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【相棒】(二次小説) 深淵の月・わたしの人形はよい人形5

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Epirogue.




  「ほんま!?仁、キョウコさん目ぇ覚ましたってほんまなん!?」
  「ああ、ついさっきや!もう大丈夫やでえ!」
  「あなたたち、廊下は走らないで!!」
 ドドドドド。入院病棟の三階を全力疾走、しかもこと桐生院怜と嵯峨崎仁、その出力とスピードはハンパない。疾風怒濤に駆け抜けて婦長と医局の外科医を回転させ、キキッと揃って凄い音をたてながら端の病室で止まった。
 ごく、と何故か息を呑んで怜がノックする。“コンコン。” どうぞ、と聞き慣れない男性の声がした。
  「…失礼します。」
そっとドアをスライドさせて覗き込んだ部屋。明るい陽射しの射し込んだそこに、ベッドに横たわる美しい女性がいた。
  「…キョウコ、さん?」
怜がおそるおそる訊ねた。にっこり微笑んで微かに頷く。
  「ありがとう…。」
輝くような笑顔でそう言ってくれた。その瞬間、ああ、なんや今死んでもええくらい幸せや…!と桐生院怜は思った。


 事件が終息してから二日後、まず神戸尊が目を覚ました。極度の疲労でさしもの警察官も回復にそれだけの時間を要したわけで、それは即ちあの土蜘蛛の妖力がかなりのものだったという事の証明でもあった。誰にも言えない真の理由は大河内春樹以外には知られる事もなく、犯人である松宮遙は未だ己の底の淵から帰還出来ずにいた。けれど現場検証と遺体から松宮の犯行は明らかであり、更に神戸自身の証言から“彼女”の罪状は決定された。
  「あとは被害者達の身元だな。」
そう呟いた伊丹憲一の言葉通り、最も厄介なのがあの美しい被害者達の身元確認だった。

 柘榴が持ち出した松宮の“戦利品”から簡単に身元は割れるだろうと踏んだ関係者の思惑に反し、二日後の時点で半数近くが不明のままだった。それは免許証などの身分証明書も携帯電話も無く、遺留品は手持ちのアクセサリーだけという遺体に限られていた。そういった被害者達は「ここ数年」の行方不明者リストに絞って当たっていたため捜査の網の目から外れてしまっていたのだ。
  「「あちゃあ。こらアカン。」」
事情をわかっている怜と仁、「ここ数年」では足りないとどうやって進言するか手を焼いた。結局意外な所から突破口が出来た。娘が松宮遙の中学の同級生だったという親から申し出があったからだ。
  「ああ真理奈…!!どうしてこんな事に…!!」
霊安室で号泣した両親に捜査陣はかける言葉も無かった。その遺体はただ一人の未成年者、推定十四歳から十六歳の女性だったからだ。
  「つーかおい…松宮遙ってなぁ、もうすぐ三十路…だよな…?」
  「そ…その松宮と、同級生… ってこの遺体…!!」
【えええええええ!!!!】 声なき叫びと共に捜一トリオが蒼白な顔で後じさり、十五年前の捜索願を取り落としたのだった。

