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こらぼでほすと 二人8

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ホテルから百貨店は徒歩圏内なので、車は、そのままにして適当なカフェで食事した。それから、デパ地下に入り、亭主の希望するものを探すことにした。
「そのナントカっていうのは、どういうもの? 」
「俺も現物が判らないから、とりあえずインフォメで尋ねてみる。たぶん、ピクルスみたいなものじゃないかな。酒のアテだと思う。」
 長年、特区住まいはしているが、ニールには松前漬けなんてものは食べたこともない代物だ。どんなものなのか、よくわからない。インフォメーションで売っている店を教えてもらって、そこへ移動する。
「ああ、やっぱりピクルスみたいなものだな。・・・えーっと、数の子入り・・・え・・・」
 ショウケースの中を見渡したが、どれも漢字表記だ。数の子だけは辛うじて見たことがあるので、それを目当てに探して絶句した。
「どうした? 」
「・・・百グラムで、この値段。」
「うん、それが? 」
「高いなあ。」
「そこかよっっ。俺が払ってやるよ。」
「いや、留守した土産にするから、俺が払うけど・・・これ、三百ぐらいでいいかな。」
 亭主が単独で酒のアテというなら、百グラムでもいいだろうが、たぶん、悟空も味見するだろう。そうなると、結構な量が必要になる。いつものスーパーで買っているナメタケだの福神漬けなんかと比べ物にならない値段で、ちょっと驚いた。リクエストされたので、とりあえず買う。それから、ぶらぶらと歩いて、目に付いたものは買っておくことにした。悟空には、メロンでも買ってやろうと考えていたら、実弟に腕を取られた。
「パンって、どこだろ? 」
「俺に言うな。店員さんに聞け。あと、果物売り場とアルコールも聞いてくれ。」
 そこいらにいる店員に、売り場を尋ねると、教えてくれる。残念ながら、実弟の希望するソーダブレッドはなかった。その代わり、焼きたてのクロワッサンをゲットする。
「ライル、それ、十個追加。」
「はあ? 」
「悟空のおやつにするから、適当に他の甘い菓子パンも買ってくれ。ほら、そこのチョコがかかってるやつとかさ。」
「あんたが選べよ。俺じゃわかんないだろ? 」
 ほれ、と、ロックオンがトングを渡すと、ニールが適当に焼きたての甘そうなものをゲットする。今日は土曜日で、バイトの出勤もないから、軽いオヤツでいい。トレイひとつでは乗り切らなくて、ロックオンが新しいのも持った。店員が、満杯になったトレイは預かってくれた。
「これ、消費できるの? 」
「楽勝だ。土曜だから、誰か来てるかもしれないし多めに買っておかないと喧嘩になるんだ。」
 なんていうか規模が違い過ぎて、ロックオンには驚く量だ。それを楽しそうに選んでいる実兄は、生き生きしている。誰かのために用意するのが楽しいらしい。

・・・つまり、これのひとつでも兄さんが食えばいいわけだ・・・

 誰かが食べていれば、付き合ってニールも口にするのだろう。そう考えると多くてもいいか、と、ロックオンも微笑む。
 次にメロンをゲットして、最後にアルコール売り場に辿り着いた。世界のビールが並んでいるので、ギネス以外の珍しいのもロックオンは買った。これで、二人の手は塞がった。

 こんなものかな、と、デパ地下を後にする。正味一時間の探索だが、すでに、ロックオンは疲れている。
「主夫の買い物に付き合うのは大変なんだな。」
 荷物を運びつつ、ロックオンは息を吐く。両手一杯の荷物なんて、なかなか持つことがない。それも全てが食料品だ。一人暮らしの長いロックオンには、食料なんて片手で十分な量だった。
「うちは悟空が食うからな。それに、他の年少組も顔を出すから、いろいろと用意しておかないとならないからだ。普通は、これで三日分の買出しの量だぜ?」
「でも、三日に一度は、これをやるわけだろ? 母親が強いのはわかるな。俺、こんなの、辛い。」
「あははは・・・主夫は、これが仕事だ。おまえさんの仕事のほうがハードだって。」
「荷物置いたら、休憩させろ。・・・疲れた。」
「ちょっとだけだぞ。三時には戻らないと、これ、悟空のオヤツだから。」
 時刻は二時過ぎだ。ここから寺までは三十分とかからないから、まあ、少しだけ、と、ニールも同意した。クルマに荷物を運んで、ホテルのティールームで休憩して寺に戻った。



 寺に帰ると、ほっとする。山門の前でクルマを停めて、荷物を運ぶ。玄関で声をかけると、悟空とレイが顔を出した。
「ごめん、荷物運んでくれないか? 」
 悟空とレイが廊下に出てきて、まじまじとニールを上から下に観察する。ベーシックなスーツに柄物のシャツという、ごくありきたりの服装だが、仕事以外では観られないものだ。
「そうやってると、イケメンなんだな? 俺のおかん。」
「普段着が酷いからな、悟空。たまには、こういう恰好をしてくれればいいのに、ママ。」
「これは外出用。普段、こんな恰好してたら掃除できないだろ? オヤツあるぞ? 悟空。昼は大丈夫だったか? 」
「シンが、明太子チャーハンしてくれたんだ。で、シンは食って、昼寝してる。」
「シンも来てるのか。じゃあ、ちょうどよかった。あいつ、クリームパン好きだったよな? レイ。」
「ええ、大好物です。」
「百貨店で買って来た。おまえは、コルネだったな? 」
 ちゃんとレイの好きなのも買ってあるとニールが言うので、レイも嬉しそうに頷いて笑う。
「ちょお、ママ。俺のは? 」
「チョコパンもあるよ、悟空。あ、でも、明日の朝のロックオンのクロワッサンだけは残してくれ。」
「いやっほーーーーいっっ。食おう、食おう。」
 大量の荷物を、悟空が、どかどかと運び込んでくれる。じゃあ、ミルクティーがいいですね、と、レイも荷物を運ぶ。あっという間に、ニールは『吉祥富貴』の年少組に取り戻されてしまった。それは、しょうがない。ここが実兄の作っている日常だ。もう一度、デートの約束も取り付けたから、ロックオンのほうは余裕の気分でクルマを駐車場に停めるために動かした。


 シンが叩き起こされて、おやつの争奪戦が始まる。それを眺めながら、冷蔵庫に買ってきたものを整理して納める。今夜のおかずの一部となるものだが、この人数じゃ、足りないな、と、メニューの追加を考えていたら亭主が外から戻って来たので、声をかける。この時間ということは、パチンコにでも出かけていたのだろう。
「三蔵さん、これでよかったんですか? 」
 冷蔵庫に入れていたリクエスト品を見せると、亭主は手にとって確認する。
「ああ、高かっただろ? 」
「びっくりでしたよ。こんなもの、食べてるところを見たことがないんですが? 好きなんですか? 」
「店では出てくるぞ。」
「あれ? 俺は見てないな。」
「正月料理だからだろ。百貨店ならあるんだが、買いに行くほど好物じゃない。こんなに買ったのか? 」
「悟空も味見するでしょ? 」
 ポンポンと亭主が、その袋を手の上で転がす。値段は知っている。天然モノの数の子が稀少だから、これだけ買うと値段は、かなりの高額になる。
「こんなもん、サルに食わせるか。・・・もったいない。俺とおまえで食うからな。隠しとけ。」
「そんな、可哀想なことを。」
「ガキが食うもんじゃねぇー。だよな? 舅。」
作品名:こらぼでほすと 二人8 作家名:篠義