【相棒】(二次小説) 深淵の月・わたしの人形はよい人形2
「松宮。アンタの自業自得やで。」
怜が楽しげに言った。何重もの糸に縛められたままそれでも楽しげに。思わず振り向いた松宮の瞳に、真っ白の糸に埋もれつつも不敵に笑う怜が映った。
「普段彼らは絶対に出てけぇへんねん。せやけど仁の命が危ないて判断したら即座に出てくる仁の最強のしもべ達や。」
「コラ怜、しもべちゃうわ。ダチやてなんべんゆうたらわかんねん。」
《し、しもべですって》
斜の位置から眺める女郎蜘蛛の複数の瞳に更に現出するそれが映っていた。ずずず、もはや腰の下まで出てきたそれは紛うことなき姿をしていた。次の瞬間にはびゅる、と奇妙な音を立ててその存在が現世に現れていた。宙を飛びストンと身軽に地上へと降り立った。仁の背中を守るように立ち、その浅黒い肌の不可思議な存在はおぞましい姿と成り果てた松宮と蜘蛛を見つめた。
オリハルコンのロッド、先がきゅうと顔に向けて曲がっているどこか滑稽な蒼い三角錐のハット、服は上から下までブルーのひとつなぎでボディにぴたりと沿ったそれは腕や脚の側面に編み込みが入っており伸縮を効かせていた。編み込みの先は爪先にまで及んでいてつんと尖った先端に繋がっている。ショールのようなセルリアンブルーの胸当て(マジックシールド)が斜めに装着され左の二の腕までを羽織るように覆い右肩で留められている。縦長のダイヤ形のクォーツを両耳のイヤリングとしこの穢れた空間に一条の清らかな光をもたらしていた。
紛うことなき姿。魔術師(マジシャン)である。
《お、おまえ、なにもの》
蜘蛛のボディの上で松宮遙がそのマジシャンを指差し腕だけでなく全身をわなわなと震わせていた。あまりに非常識な存在にキャパシティを超えたらしい。現状の自分もたいがいなのだが仁の背後に立つ者は確かに常軌を逸している。
「地獄のお使いや、松宮。」
<マスター、ご指示を。>
きいいぃん。マジシャンがすいと正眼に構えたロッドの蒼い石が振動していた。耳障りな金属音は戦闘機のタキシングのように空気までも震わせた。状況について行けず愕然とする松宮の黒い目に蒼い石から放たれるあまりに眩しい幾筋もの閃光が映る。“ぼんっ!”また破裂音、キョウコの胸の部分までシールドが消えていた。きいいぃん、金属音が耐えられないほどの周波数になった時仁が叫んだ。
「蒼の魔術師(ウィンマジシャン)ダー・レグ!閻魔に代わってお仕置きや、マキシムでいてもうたれ!!」
<イエス、マスター。>
【 キン! 】
空気も空間さえも切断されるような音が響いた。
2011. 11. 26. - 2012. 02. 10.
作品名:【相棒】(二次小説) 深淵の月・わたしの人形はよい人形2 作家名:イディ