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桑野みどり
桑野みどり
novelistID. 52068
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Solid Air(後編)

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少将は査問会への出席を丁寧に依頼した。もとより、ジェットに不服のあろうはずがない。
「『事実』を証言せよと仰るなら、協力は惜しみません」
「そうか…!感謝するよ。君は勇敢な男だ」
少将はジェットの手を両手でしっかりと握った。
「ジェット。軍人として、そして合衆国民の一人として、君を誇りに思う」
「…ありがとうございます」
ああ。このような人物がまだこの国には、いるのだ。それなら自分はいくらでも耐えられる。何度でも立ち上がれる。じんわりと温かいものがジェットの胸に染み渡った。


陶酔にも似た甘美な満足感は、しかし突然割り込んできた声によって冷却させられた。
「ロストック少将。おいでになっていたのですか」
「ミスター・ボイド!今回の件では大活躍だったそうだね。ご協力に感謝する」
その男を、ロストック少将はにこやかに迎えた。

(なんで…あいつがここに)
ジェットは愕然とした。まるで消毒用アルコール液をびしゃりと浴びせかけられたかのように。ぞくり、寒気が走った。

「ミスター・ボイドは、君が不当な虐待を受けていることに最初に気づき、我々に知らせてくれたのだよ。事件の隠蔽工作を暴くのにも、影に日向に協力してくださった。今回の立役者だ」
ロストック少将は先程と変わらない誠実な声で語った。

「私は別件でこの基地を訪れていたとき、偶然目撃したのです。アメリカの宝であるジェット・リンク殿があのような目に遭っていると知っては、黙っていられるはずがありません。リンク中尉、君が助かって本当によかった」
ボイドは穏やかな表情で微笑んだ。正義感と優しさに溢れたその仮面があまりに精巧なため、一瞬騙されそうになる。しかしジェットは鋭くボイドを睨んだ。
(この男…何を考えてやがる?)


問題は、ロストック少将がボイドを信頼しきっていることだった。
『俺はこのボイドという男に暴行されました』そう言ったらどんなふうになるだろうかと、ジェットは夢想した。言えるわけがない。そう確信した上でボイドはジェットを嘲笑っているのだ。

(ハッ…見下されたもんだ。俺が傷つくと思ったのか?)
ジェットの心に闘争心が湧きおこった。

◆ ◆ ◆

「あんた…何を考えてるんだ?」
ロストック少将が帰った後、一人残った男にジェットは警戒するような目を向けた。
ボイドは薄く笑った。
「前に言っただろう。君を助けたいと」
(…助けたい相手を無理やりねじ伏せたりナイフで顔をえぐったりするか、普通?)
ジェットはうんざりした表情になった。この男を前にすると、どうにも疲れる。

「君の昔馴染みは君を助け出したつもりでいるようだったが、『本当に』助けたのは私だということを覚えておきたまえ」
「ぁあ?どういう意味だ」
ジェットは目つきを険しくした。

「彼らが来なかったとしても、君は助け出される手筈になっていたのだ。私がそのように手配した。…美味しいところは、君の元仲間にさらわれてしまったがね。まあ、結果は同じだ。そして、君の名誉と地位が回復されたのも、私のお陰だ」
そうだろうジェット、と馴れ馴れしい声が耳をざらざらとなでた。

「俺に恩を着せたいのか?」

「そうだね、ジェット。君は義理堅い男だ。私の働きがなければ、民間人攻撃事件も『なかったこと』になっていた。君は人々を守れなかっただけでなく、その無念を晴らすことさえ、出来なかっただろう…私の助力なしには。どうだね?自分の無力さが悔しいだろう?」
「…っ!」
ジェットは拳をきつく握りしめた。ボイドの言葉は核心を突いていた。まるで心を見透したかのように、ジェットの弱い部分を的確に攻めてくる。暴力など、なんでもない。侮辱にも耐えられる。しかし、『正義を貫く力がない』と指摘されること、『守るべき人を守れていない』となじられることは、どんな拷問よりもジェットを苦しめた。

「そこで提案だ。ジェット、我々のところに来たまえ。そうすれば君はもっと自由に、君自身の正義を貫ける。一軍人には出来ないことでも、NSAのエージェントならば出来るだろう。我々は君を利用する。君も我々の力を利用するといい」
ボイドはジェットの顔に触れ、前にナイフで傷つけたあたりの皮膚を指でなでた。首筋を、鎖骨をなぞり、失われた左腕の先端を舐め上げる。わき腹のえぐれた穴に指を入れ、ぐちり、内部の組織を掻き回した。
「どうかな?悪い話ではないだろう」

ジェットはボイドの手をあえて振り払うことはせず、されるがまま、石のように冷たく静かにしていた。そんなことで自分を辱しめることは出来ない、心を揺るがすことは出来ないという、ボイドへの無言の抵抗だった。

「返事はすぐでなくても構わないよ。君も今は何かと忙しいだろうからな」
そう言って満足そうに笑うと、ボイドは部屋を出ていった。

ジェットの心はもう決まっていた。
(いいだろう…利用できるものは何でも利用してやる)
自分はもっと強くならなければならない。ジェットは力を、揺るぎない正義を実行できるだけの強さを、ひたすらに渇望した。


――たとえどれだけの犠牲を払っても。
作品名:Solid Air(後編) 作家名:桑野みどり