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天柳 啓介
天柳 啓介
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サマーメモリーズ

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『夢』


 少し涼しめの風が吹く日。雄輔は、ある一人の少女に心を惹かれていた。
 その少女は、白いワンピースを身に纏い、足元には花のアクセサリがついたサンダルを履いている。髪は黒髪のロングで、瞳は淡い青色を誇示している。
 少女は、吹きすさぶ風に乗って舞う花びらを背景に、こう言う。
「また――あの夏が来るね」
 それ以前の記憶は全くない。そもそもこの情報は、雄輔が見る『夢』で知ったものだ。
 自分がその少女と知り合いで、自分が一方的にその少女に惹かれていること、記憶がそこで止まっていること。
 この夢を見始めたのは、確か、中学2年の夏のはずだ。そして、夢を見始めた理由として、雄輔は思い出す。
 トラックとの衝突事故。
 赤信号を無視して突っ込んできたトラックと雄輔は、運悪く衝突してしまう。
 医者からは、生還できただけでも驚きだ。と言われたのを覚えている。だが、事故以前の人物との記憶が全て飛んでしまっていた。
 自分がなぜ、その日に出かけようとしたのか、なぜ、あの信号を渡ろうとしたのか、なぜ――
 雄輔は思い出すことを諦める。この事を思い出そうとする度に、記憶が何者かに制御されているかのような感覚に襲われる。
 『夢』を見ることは、一時期収まっていた。高校1年までは。なのに、最近また、よく見るようになってしまっていた。
 しかし、『夢』は毎回同じ物語を繰り返す。『夢』に出てくる少女に見覚えはない。いや、もしかしたら、事故以前にどこかで出会っているのかもしれない。
 それを確かめる術は、雄輔には無かった。

作品名:サマーメモリーズ 作家名:天柳 啓介