こらぼでほすと 二人5
組織に入る前は定住していなかったし、組織に入ってからも、地上と宇宙を行ったり来たりで、その時も定住地はなかった。そう考えれば、確かに、亭主に作っている味が一番長く馴染んだものだ。嫁ぎ先の味になったのだ、と、亭主は言ったが、そういうことだ。
「義兄さん、味には五月蝿いの? 」
「合わないと食べなかったな。今は、そんなことないけど。」
最初の頃は、和食を所望されて八戒から貰ったレシピと料理本で、レシピ通りに作っていたが、微妙に違えば食べないで放置されたり、マヨネーズまみれで食べていたが、今は、そういうことはなくなった。たぶん、三蔵のほうもニールの味に慣れたのだろう。本当に、あの人と夫夫みたいに暮らしてるんだな、と、しみじみと感じた。同居して、家政夫をやっているが、坊主はなんだかんだと言っても気遣ってくれて優しいのだ。愚痴を零しても、弱音を吐いても、黙って聞いて、何かしらの答えはくれる。そうやって長いこと、ニールを癒してくれている。再始動の時も、おかしくなりそうになればハリセンで叩いて正気に戻してくれた。そうでなかったら、まともで待っていられなかっただろうと、話したら実弟は優しい目で微笑んでいた。
「なんか熟年夫夫のノリだな? まだ5年かそこらだろ? 新婚さんじゃないか? 」
「新婚期間ってないなあ。最初から、こんな感じだ。・・・・あっちが聖職者で俺の扱いが上手いんだろうと思う。そうじゃなかったら、叩き出されてるよ。グダグダするしダウンするし・・・女房としては落第だ。」
「兄さんがグダグダしてるってのがわかんない。」
「うーん、なんていうか・・・たまに、ふっと落ち込むんだ。そうなると、最悪の事態ばかり考えて心配で何もできなくなっちまう。自分では、どうすることもできないし、そうなってるって自覚もないから、亭主がハリセンで叩いてた。」
「・・・・ラブラブだな。ほんと、妬けるぜ。」
何かを言いたそうにしたが、実弟は、そのまま軽口を叩いた。自覚はないが叩かれて気付く。実弟も、おかしい時の自分に気付いたのかもしれないな、と、苦笑した。
そろそろ交換してくれ、と、皿を取上げられた。今度は、シェーバーズパイが眼の前にやってきた。パイとは言っているが、実際はマッシュポテトの下に炒めたひき肉やタマネギなどが敷き詰められてオーブンで焼かれたものだ。パイシートなどは一切使っていない。あっさりしているので、これならニールでも食べられる。中身は各家庭で使うものが違うので、そういう意味では、各家庭で違ったものになる。
「これも違うな。やっぱり、ハーヴが足りない気がする。」
「そりゃ特区の味ってもんだ。」
「そういうことだな。・・・兄さん、マッシュばっか食うなっっ。中身ばっか残るだろっっ。」
「あ、ごめん。」
「あんたって、ほんとイモ好きだよな。こっちの料理も、イモ料理作ってるし・・・義兄さんにイモばっか、だって言われてないか? 」
「そうでもない。和食って、ジャガイモ料理って少ないからさ。続くことはないな。こっちは食材が豊富だから、ローテーションすると一ヶ月に三回とかになっちまうんだ。あ、でも、カレーは結構作るから、それもジャガイモ料理としてカウントすると、もう少し増えるか。」
「シチューとかパイは作らないの? 」
「年少組が揃ったら作るけど、普段は作らないな。レイが、アイリッシュシチューがお気に入りでさ。来ると作れって言うよ。パイは、中身をコロッケにしてるのは作る。百個ぐらい一度に作るけど、すぐになくなっちまう。悟空が、一度に二十個とか食べちまうから。」
「二十個? 」
「そっ、二十個。コロッケだけじゃなくても二十個だ。サラダとか野菜炒めとかあってもだ。」
「うわぁー強烈だな。」
「なあ? 俺も最初の頃はびっくりした。あの身体のどこに、そんなに入るのか不思議だ。」
特区の話なら、すらすらと出て来る。本当に、居着いているんだと実感できる。マイスター組と居るのと同じくらいの時間を過ごしている。俺、コロッケも食いたいなあ、と、実弟が言うので明日、作ることにした。あれなら、半日あればできる。そんなたわいもない話をしていたら、すっかり料理は平らげていた。食後のコーヒーを飲んで、店を出た。
作品名:こらぼでほすと 二人5 作家名:篠義