こらぼでほすと 二人7
何事もなく成人していたら、きっと、こんなふうに二人で飲んでいただろう。惨事が起って離れてしまった。あのままだったら、これは叶わなかった。ようやく、二人で酒を呑める時間が持てた。よかった、と、ロックオンも安堵する。そして、さっきから実兄が、ライルと呼んでいることに気付いた。
・・・・あれ? 兄さん、俺のこと・・・・
ライル・ディランディーという名前は棄てて組織のロックオン・ストラトスになる、と、実兄に宣言してから、実兄もライルとは呼ばなくなった。本名で呼んでいて、どこかで漏れてしまうと正体がバレてしまうからだ。それなのに、ライルと呼んでいる。
・・・・もしかして、酔ってんのか? あの人・・・・
かなり酒には弱くなっている、とは聞いている。シングルのロック一杯で酔ったのかもしれない。少し酔いを醒まさないとマズイかな、と、考えていたら、店の入り口に実兄が入って来た。だが、その腕を誰かが掴んでいる。
「・・・俺にはツレがあるんだ。他を当たってくれ。」
自分の腕を掴んでいる相手に軽く声をかけて振り解く。だが、相手も諦めない。今度は肩に手が移動した。
「しつこいヤツだな。俺は、そっちの趣味はねぇーんだよ。」
怒気を含めた声で、実兄は相手を睨んでいるが、なかなか離れてくれないらしい。騒ぎになる前に止めなければ、と、ロックオンもカウンターから立ち上がった。即座に走って、入り口に出向いたら、やはり、実兄は酔客に絡まれていた。
「悪いね、あんた。これは俺のツレだ。」
ぐいっと実兄の身体ごと取り戻して、背後に隠す。たらし能力強すぎだろ、と、内心で実兄にツッコミだ。さて、どうやって逃げようか、と、考えていたら、バーテンダーがやってきて酔客の襟首を持ち上げた。
「お客様、他のお客様のご迷惑です。どうぞ、お引取りを。」
大変丁寧な物言いだが、そのままズルズルと店から出て行った。さすが、酔客の対応も慣れているらしい。
「襲われたのか? 」
「いいや、トイレから出たところで声をかけられた。それだけだ。」
「もーあんたってさ。色気垂れ流しすぎなんじゃね? 」
「おまえに言われたくない。・・・・ライル、ありがとさん、庇ってくれて助かった。しつこくてさ。」
「何にもなかったんなら、いいさ。ほら、座ろう。」
カウンターに戻ってスツールに腰掛けた。ふう、と、二人して息を吐いて笑い出す。お互いのグラスに口をつけて、ロックオンはタバコに火をつけて燻らせた。
「あんた、夜道はやっぱり危ないな。」
「んなこたぁーねぇーよ。」
「いや、危ない。あれでこれだろ? 俺がいる間は一緒に散歩してやるけど、夜はやめとけ。・・・・襲われたら逃げられないじゃないか。危なすぎるだろっっ。・・・あんたは自分の色気が、まるでわかってないんだ。」
「はあ? 」
実弟の口調が説教モードだ。いきなり、何を言い出した? と、ニールは首を傾げる。酔客なんて振り切って逃げれば済むことだ。それなのに、危ない、危ない、と、実弟は大声で連呼する。
・・・酔ったか・・・
いくら、客が少ないとはいえ、さすがに、この声は五月蝿い。部屋は取ったと言ったから、引き上げて酔いを冷まさせようと立ち上がった。
「ライル、そろそろ部屋に行こう。部屋番号は? 」
「知ってる。」
「うん、知ってるな? じゃあ、案内してくれ。俺も酔ってきた。」
支払いをしなければならないが、バーテンダーは出て行ったままだ。さて、どうしようかな、と、思っていたら戻って来た。
「お騒がせしてすいませんでした。」
「いえ、こちらこそ、不愉快な思いはなさいませんでしたか? 」
「ええ、弟が助けてくれたので。・・・支払いを。」
「お泊りでしたら、カードキーを。」
カードキーで精算できるとのことで、実弟からカードキーを貰い、それで精算する。すると、バーテンダーが、カードキーと一緒に錠剤を渡してくれた。
「アルコール中和剤です。本当は、あなたのために用意していたんですが・・・」
「はい? えーっと、ハイネですか? 」
「いえ、トダカさんから頼まれました。うちの娘は、あまり呑めないから、酔ったら飲ませて欲しい、とのことでして。」
「え? トダカさん? 」
「はい、私も元オーヴの軍人でして。ご自慢の娘さんにお会いできて光栄です。また、いらしてください。弟さんを運びましょうか? ロックのダブルを、かなり呑んでいらっしゃるから。」
