こらぼでほすと 二人9
「・・・わかってる。覚えてないらしいんだ、うちの味。まあ、俺もあやふやになってるから、ご同類だ。」
「なら、いい。」
言動が、いろいろとアレな義兄だが、ちゃんと実兄のことは考えてくれているらしい。アマギのほうが勝手知ったるで、乾物置き場からイカクンやら柿ピーあたりを運んで来た。
野郎ばかりなので、バラバラと袋を開いて、そのまま口にする。坊主は、タバコを燻らせ始めたので、ロックオンもタバコに火を吐ける。ぷかぁーと紫煙を吐き出してビールを口にする。
「過去のことは触れないようにすると、昔みたいに話せたよ。・・・・俺だってわかってるってーの。」
何がわかっているかは言わなくても、義兄もトダカ、アマギも、ああ、と、頷いている。
「あいつにとっちゃ、おまえはガキのままだからな。知られたら嫌われるって思うらしい。」
「なんで、そうなるかなあ。嫌うわけないのにさ。・・・俺にとっちゃ唯一の肉親だ。生きててくれただけで嬉しいのに。」
「死ぬことに希望を持ってたっていうか・・・きみには知られずにいたいと願ってたってのがあるんだと思う。」
「今は、生きていたいって思ってるみたいですよ。この間、死にかけた時に終わるのが残念だって思ったそーです。ついでに、俺らが足枷になってて勝手なことはできなくなったって言ってました。・・・でも、義兄さんだけは、足枷じゃないそーですよ。それは不思議なんだけど。」
実兄曰く、義兄だけは足枷にはならないのだそうだ。これだけいちゃこらと暮らしているというのに、その関係を解消しても、なんら困らないというのが、ロックオンには不思議だ。
「居て当たり前だから。そうだろ? 三蔵さん。」
「けっっ。」
「それこそ足枷じゃないですか? トダカさん。」
「それだけ信頼してるってことだと思うよ、ロックオンくん。突然、ニールが何らかの都合で姿を消しても、この亭主は動じない。そのうち戻って来るだろうとか考えるのさ。ニールも、同じように考えるんだろう。だから、自分が何かをやらなきゃならなくなったら、何も言わずに動いてもいいってことだ。・・・・籍を入れたらどうだい? 婿殿。」
「うるせぇー舅。・・・おい、義弟。俺とあれは、適当にやってるだけだ。だから、どっちかが、都合があれば別れるって最初から確認してある。それだけだ。俺のほうは、しばらく都合が良いから、別れるとなったら、おまえらが何かしでかした時だ。覚えとけ。」
「え? 俺ら? 」
「組織で騒ぎがあれば、あいつは、誰がなんといってもフォローに廻る。そのためなら、この生活を全部ぶち壊すことぐらい、屁でもねぇーだろ。そういうことだ。」
それで、ロックオンも気付く。何のために生きているのか、足枷というものが存在するのか、それは実兄を生かしているものではあるが、諸刃の剣でもある。足枷が外れそうなことが起れば、実兄は足枷を維持するために動くだろう。今のところ、足枷が揺るぐとすれば、まだまだ活動する組織にいるマイスターたちの分だ。ヴェーダを自由に使える実兄なら、組織の危機に対応できる可能性がある。それに随時、リジェネから組織のことも伝わっているはずだ。
「わぁー面倒くせぇーなあ。」
「はははは・・・・騒ぎが伝わらなければ問題はないさ。リジェネくんも、些細なことはスルーしている。連邦の創生が、このまま恒久的平和を目的としてくれれば、組織も過激な行動には出ないだろう。」
「それなら、いいんですけどね。・・・・あ、そうか。トダカさんたちも、ご存知なんですね。」
「ヴェーダを唯一、自由に使える特技なら、うちは、みんな知ってるよ。なんせ、リジェネくんがキラ様の依頼に応えたのは、ニールのためだからね。・・・・まあ、うちの子は平和利用しかしないだろうから、何の問題もないだろう。当人は、その事実に気付いてないしさ。」
「まあ、あれは仕方がないでしょう。ニールは、あの事件の時は意識がなかったわけですから。」
「亭主の活躍も語れないねぇ。」
「いらねぇーよ。」
寺の女房拉致事件は、『吉祥富貴』が総動員で動いたが、拉致された当人は意識がなかったので、その事件すら知らないからだ。実際は、『吉祥富貴』のトップであるラクス・クラインの拉致だが、ここにいるのは、主にニールの奪還をメインにしていた面子だ。
「あの子が、ここで日常を作り出してくれているのは、私たちにとっても癒しになってるから、それでいいんだ。」
「義弟、あいつを生かしておきたければ、せいぜい生き残るんだな。あれは、おまえらのために生きているんだ。」
「わかってます。おいそれとは死にません。俺もダーリンと、まだまだいちゃこらしたいですから。」
「そうだねぇ。きみらも、まだ新婚さんだったね。」
それから話は、組織での新婚生活なんていう暴露話に移行して盛り上がっていたら、玄関が開く音がした。
作品名:こらぼでほすと 二人9 作家名:篠義