二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【相棒】(二次小説) 深淵の月・わたしの人形はよい人形4

INDEX|2ページ/9ページ|

次のページ前のページ
 

  「戦利品?」
驚いて問い返す仁の頭上にふっと片目のカラスが姿を現した。ばさっと羽ばたき仁の左肩に留まる。仁は袋の中を漁りたかったのだが指紋がつく事を考慮し、口を開けた中を窺うだけにとどめた。
  「なんやこれ…アクセサリー?ん?携帯も…免許証まで、えらいぎょうさんあんなあ。」
  〈あそこで人形になっちまってる別嬪さんがたの、所持品でさ。〉
弾かれたように肩を見やる仁。怜も肩越しにぼうっと振り返った。
  〈よく言うでやんしょう、れんぞくさつじん、特にかいらくさつじんってやつの下手人は、その手にかけた人間の持ってるもんを集める、ってね。〉
仁の瞳が見開く。
  「これ…松宮遙のコレクションかいな…!」
  〈そういうことでさ。〉
翼を少しだけ持ち上げちくちくと羽づくろい。不可思議なカラスは実にカラスらしく体を膨らませるとぶるっと震わせた。
  〈胸糞悪りぃがね。〉
カア、と珍しく鳴いた。怜がふらりと立ち上がり仁と柘榴の許へと歩み寄った。
  「…仁。私も見せて。」
  「…ん。」
コートを再び着込んで仁の傍らに膝を落とす。一緒に覗き込んだ怜は様々な人間のとりどりの装飾品を見た。有名ブランドの限定品のタイピン、スカーフ、シルバーのブレスレット、結婚指輪、ダイヤのネックレス。なかなか趣味の良いものばかりが揃っていて、あの穴に囚われていた人々は見目麗しいだけでなく己を飾るにふさわしいセンスもしっかりと持ち合わせていたようだった。きっと頭の回転も速く“綺麗なだけで中身空っぽ”という輩では決してなかったのだと怜は悟った。その人達がなぜ松宮と知り合ったのか、なぜ簡単にその毒牙にかかってしまったのか。土蜘蛛という物の怪の力はあるにせよ、なんとか回避出来なかったのかと怜は歯噛みする。悔しかった。助けられたのが神戸とキョウコただ二人だけだったという事実がただひたすら悔しかった。
  「あ。」
 きらりと光ったものがある。男物の腕時計の陰から覗いていたのは小さな真珠のイヤリングだった。
  「あ、これ。キョウコさんのんとちゃうか怜?」
  〈そのようですぜ。怜が今してるやつとおんなじでさ。〉
  「ああ良かった、もう片方もあったんだ…!」
ほっと胸を撫で下ろした怜。と突然怜の左の耳朶にはめていたイヤリングが重くなった。
  「!!」
ずしん、といった具合に重みが増して思わず体を折った。びゅうっと風がらせんを巻いて舞い上がり、怜の真珠から何かが飛び出して行った。
  「あ!おい、アンタら…!」
仁が見上げて叫ぶ。白く光を放ちながら次々に真珠から飛び出し、天へと昇ってゆくそれは土蜘蛛から救い出した犠牲者たちの魂であった。
  「うわ…」
  〈こいつぁ…〉
それは壮大な眺めであった。自由を手に入れた魂が正に浄化の光を放ちながら天へと駆け上ってゆくのだ。十を超える魂は隊列を組むように一直線に並び上昇する。そしてある地点で向きを変え、怜と仁、柘榴の頭上をぐるぐると回ったのだ。きらめく光、一緒になって見上げた怜の瞳にもその喜びを届け、一度ふわりと仁を取り巻いて一気に加速し空へ向かった。キラリと最後に煌いたまばゆいばかりの一条の光。それは救えなかったと責めるなと、優しく告げているかのようだった。
  〈…おでれぇた。大川の花火より綺麗なもんはねぇと思ってやしたがね。〉
  「長生きはするもんやな柘榴。」
  〈ちげえねぇ。〉
