こらぼでほすと 二人6
実兄の二の腕辺りを掴んで、ロックオンが歩き出す。もう、あれは死んだ。二度と、自分たちと同じ想いをさせられることはなくなった。だから、これでいいのだとロックオンは思う。あんな狂った人間は、この世界にたくさんいるだろうが、それは追々に潰していけばいい。そのためにも、組織はあるのだ。
ホテルのバーも静かだった。ウィークデーだから、人も疎らだ。カウンターに座り、ロックオンはアイリッシュウイスキーを頼む。初めは軽くシングルのロックにした。ニールも同じものを頼んだ。カチンと合わせて乾杯する。
「いい酒だなあ。・・・タバコ吸ってもいい? 」
「いいよ。これ、虎さんに貰ったのと同じ感じだ。・・・・そうか、それであれだったんだな。」
一口飲んだニールは、嬉しそうに笑った。再始動が始まる前に、虎は寝酒にしろ、と、後味の軽いウイスキーをくれた。ラベルも何もない瓶に入っていた琥珀色のウイスキーだった。確かに、それほどアルコールがきつくない味だったが、アイリッシュウイスキーだとはニールは気付かなかった。たぶん、ニールの生国のものを取り寄せてくれたのだろう。その話をロックオンにすると、相手も笑っている。
「あんた、気付かなかったのか? ひでぇーなー。」
「俺、最高級品なんて飲んだこともなかったからさ。こんなに甘いって知らなかったんだよ。・・・誰も教えてくれなかったし。トダカさんもハイネも一緒に飲んでたのになあ。」
まあ、トダカもハイネも気付いていたのだろう。ただ、ニールが知らない様子だから黙っていたらしい。
「じじいーずの過保護ぶりが、よくわかる。」
「うるせぇ。あの人たちにすると、俺が、てんでガキでバカだから保護したくなるんだとさ。」
ロックオンも、それには異を唱えるつもりはない。なんせ、降下した途端に、鷹とハイネが顔を出し、ニールの取り扱い説明をしていったのだ。いろいろとおかしなところがあるから、心配しているのは理解している。もちろん、感謝もしている。そうやって守られているから、実兄は元気に暮らしているのだ。
「あんたは、それでいいんじゃないか。今まで、いろいろとおかしなことばかりやってたんだから、普通のことをやりゃいいんだよ。・・・・俺が、あんたと交代するまで暮らしてたのは、そういう普通の世界だ。」
「うそつけ。クラウスとつるんで、いろいろおかしなことをやってたんだろ? 」
「でも、あんたほどじゃない。ちゃんと大学を卒業して、就職して職場でも友人がいたし、週末はパブで飲み明かしたり騒いだりしてたぜ? 彼女とデートしたり映画観たり・・・そういう普通の生活。」
「彼女居たのか? 」
「まあ、何人かは。あんた、彼女作ったりしてないだろ? 」
「・・・うーん・・・やることはやってたけど・・・」
「それ、彼女じゃねぇーから。だから、これからは、そういうこともすりゃいい。義兄さんがデートしてくれなくても、ハイネや鷹さんがいるんだから、できるだろ? 」
まあ、擬似デートではあるが、可能だ。同じ場所に、ずっと暮らして同じ人と出歩くなんていうのも、実兄にはなかったことだろう。
「三蔵さん、デートしてくれるよ? ライル。」
「へぇー、してくれるんだ。」
「散歩がてらに昼飯食ったりはする。さすがに、映画は行かないな。あの人、映画なんか観るのかな。」
「それ、ただの夫夫の散歩だろ? ハイネと行け。」
「トダカさんは、食事に連れて行ってくれて、買い物したりするから、あっちのほうがデートっぽいかな。」
「ハイネと行かないの? 自称間男なのにさ。」
「買出しの足とかはしてくれる。わざわざは出かけないな。・・・まあ、俺が出られなかったってのもあるんだよ。体調がよくなかっただろ? トダカさんも近所だったし・・・それを言うなら、おまえが刹那とデートしろよ。新婚旅行もしてないんだろ? 」
「デートするなら、部屋で、いろいろといたすほうがいいな。だいたい、俺のダーリンは映画にも買い物にも興味なんてねぇーんだよ。食事だって、俺が選んでる。観光なんて、真っ平御免なんじゃねぇーか? 」
「おまえは自分で選んでくれるから楽でいい、とは言ってたぞ? 観光っていうか、この間、一緒に桜を見たのは感動してたから、そういうのは興味があるんじゃないかな。」
「あんた、俺のダーリンとデートしてたけど、あれって、全部、ダーリンがエスコートしてんのかよっっ。」
「だって、サプライズだったし・・・コースを選んでるのはアスランだとは思うけど。」
「うわぁーいいなあ。俺も、そういうのおねだりしてみようかなあ。ダーリンがエスコートするデートっていうのは憧れるな。白馬の王子のエスコートなんて、たまんないっっ。」
「刹那は優しいから、時間さえあればやってくれると思うぞ。」
「そうかなあ。なんか、日々、忙しそうなんだよな。」
「だから、休暇の時にだよ。」
「休暇は、あんたのところだと思う。ダーリンは、あんたにベタベタすんのが、一番リラックスできるんだと。」
「じゃあ、こっちに一緒に降りて、特区の温泉でも行って来ればいいだろ? 」
「絶対に、賭けてもいいけど、それってダーリンは、あんたも連れて行く。絶対に、特区に居るのに、あんたを置いてなんか行動しない。」
アレルヤたちもティエリアも同じことを言っていたが、当事者の実弟でも、そう考えるらしい。刹那当人も、そう断言はしていた。
「二人だけで行けよ。俺まで巻き込むな。」
「たぶん、巻き込まれるのは俺のほうだ。ダーリンはな、あんたとのんびりしているのが大好きなんだ。それで気が休まるのさ。組織のことも世界のことも、あんたと居る時は考えなくて済むんだってさ。・・・・俺も、それはわかるからな。」
「・・ライル・・・でもさ・・・」
「まあ、ミッションで二人で行動して、終わってからってことなら二人で動けるだろうさ。そういう時に、そういうことはやってる。休暇は、ダーリンの好きなことをさせてやりたいから、あんたは付き合ってやれ。あんたぐらいだろ? ただの刹那にしてやれるのは。」
実弟に指摘されて、ニールも気付く。組織の人間といると、どうしても組織の話が出て来る。そうなると気は休まらない。ニールには、そういうものがないから、話はしないし、考えることもないだろう。おかんは地上で暮らしていろ、と、刹那が言うのは、それが望みだ。
「刹那にとって、なんも考えないで、ぼぉーっとしてられるのは、あんたのとこだけなんだ。脳量子波で、相手の感情が、ある程度は解るからさ。・・・あんたの頭の中だったら、平和そのものだろ? 」
「うーん、お昼は何にしようかな、とか、明日の天気はどうだろう、とか。今日は仕事だったか、とか・・・そういうのばっかだろうな。」
「そうそう、そういうなんでもない感情だけなら、刹那は疲れないし、気も抜ける。」
「・・・ライルだって。」
「でも、俺だと組織のことも考えるからな。まあ、あれは便利っちゃー便利だ。俺がやりたいって考えただけで応じてくれるからさ。」
作品名:こらぼでほすと 二人6 作家名:篠義