 で、そこから早急にここ十五年分の捜索願まで遡り、片っ端から徹底的に情報を浚ったところ殆ど全ての身元が判明した。残った数名も三日目の昨日までには全部片付いた。ほっと胸を撫で下ろしたのは怜と仁だけではもちろんなかったが、しかしやぶへびよろしく伊丹に追求されたのには参った。
  「おい、あの遺体なんで腐らねえんだ怜、仁!」
  「知らんがなイタミン、俺らが知ってるわけないやんけ。」
  「つーかあの真理奈さんって、松宮の最初の犠牲者やねんな、憲兄。」
  「お…おう。たぶんな。」
それは正しかった。被害者達が行方不明になった時期を時系列で並べると、一番古い年号をふられたのがその麻生真理奈だったのだ。
  「真理奈は、松宮の事を気にかけていました…。」
 呆然と所轄署の応接室で語る麻生の両親。中学で松宮の身体の事が全校に知られた時、ただ一人松宮を気遣ったのが麻生真理奈だった。
  「あの子は…子供の頃に、松宮と…とても、仲が良くて…」
  「小学生の頃は、遙ちゃ… 松宮も、普通の子だったんですよ…。」
淡々と告げた父親はやがて苦く笑った。
  「ただ綺麗な…おそろしく綺麗だってだけでね… ごくごく普通の、かわいらしい…小学生でしたよ…。」
あの肥大した自尊心と自己愛は一体いつからだったのだろう。怜と仁はその様を見守り考える。
  『ちゅーかアイツ、松宮、いったいなんぼのトシから人殺しなんかしよんねん。かなんでホンマに。』
シンメトリーにがりがりと頭を掻き心の中で悪態をつく。もっともなぼやきは捜査員たち全員の感慨でもあった。

 そしてこの一件はこれだけの大量殺人にも関わらず殆どマスコミへ情報が流布しなかった。それはひとえに怜が桐生院の裏の権力を最大限に行使したからに他ならない。もしマスコミに嗅ぎつけられたならそれは被害者達とその遺族の尊厳を奪われる事になる。腐らない死体、それだけでセンセーショナルなこの事件は刺激に飢えた大衆の格好のエサだ。
  「解剖終わり次第、ご遺族に返してくれるんやろ?憲兄。」
  「ああ。今回だきゃー死亡推定日時ってやつが何の意味もないからな。死因さえわかればあとは問題ねえ。」
  「なんで腐らへんのかはかめへんのん?イタミ~ン。」
悪戯っぽく仁が問う。イヤそうに斜に構え伊丹が睨んだ。
 医大の学者などにすれば目の色を変えて飛びつく“現象”だがそこも桐生院が手を回した。あんな人を人とも思わないマッドな輩に彼らを渡すわけにはいかない。生涯どころか永遠のオモチャになってしまう。それにどれだけ科学で分析しようが答えなど永久に得られないしろものなのである、そこは医学生である仁も同意してくれた。長い方は十年以上も家族の許から離されていたのである。もう充分だ。
  「問題はカンちゃんとキョウコさんやねんなあ…。」
  「大丈夫なん?仁。」
  「いや大丈夫…なはずやで?」
顔を見合わせる。バケモノの元から生還した二人の、身体に影響が残らないかどうか。それだけは医術と退魔術の両方を修めた仁にもわからない事だったのだ。




  「京子を助けて下さったのは、あなた達ですね?本当にありがとうございました…!」
 そして四日目の今日、最後まで心配の消えなかったもう一人の生存者、桜井京子が目を覚ました。病室で深々と身体を折ったのは京子に負けないほどの美貌の男であった。名を堀内史郎。京子の婚約者だった。
  「いえ、そんな、うちらは別に何も…!」
慌てて両手を振る怜。ゆるりと首を振ったのは京子自身だった。あの姫装束を解いた入院着だったけれどそれでもはっとするほどに美しい。漆黒の髪は豊かで背中に至るほど長く、あの結い髪は殆ど京子の地毛だったのだと怜にはわかった。
  「わたし、覚えてます…。」
  「「え。」」
  「覚えてるんです…。あの地下の部屋で、あなたたちが、あの…蜘蛛と…戦ってくれたこと…。」
怜と仁、二人の瞳が見開いた。まさかそんな事と愕然としたのだ。
  「うそやん。カンちゃんはなんも覚えてへんかってんで?」
  「せやかて蜘蛛って…ゆうてはる…。京子さんマジなん?マジで覚えてはるの?」
怜の言葉に京子はこくりともう一度頷いた。
  「イヤリング…。」
  「えっ?」
  「あのイヤリングで、繋がってたの…。」
目を瞠った怜。思わず左の耳朶に触れてしまった、今は京子に返したというのに。