なるほど、と、ニールも納得した。だから、酔客の襟首を持ち上げて運んでしまえたわけだ。というか、どこまで自慢してるんだろう、と、ニールは顔を引き攣らせた。この調子だと、トダカの関係者は、みんな、ニールのことを、「トダカの娘さん」 と、認識しているのかもしれない。
「もしかして、親衛隊の方なんですか? 」
「いえ、どちらかというと、酒呑み友達ですかね。たまに、仕事が終わってからいらっしゃるんですよ。それで、あなたのことを楽しそうにお話されます。」
「わぁーすいません。こんなおっさんで。」
「あははは・・・とんでもない。トダカさんが話される通りの方ですよ。」
どうやら、ハイネからトダカに安全に飲めるところを探してもらったらしい。確かに、トダカの関係者なら、安全だ。本当に過保護だ、と、ニールも苦笑する。
「兄さん、また、たらしてんのかっっ? 」
そこへ実弟が乱入してきた。店の雰囲気ぶち壊しなので、挨拶して実弟を抱えるようにして店は出た。
部屋番号を実弟の口から吐かせて、とにかく部屋に入る。歩くと、さらに酔いが回ったのか、実弟が五月蝿い。部屋は、ツインベッドで、片方に実弟を転がして、ニールもベッドに倒れこむ。シングル一杯とはいえ、ニールも軽く酔っている。転がしたはずの実弟は、立ち上がり覆い被さってくる。
「あんたさっっ、自分が、どれだけ色気があるかわかってないだろ? バイやゲイの男なら、あんたは確実に食いたいと思うぞ。」
「はいはい、ごめんごめん。」
ポンポンと頭の両側にある実弟の手を軽く叩く。完全に酔っ払っているらしいので、大人しく謝る。何を言っても、酔っ払いは聞く耳がないのだから、とにかく大人しくなるまでは持久戦だ。
「なんかあったら、どうするんだよっっ。俺には、あんたしかいないんだぞ? また取り残されて、嫌われたって泣きたくないんだよっっ。・・・・あんたがいなくなって、どんだけ落ち込んだと思ってるっっ。いきなり、誰も居なくなった家に帰ったら、どんなに心が痛いかわかってんのかっっ? 家族全部においてけぼりにされたら、どんなに寂しいと思ってんだよっっ。・・・・だいたいな、あんたは身勝手すぎるんだ。いきなり連絡があったら高額振込みとクルマの鍵だ。それで、勝手に死んでんじゃねぇーよっっ。・・・・死んだって聞かされて、また置いて逝かれたんだって。泣くに泣けないし、腹が立つし。でも、あんたは届かないところに逃げてるし。もう、あんな想いするのは真っ平御免だっっ。」
・・・・あれ? 兄さん、俺のこと・・・・
ライル・ディランディーという名前は棄てて組織のロックオン・ストラトスになる、と、実兄に宣言してから、実兄もライルとは呼ばなくなった。本名で呼んでいて、どこかで漏れてしまうと正体がバレてしまうからだ。それなのに、ライルと呼んでいる。
・・・・もしかして、酔ってんのか? あの人・・・・
かなり酒には弱くなっている、とは聞いている。シングルのロック一杯で酔ったのかもしれない。少し酔いを醒まさないとマズイかな、と、考えていたら、店の入り口に実兄が入って来た。だが、その腕を誰かが掴んでいる。
「・・・俺にはツレがあるんだ。他を当たってくれ。」
自分の腕を掴んでいる相手に軽く声をかけて振り解く。だが、相手も諦めない。今度は肩に手が移動した。
「しつこいヤツだな。俺は、そっちの趣味はねぇーんだよ。」
怒気を含めた声で、実兄は相手を睨んでいるが、なかなか離れてくれないらしい。騒ぎになる前に止めなければ、と、ロックオンもカウンターから立ち上がった。即座に走って、入り口に出向いたら、やはり、実兄は酔客に絡まれていた。
「悪いね、あんた。これは俺のツレだ。」
ぐいっと実兄の身体ごと取り戻して、背後に隠す。たらし能力強すぎだろ、と、内心で実兄にツッコミだ。さて、どうやって逃げようか、と、考えていたら、バーテンダーがやってきて酔客の襟首を持ち上げた。
「お客様、他のお客様のご迷惑です。どうぞ、お引取りを。」
大変丁寧な物言いだが、そのままズルズルと店から出て行った。さすが、酔客の対応も慣れているらしい。
「襲われたのか? 」
「いいや、トイレから出たところで声をかけられた。それだけだ。」
「もーあんたってさ。色気垂れ流しすぎなんじゃね? 」
「おまえに言われたくない。・・・・ライル、ありがとさん、庇ってくれて助かった。しつこくてさ。」
「何にもなかったんなら、いいさ。ほら、座ろう。」
カウンターに戻ってスツールに腰掛けた。ふう、と、二人して息を吐いて笑い出す。お互いのグラスに口をつけて、ロックオンはタバコに火をつけて燻らせた。
