、軍法内規で禁止されている拷問・脅迫行為を繰り返した。
 四、欠陥のある軍用機をそれと知りながら採用させ、あまつさえ危険な有人飛行を行おうとした。さらに……まだ続けますか?」
ボイドは酷薄な笑みを浮かべた。
「もういい!くそ…貴様、はかったな…!」
「何のことやら分かりませんな。ところで先日のリンク中尉の証言は、脅迫によるものと認められて無効になりましたよ。苦労なさったでしょうに…残念ですね?」
ボイドは数枚の写真をひらりと見せつけた。そこには懲罰房で拷問を受けているジェットの姿が、また、書類を突きつけられ、絶望したような表情でペンを握る姿がはっきりと写っていた。男は何も言い返せず、ぐぐ、と唸った。
「ちなみに他の査問委員や、あなたに命令した上層部の人間のところにも、今頃出頭令状が届いているでしょう。お仲間が一緒で、心強いですね?」
ボイドは悠然とした態度で言った。
「それから、ジェット・リンクが回復し次第、民間施設攻撃について証拠映像を提出してもらいます。改めて調査が行われることになるでしょうな」
男はもう一言もなく、椅子に体を深く沈ませて呆然としていた。

作品名:Solid Air(後編) 作家名:桑野みどり