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こらぼでほすと 二人6

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 脳量子波は、常時感じているわけではないが、微かな感情の揺れは、意識を向ければ感じられるものだと刹那は言う。ロックオンが、やりたいと意識して刹那を見ていると、それはわかるのだそうだ。
「そんなことしなくても、おはよーのチューとか、おかえりのチューをしてると雰囲気盛り上がるけどな。」
「・・・それ、人前でやってないよな? 」
「たまに? 」
「おい、ライル。・・・組織には未成年もいるし、女性陣もいるんだからな。自重しろ。」
「たまにだよ、たまに。愛しいって気持ちが胸に溢れちゃったりするんだよ。新婚だから。・・・・おかわり。」
 うふふふ・・と楽しそうに笑って、グラスをバーテンダーに見せる。ちびちびと飲んでいたら、ロックオンのグラスは空になってしまった。次は、ダブルを注文する。こんなふうに楽しい気分で美味い酒を呑めるとは思っていなくて気分が軽い。刹那の話なら、実兄は気楽な空気を醸し出して笑っている。こんなことがやってみたかった。ただ二人で、なんでもない話をして酒を呑むという、普通なら何の障害もなく出来るはずのことができなかったからだ。
「・・・幸せそうだからいいけどさ・・・でも、ミレイナやフェルトの前ではやめてくれ。」
「はいはい、こっそりとやらせていただきます。俺なんかより、あんたのほうがイチャコラしてるぜ? 義兄さんが、あーんするとは思わなかった。」
「そんなにやってないだろ? それに、あれは、どっちも食べさせたくてしてるだけで、イチャコラじゃねぇーんだけど? 」
「おんなじもん食ってるのに? 」
「酒の肴は、あの人だけのが多いからさ。俺にも味見させたいのがあるんだろ。ていうか、あの人のは餌付けみたいなもんだな。俺が食わないから、食わせたいって感じ? 」
「それを、世間一般的にイチャコラって言うんだよ? お兄様。」
「言わないよ。」
「言うよ。よく、毎日毎日、べったりしてて飽きないもんだと思うぜ? 」
「べったりはしてないだろ? お互い、仕事してたりするから会話もないぜ? 下手すると、半日、無言の日がある。」
「隣に居ても? 」
「うん、三蔵さんは書類仕事だから考え事してたり読んでる時が多いだろ? 俺は繕い物なんかやってると、そっちに集中しちまうし。あと、俺が寝てるとかな。」
「でも、散歩したり訓集やったりは、二人でやってるんだろ? 」
「散歩は、ほんと、たまに、だよ。二人だけで昼飯ってことになると、たまには外食したいって話になるからだ。」
 ここんところ、リジェネが留守をしているから、二人で外食もしている。大概がファミレスか蕎麦屋だ。
「呑みに行ったりとかは? 」
「無理だろ。そんなことやりたいって言ったら、みんな一緒に、ってことになって店で宴会状態になる。それに、同じことを亭主と父親にやらないと、二人して拗ねるから面倒なんだ。」
 婿と舅のレクリエーションと化しているので、ニールのほうは気にしないが、まあ、面倒は面倒なのだ。三蔵と食事がてらに散歩したことが判明すると、トダカも誘ってくるからだ。逆も、また然りで、里帰りすると、亭主は不機嫌になる。半分遊びで絡んでいるから、本気ではないが、トダカは里帰りしないと拗ねたフリをして、三蔵に舅の嫌味なんか吐いている。どっちも遊びだから、笑っているのだが、度を越えるとニールも面倒になる。勝負事になると、どっちも負けん気が強いから、本気になってしまうからだ。少し前の水掛け合戦の時は、トダカが特区に居るトダカーズラブを集結させて対戦していた。まあ、亭主は、悟空を筆頭に沙・猪家夫夫と紅と爾燕を集めたので圧勝はしていたが。たかだか、温泉一泊の宿泊代ごときで、そこまで本気にならなくても・・と、ニールは呆れたのだ。
「トダカさんも、ニールに惚れてるとか? 」
「ないない。トダカさんは、俺を甘やかしたいんだってさ。」
「うん、それはわかる。」
「今まで、一人だったろ? 今は、じじいーずが背後にいるから頼って甘えればいいって言うんだよ。・・・すいません、ガス入りミネラルウォーター。」
 ニールのグラスも空になった。少し酔っているので、ミネラルウォーターを注文した。
「俺、同じのダブルで。・・・甘えてやればいいじゃん。てか、トダカさんのは溺愛っていうんだと思う。」
「あはははは・・・心配しすぎて過保護になったんだってさ。この間、トダカさんの知り合いに、『うちの可愛い娘です。』って紹介された時は、びっくりした。まさか、外でまで言ってるとは思わなくてさ。紹介されたほうも、スルーなんだぜ? 『トダカさんの娘さん』って呼ぶんだ。」
「うわぁー。」
「俺が完治したって報告が降りてきたら、即座に、その人たちに連絡したんだって。大喜びしてたらしい。・・・・俺が降りて来たら、なんにも言わないのに。それまでも、俺の身体を治療する方法はないのか、いろいろと個人的にも探してくれてたんだ。・・・・きっと、父さんたちが生きてたら、こんなふうに心配してもらえたんだろうなって思ったら涙が出た。」
「そりゃ、みんな、必死だったんじゃないか? あんたが力尽きたら、刹那と俺が地上を破壊するんだからさ。」
「すんなよ。」
「やるだろ? あんた、自分でわかってないけど、俺たちの立派な足枷なんだぜ? あんたが地上にいるから、地上での騒ぎは起こさないように考えるし、あんたが生きてるから、俺らも生きてなきゃならないって気持ちにもなるんだ。・・・・刹那も俺も、あんたを愛してるからさ。」
 小声で、囁くようにロックオンはニールの耳に言葉を届けた。届かないのなら、何度でも届くまで続ける。実兄が、自分の価値を考えないのなら、価値があるのだと何度でも言い続ける。たぶん、トダカがしてくれていることも、その一環だ。大切だ、溺愛している、と、態度で言葉でニールに言い続けているのだ。
 実兄は、耳まで真っ赤にして、ロックオンのグラスを奪い、ごくりと飲んだ。恥ずかしい言葉なんか聞かされたら、酔わなきゃやってられない、と、呟いた。
「酔ってもいいぜ? 部屋はキープしてあるからな。・・・呑む?」
「・・・バカ・・・恥ずかしいこと言うな。」
「くくくく・・・だって本心だもーん。俺、兄さん大好きだし? 」
「うるせぇー酔っ払いっっ。」
「これぐらいで酔うか。ほら、もっと囁いてやろうか? 」
 肩を抱いて囁くように声をかけたら、いきなり実兄は立ち上がった。トイレ、と、一言告げて、スタスタと店を出て行く。
「くくくく・・・・可愛いじゃねぇーか、ニール。」
 その後姿を見送って、ロックオンはグラスを飲み干す。そして、お代わりだ。昔のように言い合いをしているのが楽しい。

作品名:こらぼでほすと 二人6 作家名:篠義