「あんた、夜道はやっぱり危ないな。」
「んなこたぁーねぇーよ。」
「いや、危ない。あれでこれだろ? 俺がいる間は一緒に散歩してやるけど、夜はやめとけ。・・・・襲われたら逃げられないじゃないか。危なすぎるだろっっ。・・・あんたは自分の色気が、まるでわかってないんだ。」
「はあ? 」
実弟の口調が説教モードだ。いきなり、何を言い出した? と、ニールは首を傾げる。酔客なんて振り切って逃げれば済むことだ。それなのに、危ない、危ない、と、実弟は大声で連呼する。
・・・酔ったか・・・
いくら、客が少ないとはいえ、さすがに、この声は五月蝿い。部屋は取ったと言ったから、引き上げて酔いを冷まさせようと立ち上がった。
「ライル、そろそろ部屋に行こう。部屋番号は? 」
「知ってる。」
「うん、知ってるな? じゃあ、案内してくれ。俺も酔ってきた。」
支払いをしなければならないが、バーテンダーは出て行ったままだ。さて、どうしようかな、と、思っていたら戻って来た。
「お騒がせしてすいませんでした。」
「いえ、こちらこそ、不愉快な思いはなさいませんでしたか? 」
「ええ、弟が助けてくれたので。・・・支払いを。」
「お泊りでしたら、カードキーを。」
カードキーで精算できるとのことで、実弟からカードキーを貰い、それで精算する。すると、バーテンダーが、カードキーと一緒に錠剤を渡してくれた。
「アルコール中和剤です。本当は、あなたのために用意していたんですが・・・」
「はい? えーっと、ハイネですか? 」
「いえ、トダカさんから頼まれました。うちの娘は、あまり呑めないから、酔ったら飲ませて欲しい、とのことでして。」
「え? トダカさん? 」
「はい、私も元オーヴの軍人でして。ご自慢の娘さんにお会いできて光栄です。また、いらしてください。弟さんを運びましょうか? ロックのダブルを、かなり呑んでいらっしゃるから。」
なるほど、と、ニールも納得した。だから、酔客の襟首を持ち上げて運んでしまえたわけだ。というか、どこまで自慢してるんだろう、と、ニールは顔を引き攣らせた。この調子だと、トダカの関係者は、みんな、ニールのことを、「トダカの娘さん」 と、認識しているのかもしれない。
「もしかして、親衛隊の方なんですか? 」
「いえ、どちらかというと、酒呑み友達ですかね。たまに、仕事が終わってからいらっしゃるんですよ。それで、あなたのことを楽しそうにお話されます。」
「わぁーすいません。こんなおっさんで。」
「あははは・・・とんでもない。トダカさんが話される通りの方ですよ。」
どうやら、ハイネからトダカに安全に飲めるところを探してもらったらしい。確かに、トダカの関係者なら、安全だ。本当に過保護だ、と、ニールも苦笑する。
「兄さん、また、たらしてんのかっっ? 」
そこへ実弟が乱入してきた。店の雰囲気ぶち壊しなので、挨拶して実弟を抱えるようにして店は出た。
部屋番号を実弟の口から吐かせて、とにかく部屋に入る。歩くと、さらに酔いが回ったのか、実弟が五月蝿い。部屋は、ツインベッドで、片方に実弟を転がして、ニールもベッドに倒れこむ。シングル一杯とはいえ、ニールも軽く酔っている。転がしたはずの実弟は、立ち上がり覆い被さってくる。
「あんたさっっ、自分が、どれだけ色気があるかわかってないだろ? バイやゲイの男なら、あんたは確実に食いたいと思うぞ。」
「はいはい、ごめんごめん。」
ポンポンと頭の両側にある実弟の手を軽く叩く。完全に酔っ払っているらしいので、大人しく謝る。何を言っても、酔っ払いは聞く耳がないのだから、とにかく大人しくなるまでは持久戦だ。
「なんかあったら、どうするんだよっっ。俺には、あんたしかいないんだぞ? また取り残されて、嫌われたって泣きたくないんだよっっ。・・・・あんたがいなくなって、どんだけ落ち込んだと思ってるっっ。いきなり、誰も居なくなった家に帰ったら、どんなに心が痛いかわかってんのかっっ? 家族全部においてけぼりにされたら、どんなに寂しいと思ってんだよっっ。・・・・だいたいな、あんたは身勝手すぎるんだ。いきなり連絡があったら高額振込みとクルマの鍵だ。それで、勝手に死んでんじゃねぇーよっっ。・・・・死んだって聞かされて、また置いて逝かれたんだって。泣くに泣けないし、腹が立つし。でも、あんたは届かないところに逃げてるし。もう、あんな想いするのは真っ平御免だっっ。」
作品名:こらぼでほすと 二人7 作家名:篠義