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はろ☆どき
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輝ける水の都【夏コミ86新刊】

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§§ Uno §§




「水の都、ヴィエナーレ……?」
エドワードは聞いたことのない名称に首を傾げた。隣に座るアルフォンスも反応が薄い。
「ヴィエネ湖……ってどこにあるんでしたっけ」
ここは東方司令部のロイ・マスタング大佐の執務室で、二人は今、賢者の石もしくは人体錬成に関する有益……である可能性がほんの少しはあるかもしれない情報を、ロイから聞かされているところだった。
「東方司令部管轄の北東部に山岳地帯があるだろう? その一角に湖水地方と呼ばれる一帯がある。かなり僻地だから何処かに行くついでに通りかかるということはないだろうがね」
ロイが話している間にホークアイが地図を持ってきて、テーブルの上に広げた。アメストリスの全体図と湖水地方を拡大したものとを並べて置いてくれる。
ロイは湖らしき表示が点在している地図の一点を指差した。
「この山間部の一番奥にあるのがヴィエネ湖だ。ここがこの一帯の湖全ての水源らしいのだが、これだけ広範囲に多量の水を捻出できるとは余程の水脈が地下にでもあるのだろう」
ロイの言うとおり、地図で見る限りかなりの数の湖があるようだ。その水源が一箇所の湧き水程度では追いつかないだろう。
「ふーん、自然の力だけで出来てるんなら確かにすごいけどな。けど、オレ達に情報くれるってことは錬金術絡みなんだろ。まさか錬金術で水を創り出してるとか? 賢者の石でも使って」
ロイが視察や調査依頼ではなく、純粋に自分達への情報提供として話すからにはそういうことなのだろう。
賢者の石の手がかりになるような情報があれば教えてくれるというのが、エドワードが国家錬金術師になった際のロイとの約束なのだから。
そう、これは云わばお互いの利害の一致を前提とした契約のようなものだ。それ以上の他意はないはずなのだ、とエドワードは自分に言い聞かせるように心で念じる。
そんなエドワードの心中など知らぬかのように、ロイは話を続けた。
「そう思えなくもない言い伝えはあるようだよ。過去はともかく今現在確認されている錬成は水を生み出すものではないがね。しかしかなり大規模なものだ」
「なんだよそれ。オレ達に関係あるネタなのか」
「まあそう焦るな、鋼の。まずはその町の言い伝えについて資料を読んでくれたまえ」
焦れるエドワードに、ロイは鷹揚な態度で「言い伝え」とやらについて書かれているらしい資料を差し出してくる。仕方なくエドワードはそれを受け取って頁を捲った。

~*~*~*~*~*~

~ヴィエナーレの言い伝えと儀式に関する記録~
アメストリス北東部にある湖水地方。山々が連なる地域で、その合間に多くの湖が湛えられた一帯のことである。
それらの源泉とされる巨大な湖、ヴィエネ湖があり、その真ん中にある浮き島の上に造られた町がヴィエナーレだ。
そこは中心に水の湧き出るラグーナを配し、それを囲むようにして造られた円形の町となっている。
町の至る所にラグーナに続く水路が張り巡らされており、水はラグーナから町中を抜け、町をぐるりと囲んだ水路に流れ込む。そしてその外周から水が絶えず万遍なく溢れ出ていて、その光景は正に湖の上に浮かんだように見える。
朝靄の中に立ち上る町の様子、また夕陽を受けて浮かぶ様子など、それはそれは幻想的な光景である。
人々はそこを「水の都」と呼び、豊富な水源を守る町として誇り称えている。
言い伝えでは、且つてのヴィエネ湖は年に一度だけ大量の水が湧き出る日があった。
五月のとある日、夕陽が西に満月が東の空に同時に在る、その一瞬だけ。けれどその一瞬で湖は豊富な水を湛え、周囲に肥沃な土地をもたらした。
人々は毎年その日を待ち望み、この地でまた水に不自由することなく暮らしていけることに安堵し、感謝を捧げるのだった。
ある年のこと。
五月のその日が訪れた時、水が溢れるだけでなく、ヴィエナーレとそっくりな町がラグーナの上空に映し出されるという現象が起きた。
夕陽で赤く染まる空に、ヴィエナーレが天から逆さまに垂れ下がるように、蜃気楼の如く美しく儚く揺らめく町並み。それはとても神秘的な光景だった。
やがて夕陽が山の向こうに沈み満月が天高く上がると、その天空の町の幻も消えてしまった。しかしその後には美しい人魚がラグーナに現れた。
人魚によると、あの空に映し出された町はこの世界とは別のどこかに存在する水に満ちた世界にあるのだとか。人の目には見えない通路で繋がっており、この豊かな水はそこから流れ込んでいるのだという。自分はそこから来たのだと。
当時ラグーナの水源について研究していた錬金術師が、人魚に教えを乞うた。人魚の血をもって通常にはない錬成の力を得、水の町とラグーナを繋ぐ通路を開くことに成功した。
斯くしてラグーナの水は常に湧き出でるようになり、ヴィエネ湖とさらに周囲の湖を潤し続けるようになったのだという。
人魚は自分の血の結晶である赤い石を錬金術師に託して元の水の世界へと戻り、錬金術師は水源であるラグーナと町を守る役目を負った。
ヴィエナーレでは毎年その日その時に合わせて、儀式が執り行われる。言い伝えの人魚と血を交わしたとされる錬金術師の子孫であるこの町の長が、毎年自らの血を一滴ラグーナに垂らす。恵みをもたらし続ける水源の対価として、感謝の念を籠めて人魚へ血を少しずつ返すのだ。すると天から幻の町が垂れ下がるように現れるのだという。
そうして夕陽と満月が空に訪れた時、人々はそれぞれの想いを籠めて空に映し出される水の町を見上げる。自分の町や湖水地方の発展を願う者、家族や自身の個々の幸せを願う者。
人々はその不思議な幻の町を「美しき輝ける水の都」と呼び、それを目にしたものは幸せになれると語り継がれた。
神への信仰とは違った独特の風習のある町である。

~*~*~*~*~*~



読み終えたエドワードは頁を閉じると、一応ロイに許可を得てからアルフォンスに資料を渡す。
軍の機密事項だからとか何とか言って、こういった話をする時にはアルフォンスを執務室には入れないことも多いのだ。それが今回はこうして隣に座っているのが許されているくらいだから、当然同様の内容を知ってもよいということだろう。
ロイ曰く、「どうせ鋼のから同じ話をするのだから一緒に聞いた方が効率的だろう」ということらしい。そんなことを言ったらここで聞いたことなど大概アルフォンスには筒抜けなのだが、効率がいいのは確かなので反論はしないでおく。
「うーん、確かに赤い石って記述はあるけど、それが錬成に関係あるかどうかこの資料じゃ分からないよな。オレ達が求めてる物なのかどうかは疑問だ。別の世界との通路とかいうのはつまりでっかい水源掘り起こしたってとこだろう。町の幻を空中に映し出す錬金術ってのがどんな錬成なのか気になるとこじゃあるけど、オレ達とは関係ない話だよな。引っかかるとしたら人魚ってやつだけど……」
「その錬金術師が錬成したキメラとか?」
資料を読み終えたらしいアルフォンスも、同じ考えに至ったらしい。
「赤い石というか何かの血で人魚を錬成したとか?」
「人と魚を使って、キメラを錬成したとかじゃなければいいけどな」