くつくつ笑う年経たカラス。
  「仁。なんて言ったの?」
その怜の言葉に仁はまっすぐ同志を見やる。
  「…酷い事ゆうてゴメンて。」
  「うん。」
  「ほんだら“わかってるからええよ”って。ゆうてくれはったんや。」
あの地下で、松宮をたばかる為に仁が言い切った“どうせ死んでもぅてるしな”という一言である。あの言葉を告げた後仁がどれだけ自らの心を傷つけたか、怜には嫌というほどわかっている。だから詫びずにいられない彼の性格もわかってはいたのだけれど。
  「…やさしいね。」
  「…せやな。」
だからこそ哀しい。救えなかった事が痛ましい。けれどその後悔は今だけにしよう。少なくとも神戸とキョウコは救えた。その事実を喜ぼう。そう切り返す為にはもう少しだけ時間が必要だったけれど。
  「…カンちゃん。」
 再び神戸の頭を膝に抱く。そっと髪を梳いて怜は目覚めない神戸の体調を慮る。すぐ傍では仁が怜の携帯で救急要請をしている。医者である仁に神戸とキョウコの容態の説明を任せ、怜はただ神戸の身を案じていた。体だけでなくその心もである。ととっと跳ねてカラスが地面から神戸の綺麗な顔を覗き込む。実は柘榴、神戸の事がお気に入りなのである。光物だけでなく柘榴は人間の美人さんにも弱い。しかも男も女も関係なく。どないやねんと仁とふたりツッこんだのだが当の柘榴はどこ吹く風である。
  〈この別嬪、なんだって松宮なんぞに目ェつけられたんでやしょうね。〉
  「…わかんない。」
人形作家と警察官である。いくらヒマな特命係とはいえ日々の暮らしの中でおよそ接点などない二人である。
  〈あっしも気をつけてたわけじゃねえが、それでも化け物に“しるし”をつけられたってんならすぐにわかりやす。それはおめぇさん方も同じでしょう。〉
  「うん。春樹くんと憲兄達だけでなく、最近は特命係のお二人にも“後ろ”、つけてるもん。だから余計…」
  「…ん」
  「あ。」
  〈お。〉
神戸の瞼が揺れた。やがてうっすらと切れ長の瞳が開き、焦点を結ばないまま“はあぁ”と長いため息をついた。
  「カンちゃん…!」
  「うおっ!?カンちゃん起きたんか!?」
  〈どうやら大丈夫のようですぜ。〉
ふいと仁を見やってのセリフだったが多分他の人間にはガァというカラスの鳴き声にしか聞こえなかっただろう。心底安堵して怜はそっと神戸の頬を撫ぜた。
  「カンちゃん、良かった…!ホンマに心配してんよ…!」
  「怜ちゃん…?」
ぽろ、と思わず涙が零れそうになった。あの穢れた空間からたった今やっと脱出できたと怜は思った。神戸が目覚めなければキョウコが元に戻らなければ自分達だけが生還しても何の意味もない。
  「おれ…生きてる…?」
  「生きてるわ!あたりまえやんか!」
思わず泣き笑いでツッこんだ。神戸もうっすらと笑った。
  「待っててな、今救急車呼んだから。憲兄にも連絡してるし、おっつけ来てくれる筈やから…!なあカンちゃん、痛いとこない?傷あれへん?服に隠れてるトコでどっか痛いとことかあれへん?」
  「ん…無い…思う… 」
そしてもう一度長い息を吐いた。顔色が白く、普段から貧血気味の神戸にしても危険を感じるほどの色合いだった。アカン、救急車早よ来てくれなアカンで、と怜は焦る。
  「…しんどい?」
  「…ちょっと…。」
クス、と笑う神戸。どこか自嘲を孕んでいて怜の眉がひそむ。
  「あのひと、ね。」
  「え。」
松宮の事か? 思わず問い返しそうになって踏み止まった。神戸が続けたからだ。
  「ストーカーに…追いかけられてるって、言ったんだ…。」
怜と仁、二人の瞳が見開いた。