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【相棒】(二次小説) 深淵の月・わたしの人形はよい人形4

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最初に気付いたのは仁だった。“聞く”に特化した仁の“聴力”が空間のひずむ音を聞きつけたのだ。
  「怜。きたで。」
すぐに怜にも聞こえた。“ズズズ”という地響きの重低音だ。
  「…松宮。」
小さく声をかけてみたが松宮の様子は変わらない。ぼうっとただそこに居るだけの人形のようだ。く、と唇を引き結び怜が顔を上げる。天井を見上げその先にいる筈の友の名を呼んだ。
  「柘榴!」
  〈おう、終わりやしたかい。〉
  「うん、お待たせ!カンちゃんとキョウコさんは私と仁が運ぶわ、あなた松宮をお願い出来る!?」
  〈おう、がってんでさ。てことは守りも要るんでやすね?〉
  「同時に三人もシールドしながら運ぶんは無理やろ柘榴!俺がキョウコさんにヒーリングしながら運ぶよって、おまはんは松宮頼むわ!」
  〈承知の助でさ。〉
言葉と同時に地響きが増した。微かに揺れが伝わってくる。神戸とキョウコを覆っていたシールドがふっと消え、新たに座り込む松宮をぼおっとレースのような煌きが覆った。そして瞬時に消える。あれま、テレポートまででけるんかいなあのカラス、と二人一緒にびっくりしていたらそれどころではなくなった。さながら大地震のような揺れが襲ってきたからだ。“ドオン”。下から突き上げるような大きな揺れだった。
  「うわアッカン、怜、とっとと逃げるで!」
  「わかった!」
些か焦りつつも迅速に行動する。ぐらぐら揺れる地面をものともせず駆け寄り、仁がキョウコをそっと姫抱きに抱き上げて土階段へと走る。怜も神戸へと駆け寄りちょっとすまなそうな顔をした。
  「えっとー、ごめんやでカンちゃん、男のプライドはこの際どっかにほかっとってなぁ。」
そう言うが早いか怜は神戸の長身をいとも簡単に抱き上げたのだ、しかも姫抱きで。これは古武術を修めた怜と仁にはしごく簡単な技の応用でしかないのだが、しかし神戸が覚醒している時には絶対に出来ない所業である。仁は百二十キロまで怜は八十キロまでなら軽々と抱きかかえられるのだが人前で実践して見せた事はあまりない。それでもこんな緊急事態では役に立つ技だった。
  「仁、ここの人達は大丈夫なん!?うちらも魔術師さんに協力した方がええんちゃう!?」
階段を駆け上がりながら怜が心配そうに訊ねる。カラカラ笑って仁が請け合った。
  「ほんな事したらダー・レグにどつかれんで怜、マキシムまでいかんでもこの程度の穴やったら簡単にガードしよるわ!さっきから通信はしてる、俺らが脱出するまで天井も絶対に落ちひんで!」
  「わかった!」
怜も笑って了承した。二人揃って凄いスピードで階段を駆け上がり、永劫に続くかのような段を着実に征服していった。
  「突破ァ!!」
仁がフローリングの廊下へと飛び出す。途端に足元を取られそうになった、揺れはガードの効いた異空間よりも現実世界のこちらの方が酷かったのだ。すぐに体勢を整えて怜に注意を促し、仁は左の玄関へと駆け出す。怜もそれに続き殆ど同時に屋外へと飛び出した。
  「「うわっ…!!」」
ドオン。二人揃って地面へ投げ出された。さすがの二人も震度六に近い揺れでは立っていられない。咄嗟に神戸とキョウコを庇って転がる辺りが訓練の賜物といえよう。体を起こして神戸とキョウコを自らの膝に横たえ、二人は揺れが続く中でもほっとした。しかし。
  「ちょっ… 」
怜が絶句した。見上げた家が、目の前であの闇の家が崩れていったのだ。
  「うわマジかいな…」
仁も呆気に取られてその様を見上げていた。昔見たホラー映画のシーンのようだと怜は思った。ばらけて落ちる板壁、波打つ瓦屋根。二階部分がべしゃりとひしゃげ、その自重で次の瞬間一気に一階まで崩れ落ちた。音もなく、ただ家そのものの叫びすらも地響きにかき消されたかのようにほんの一瞬でその家は崩れた。土煙が二人を襲ったがそれも僅かの間だけだった。本当に家一軒が崩れたとは思えないほど呆気なく闇の棲家はその存在を消滅させたのだった。が、揺れはまだ治まらない。ぎゅっと横たわる二人を怜と仁が庇った時、いきなり物凄い地鳴りがした。

