あい、じゃなくても
俺は人間が好きだ。
どれくらい好きかって?
それはもう好きで好きで愛し過ぎて
この世界ごと俺のものにしたいくらい。
でもそれは、ただひとりの例外を除いての話。
「いーざーやーくぅん」
「・・・・・・シズちゃん」
何か飛んできたと思ったらアルミ製のゴミ缶だった。
この池袋という街に来ると
いつもいつもいつもいつも振り向けば必ず奴がいる。
西口を避けようが寿司だけ買いにに立ち寄ろうが
なんで俺らってこんなに遭遇率高いんだろうね。
もしかしてシズちゃんも俺と同業だったりして。
そうじゃなかったらストーカー?超こわーい。
「シズちゃんさ、いい加減公共物破壊するのやめようよ。普通に迷惑だからさ」
「迷惑なのは手前の存在だろうが!今すぐここから出て行けノミ蟲!!」
遠巻きに物好きな野次馬が集まり始める。
面倒な仕事の後で疲れてるっていうのに、まったく空気読んで欲しいもんだね。
「はいはい、今日はもう帰るんだよ。俺をどうしても引き留めたいっていうんなら付き合うけど?」
ワザとらしく溜め息を吐いて肩を竦めると、シズちゃんがピクリと片眉を吊り上げた。
「ならノコノコ俺の前に現れてんじゃねぇ!さっさと帰れ!!」
毎度毎度俺を追っかけてくるのはそっちのほうでしょ。
今日はもう疲れてるので敢えて突っ込まない。
何だか見逃してくれそうな雰囲気だし、もうさっさと帰ってしまおう。
「おい、臨也」
「?」
何かトーンの違いが気になって振り向くと、色付きのサングラス越しに
シズちゃんが人を石に出来そうな目で俺を睨んでいた。
「・・・・・・何?」
何だろうね、この無駄な威圧感。
実際に目だけで人を射殺したことあるんじゃないの?
「手前、また変なのと絡んでんじゃねぇだろうな」
ああいやだいやだ、シズちゃんの勘が鋭いのってアレだよね。
本能で生きてるからだよね。
理性の抑制が効いてないから本能的な嗅覚が鋭くなっちゃうっていうさ。
「シズちゃんって俺の事大好きだよねぇ。そんなに俺を四六時中見てないと心配なんだ?」
「手前は悪い虫を撒き散らすからな。」
「心外だなぁ。俺はたいてい見てるだけの立場なんだけど」
これは本当だ。
シズちゃんの言う「悪い虫」ってやつは、勝手に散らばって増殖していく。
それが俺の仕業に見えるのは、あっちが積極的に関わってくるせいだ。
伏線を敷いているのは確かだけど、それ以上の事はしていない。
「まぁ、8割方は想像通りになるんだ。否定はしないけどね。」
「ああそうかよ。やっぱり手前は、」
あ、やばい。
思った時には雑草か何かのように抜かれた標識が宙に浮いている。
「ここで潰す!!」
言葉が終わる前に標識が自分目掛けて飛んできた。
ありえないよ。
何度でも言うけど有り得ないよこの人。
でも、俺にとってはこんなもの朝飯前の日常だ。
このまま避けて、その勢いで駅までとんずらするとしよう。
この場所なら、サイモンが来る可能性もある。
だけど、今回は俺が甘かった。
さっきの仕事でしくじった右足の損傷が僅かに疼いて反応が遅れた。
ヤバイな。これ、死んだかも。