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【相棒】(二次小説) 深淵の月・柘榴の目

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伊丹が言っていた湧き水も美味しい山だ。そんな、と顔に出ていたらしい、ととっと二度跳ねて顔に近寄り柘榴がすいと嘴をすり寄せてきた。頬に冷たく固い感触。
  〈仕方ねえさ、山ってのぁ手入れが必要だからな。世話すんのがじいさんだけで荒れる一方だったんだ、むしろその方がいいかもしれねぇ。〉
  「そういうものかしら…。」
これも時代なのだろうか。それとも柘榴が夢で言った「予定調和」なのだろうか。
 私が化け物を倒した事も?柘榴と出会った事も?

    その化け物が鬼喰いだった事も?

  「…私はただの人間じゃないわ。」
  〈承知の助さ。〉
  「私の中にいる“もの”も、知ってるの?柘榴。」
  〈おめぇさんよりも詳しくな。〉
怜の瞳が見開く。柘榴の金色の瞳は静かに怜を見ていた。
  〈それに、おめぇさんがロクでもねえ男に岡惚れしてるってのもな。〉
くつくつ笑う柘榴。ちょっと岡惚れって!と怜は憤慨した。
  「ちょっと!それまさか春樹くんの事じゃないでしょうね柘榴。」
  〈八年も死んだ情夫(いろ)が忘れられねえうじうじした野郎の事さ怜。〉
絶句した。それに反論出来ない事に愕然とした。
  「…カラスに言われる筋合いじゃないわ。それに春樹くんとはなんでもないのよ私は。」
  〈そうかい?おめぇさんの相方は腹に溜まったもンがあるみてぇだがな。あっしはその相方に賛成だぜ、お嬢ちゃん。〉
  「…。」
気付いていた、それには。嵯峨崎仁の大河内春樹へのわだかまり。それは大河内が鬚切を手にしてからいっそう強く大きくなったものだ。
  〈まあ、いい女がロクでもねえ男に惚れちまうのはいつの時代も変わらねえこった。だが安心しな怜、あっしが奴のケツを引っぱたいてしゃんとさせてやらあな。〉
  「ちょっ、大きなお世話よ!第一あんたを私の側に置くなんて言ってないわ!」
  〈おめぇさんの許しなんざいらねぇやな、あっしぁ風来坊だからよ、どこにでもふらりと居ついちまう風まかせの旅烏だ。〉
そりゃ確かに。
  〈だからこれから、あっしがおめぇさんを助け(すけ)てやらあな。よろしくな怜。〉
  「って却下よきゃっか!認めないわよ柘榴!」
だがばさりと羽ばたき柘榴は空へと旅立った。怜の上空を旋回し、すいと山を下りる道を辿った。暫く呆然とその姿を見ていたがやがてはああとため息をつき、怜は山を下り始めた。
 時折木の上で時折道に下りて、柘榴は怜を先導した。とっとっ、と跳ねる体が可笑しい。やがて怜はクスクスと笑ってその手を差し伸べたのだった。
 肩に留まってゆらゆら揺れる不可思議な烏。電車やバスでは自力で飛んでよ、と念を押せばカア、と鳴いた。爆笑する怜を見つめ、金色の瞳が柔らかく輝いた。






End.


2011.11.04.