    【 ボゴッ!! 】

 はい?と二人顔を見合わせるような素っ頓狂な音だった。松宮の家のすぐ北側、家の壁に密接した場所がなんだかおかしい。
  「「 …。 」」
しかしあまりの揺れでさしもの二人も身動きが取れない。やがてゆっくりとだが揺れが治まっていった。山全体を揺るがすようだったそれが緩やかにその震動を鎮めていく。五分もかからず完全に“停止”したかのような静寂が訪れた。それでも暫く辺りを窺って、余震の心配をしつつも怜は様子を見に行こうと決めた。キョウコを手離せない仁を手で制して怜がそっと神戸を地面に横たえる。ごめんなあ、と心の中で謝って小走りにそこへ駆け寄った。
  「…!!」
そこには巨大な穴が空いていた。地下に掘られた空洞に天井が落っこちたという格好だったが怜にはすぐわかった、そこが先刻まで居た禍々しい空間だったと。なぜならそこには大勢の人形たちがいたからだ。
  「…あ」
あれだけ揺れたにしては体への損傷もなく、彼らはそこに横たわりただ眠っているかのようだった。それを裏切るのはどこか投げ出されたような遺体の姿勢だ。うつむきになっていたり横倒しになっていたり、ぐるりと円を描いてそれでも彼らはその身を投げ出し横たわっていた。落ち込んだ天井部分はちょうど壁際に並べられていた遺体を避けたどまんなか部分に落下していたので、土砂と瓦礫が遺体を傷つける事もなくまた誰かが上から見下ろす障害にもならなかった。奇跡と呼んでもいいほどの確率で彼らの体は無事だった、しかしそれでもそこに溢れているのは死だった。紛れもない、何の慈悲も無いたった一つの真実。「死」だけであった。
  「…。」
繋がっている仁にもそれは“見えた”。緩く顔を逸らし瞳を閉じる。ぺた、と怜はそこにへたりこんだ。つい今しがたまで対峙していたが異空間のせいで意識しなかった“彼ら”の“現実”が、圧倒的なまでの力で怜に襲い掛かっていたのだ。なんやねん。なんやねんこれ。怜の内に怒りとも悲しみとも言えぬ激しい感情が湧き起こっていた。

    “ブゥン。”

 突然羽音のような震動音。次の瞬間きらきら輝くレースを纏ったようなヒトガタが浮かぶ。松宮遙がどことも知れない場所から姿を現し、仁が座り込んでいる地面から数メートル離れて実体化した。へたりと座り込んでいるかのような松宮は先刻と変わらない様子で、しかし奇妙なことに最初に着ていた虹色のロングドレスを身に着けていた。「?」と小首を傾げた仁の側に怜のレザーコートがふわりと落ちる。ははあ、こらぁあのカラスのサービスやなと気を取り直した仁、明るく空中に声をかけた。
  「柘榴。おつかれさん。」
  〈おつかれさんでござんす。ちょっくら拾いもんしてやしたんで、遅くなりやした。〉
  「拾いもん?」
仁が訊ねた返答のようにまた空間に何かが浮かぶ。布製の袋であった。
  「?なんやこれ?っとうわ!」
ぼと、と遠慮なく仁の手の中に落ちたそれ。意外と重くてびっくりしたのだった。
  「ってなんやねん柘榴!」
  〈松宮遙の“戦利品”でさ。〉