輝ける水の都【夏コミ86新刊】
§§ Prologo §§
ぱしゃん――。
水面で何かが跳ねるような音がした。
魚か何かだろうか?
日付が変わる頃まで酔い過ごし、少々覚束ない足取りでラグーナ沿いの歩道を歩いていた男は音のした方へと目をやった。ラグーナの中心には、この町のシンボルでもある大理石の人魚の像が月明かりに白く照らされている。今日は満月だからいつもより特に明るかった。
しかし、そこから絶えず湧き出ている水がちらちらと月光を僅かに映している以外には、水面は黒く揺蕩っているくらいしか判別できない。
気のせいか――と思ったその時、暗い水面でちらりと何かが反射して光るのが見えた気がした。
「――?」
男は酔いでぼんやりした目をしばしばと瞬かせながら、手摺から身を乗り出してそれを確かめようと覗き込む。すると水面が俄かに波立ち始め、人魚の像を中心にざっと渦を巻いて吸い込まれるように水が深く下に向かって抉れる。
底の方には何か大きな魚が……いや人か? 上半身は人間の女のようにも見えるのだが、まさか……。
「に、人魚……?」
そう思った瞬間、背後から突き押されたように男の身体が手摺を乗り越えて水へと落ちた。
「うわっ……?」
咄嗟のことに何が起きたのか理解できず、それでも本能的に浮かび上がろうともがいた両腕は意味をなすことなく、男は激しい渦に巻かれてみるみるうちに吸い込まれていった。
「わあああああ……!」
男が完全に水底に姿を消すと瞬時に渦は治まり、水面は何事もなかったかのように深夜の静けさを取り戻す。
本当に一瞬の出来事でしかなかった。今そこに在るのは、いつもどおりの月明かりに照らされた白い人魚の像と黒々とした水を湛えたラグーナだけだった。
ぱしゃん――。
水面で何かが跳ねるような音がした。
魚か何かだろうか?
日付が変わる頃まで酔い過ごし、少々覚束ない足取りでラグーナ沿いの歩道を歩いていた男は音のした方へと目をやった。ラグーナの中心には、この町のシンボルでもある大理石の人魚の像が月明かりに白く照らされている。今日は満月だからいつもより特に明るかった。
しかし、そこから絶えず湧き出ている水がちらちらと月光を僅かに映している以外には、水面は黒く揺蕩っているくらいしか判別できない。
気のせいか――と思ったその時、暗い水面でちらりと何かが反射して光るのが見えた気がした。
「――?」
男は酔いでぼんやりした目をしばしばと瞬かせながら、手摺から身を乗り出してそれを確かめようと覗き込む。すると水面が俄かに波立ち始め、人魚の像を中心にざっと渦を巻いて吸い込まれるように水が深く下に向かって抉れる。
底の方には何か大きな魚が……いや人か? 上半身は人間の女のようにも見えるのだが、まさか……。
「に、人魚……?」
そう思った瞬間、背後から突き押されたように男の身体が手摺を乗り越えて水へと落ちた。
「うわっ……?」
咄嗟のことに何が起きたのか理解できず、それでも本能的に浮かび上がろうともがいた両腕は意味をなすことなく、男は激しい渦に巻かれてみるみるうちに吸い込まれていった。
「わあああああ……!」
男が完全に水底に姿を消すと瞬時に渦は治まり、水面は何事もなかったかのように深夜の静けさを取り戻す。
本当に一瞬の出来事でしかなかった。今そこに在るのは、いつもどおりの月明かりに照らされた白い人魚の像と黒々とした水を湛えたラグーナだけだった。
作品名:輝ける水の都【夏コミ86新刊】 作家名:はろ☆どき