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【相棒】(二次小説) 深淵の月・らせん

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 夜、ベッドに入って怜は思い出していた。小野田と出会った十五年前の事を。
 当時の怜は五つ。頑是無い子供だった怜には事の判断力などあろう筈もなかった。ただ大人達の思惑に振り回され、いいように扱われていた。そんな中で出会った当時警察庁公安部長だった小野田公顕。年に一度、桐生院家の正月に集まる情報局関係のトップ達に混じって彼はいたのだった。本来なら警察からは長官と官房室長しか列席しない筈の通例を破り当時の警察庁長官がゴリ押しで連れて来た人材だった。あれ以来しばらく公安トップも列席していたが事が露見した後一切シャットアウトした。怜の公安嫌いはここからだった。
  『僕はきみの友達にはなれません。だけど仲良くしたいとは思ってる。それでもいいかな?』
 しゃがみ込み目線を合わせ、丁寧に訊ねてくれた小野田。それだけで怜にとっては充分だった。それから二年、怜は小野田を慕い小野田も多分、怜をかわいがっていた。打算と計算づくしだったにしても。
 怜のなかに潜むモノ、それを日本国家は扱いあぐねていた。千年の昔から脈々と桐生院当主の内に潜み機会を窺っていたそれを、科学技術の進んだ現代に於いて「飼い慣らそう」としたとてそれは無理からぬ事だった。しかしそれはかのモノを抱く「器」ごとという事になり、そうなれば一個の人間の人権と尊厳を踏み躙る事と同義である。某庁や某室はかなり無茶なプランを立案していたが警察庁はそれを跳ねつけていた。逆に危険だという小野田の意見を重視し、長官もそれに賛同していたからだ。『相手はまだ子供ですよ。赤子の手を捻るというのはこんな時に使う為の慣用句でしょう。』そう言った小野田の顔は笑っていた。もっと残酷な言葉も吐いて棄てた。信じたものに裏切られるというアイデンティティの崩壊を、怜は七つの年に経験した。あれ以来「大人」はまず「探る」事にした。それが自衛であり自衛というものは力無い者にとって専守防衛なのだと怜は自らの体験で知った。
 怜はまた大河内春樹の事も思う。八年前、彼は傷ついていた。湊哲郎を失ったばかりの彼は打ちひしがれたままただ日々を生きていた。だがまさかそれが八年経った今も続いているとは思わなかった。時は嫌でも記憶を薄れさせる。望まなくても消える記憶、忘却という現象は本来優しさである筈だ。なのに大河内は湊を忘れられない。それは絆の深さなのか大河内自身の弱さなのか。怜にはわからなかった。生きる事を拒否するかのような大河内の頑なさは怜にとって不安と心配の苗床だ。けれどそれを仁と柘榴は気に入らないらしい。そして、小野田公顕も。
  「…まさか柘榴と同じセリフをあいつが言うとは思わなかったわ。」
 ふふ、と笑い額に手を置く。眠れない。過去に囚われて過去だけを見る夜は眠れない。垣間見た杉下右京の過去もまた辛く、勝手に読んでしまった事が後ろめたかった。望んだわけでもなくわざとでもなかったけれど、知ってしまったことは事実だったから。ごめんなさい、と怜は心の中で詫びる。明日特命係に行ってみようか。杉下にさりげなく聞いてみようか。それとも常の通り完璧にしらを切り通そうか。わからない。こと杉下右京という人間に対してどう行動していいのか、怜にはわからなかった。
  「嫌われたくない…から…よね…。」
理由はひとえにそれだけだった。そしてその理由は神戸尊のそれと同じ理由。杉下を追いかける神戸。騙しながら後ろめたく、いつも許しを乞いながらそれでも任務のために嘘をつく。同じだわ、と怜は思っていた。自分と神戸は同じだと。
 でも神戸は自らの意志だけでそれを解消出来る。だから言ってしまえばいいのに、と怜は思っていた。正直に言えば杉下はきっと簡単に神戸を許し側に置くだろう。なんて羨ましい、と面憎く思う。怜が望むことすら許されないことを、神戸はやすやすと手にする事が出来るのだから。
  「…。」
ふう、と息を吐く。眠れるかな、と天井を睨む。瞳を閉じて意識を沈める。無理矢理辿り着く眠りの岸辺はいつも荒れている。それでも怜はそこに留まる。現実よりはましな世界だから。

  〈…杉下右京、ねえ…。〉

 くつくつ笑うように揺れる首。白い傷でしかない左の目に映る小柄な男はひどく興味をそそられた。不可思議なカラスは優雅に翼を広げ、ばさりと闇夜に羽ばたいた。向かう先はどこなのか、それは誰も知らないらせんの先かもしれない。






End.


2011.11.13.