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【相棒】(二次小説) 深淵の月・わたしの人形はよい人形5

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  「うわ、うそぉ…。」
  「しもた、俺らのミスや…!」
ひどくバツの悪い気分で二人は京子とその婚約者を見つめた。
  「「すんません!!」」
そして同時に体を折った。それに驚いたのか堀内が仰け反る。
  「ホンマにすんません、ただでさえ怖い思いしてはったのに!」
  「更に怖い思いさせてしもうた、私達のミスです…!ホンマにごめんなさい…!!」
  「何を言ってるんですか、とんでもない!」
慌てたような堀内の声に二人揃って顔を上げる、おそるおそる。
  「そんな“怖い思い”をしながらなおかつバケモノを倒して下さったのは他でもない、あなた方でしょう!?」
  「「…。」」
ふたり、言葉がなかった。常識人を絵に描いたような堀内から出てくるとは到底思えない台詞だったからだ。
  「信じて…くれはるんですか?」
  「そんな、バケモンたらでっかい蜘蛛たら、キテレツな話。」
  「奇天烈ですか?」
きょとんと受ける堀内。クスクス笑ったのは京子だった。
  「体験しなければ、わからないものですね。こういうの…。」
  「「そうです。そやから…」」
  「だからやっと京子にもわかったんですよ。世の中目に見えるものだけが全てじゃないってね。」
にっこり。

    「「 はああああっ!?!? 」」

堀内がイタズラっぽく告げた言葉に二人すっとんきょうな叫びを上げたのだった。


 

  「ほな、堀内さんの方がいわゆる」
  「霊感体質、とでも言うんでしょうか。」
 ニコ、と微笑む美しい男。線が細いわけでも儚げなわけでもなかったし、どちらかと言えばかっちりした体型の整った美貌だった。神戸尊とはまた違う清潔な印象。七十年代アイドルのような爽やかさがあった。その堀内から霊感云々と語られるのが実に奇妙ではあった、なんだかとてもそぐわないのだ。
  「見えるだけですが、またそれがしょっちゅうで。」
  「本当なら病院なんて、一番来たくないって場所なんですよ。ね?」
にっこり微笑む京子。かりかりと頬を掻きバツの悪そうな堀内は苦笑して続けた。
  「ずっと京子には言ってたんです。あの場所は危ない、その建物は位置が最悪だ。」
  「だけど私はぜんぜん見ない聞こえない人ですから、実感が全くなくって。」
  「行くなって場所に平気で行くんですよー、もう何度言っても。」
  「「は、ははは…。」」
それはわかる、ものすごくよくわかる。怜と仁もそれでどんだけ苦労してきたか。
  「だから僕がやめとけって言った展示会にも一人で勝手に行っちゃって。」
二人の瞳が鋭くなった。こく、と堀内が頷く。
  「京子は、松宮遙のあの展示会場で連れ去られたんですよ。」
ああ、と顔を見合わせる。それであのイヤリングが落ちていたのか。
  「…あなた方が来て下さった日の、前日です。」
それは神戸が連れ去られたのと同じ日だ。昼に京子、夜に神戸。
  「救出されるのがあと数時間遅かったら、京子も命が無かったろうと言われました。」
  「ほんとうに、ありがとうございました…。」
緩く頭を下げる京子。怜と仁、二人照れくさく面映い思いだった。こんな風に“事情を全てわかっている人からの礼”は殆どされた事がないからだ。既に鬼籍に入っている方々はともかく。
  「…お式は、いつなんですか?」
 怜がそっと訊ねた。あからさまに照れたのは堀内の方だった。
  「今年のゴールデンウィークです。」
  「そうですか。京子さん、きっと綺麗やろなあ。」
率直でストレートな仁の言葉に京子がほんのり頬を染める。
  「それに堀内さんもめっちゃええ男やもん、まるでお内裏様とお雛様みたいな新郎新婦やわ。」
なー! と二人でウンウン頷き合う。未来の素晴らしい予定が怜たちにとっても嬉しくて、いつになくはしゃいでいた。その二人に堀内がさらりと告げた。
  「お二人にも、式に出席していただきたいんですが。」
  「「はっ!?」」
ぶんと思わず振り返った二人にすいと差し出されたカード。
  「神戸、さんにもさっき、お渡しして来ました。快く承知していただいたんですよ。」
にっこり笑って堀内が手渡したそれは年若い二人が未だ頂戴した事のない代物。結婚式の招待状だった。
  「えっ?えっ!?ウソ、こんなん、えっ?? い、いいんですか!?」
  「せやかて俺ら、お二人の事ぜんぜん知らんのに」
  「京子を救ってくれた。それだけで充分でしょう?」
虚を衝かれた。怜と仁にしてはとても珍しく。
  「それに、お二人がいなかったら私達、結婚自体が出来ませんでしたわ。」
にっこりと花のように笑う京子。いやまあそら確かに。そうやったかもしれんけども。
  「…仁。」
  「怜。なんや…ありがたいなあ…。」
  「「それはこちらの台詞ですよ。」」
今度は堀内と京子がハモって言った。四人揃って笑った。


  「怜、さん。もしよければ、受け取って欲しいものがあるんですけれど。」
  「え?」
 堀内にお茶を淹れていただいてご馳走になっている時京子が言った。リクライニングのベッドを少し起こして京子も一緒に湯呑みを傾けていたのだが。
  「きちんとしたお礼はまた改めてお二人に…。 ですが今、ぜひ受け取っていただきたいんです。」
  「え…。」
戸惑って仁と顔を見合わせる。堀内がそっと鞄から取り出したのは一目でそれとわかるジュエリーケースだった。純白の小さな小箱に怜の瞳が見開く。受け取った京子は静かにその蓋を開いた。

    京子と怜達を繋いだ、あの真珠のイヤリングだった。

  「京子さん…!」
  「アカン、これむっちゃ大事なもんですやんか京子さん!」
 即座に止めたのは仁の方だった。きっと京子のこのイヤリングにまつわる“過去”を“聞いて”いたのだろう、その剣幕に多少怯んだもののしかし京子は動じず、にっこりと更に微笑みを深めて言った。
  「大事なものだからです。ぜひ、怜さんに着けて欲しいんです。」
  「「……。」」
  「これは、私の姉の、形見です。」
二人絶句した。仁は既に知ってはいても、改めて聞かされる事実に呑まれていた。
  「わたしと姉はとても年が離れていました。母は多忙な人で…幼かったわたしの面倒を見てくれたのは、姉でした。」
  「僕も一度だけ会った事があります。既に結婚されていて、ご家族にも紹介してもらいました。」
  「甥と姪と…四人家族で。海外に赴任した義兄について、渡航していました。その赴任先で…」
  「…強盗に遭ったんです。」
息を呑んだ。その光景が瞬時に鮮やかに怜と仁の瞼に“蘇る”。思わずぎゅっと二人目を閉じた。
  「全員が亡くなって…。姉の持ち物のなかで私たち家族の許に戻ってきたのは、数少ない幾つかの遺品と、数枚の家族写真だけで…。
 あとは… 姉が渡航する前に私にくれた、このイヤリングだけでした。」
  「京子さん…。」
怜は言葉もない。そんな大事なものを一体なぜと、逆に疑問だけが募ってゆく。