技術の時間。
となり
プリントアウトされたデータを見ながら、正一がパソコンを打つ。そのすぐ側で、スパナもパソコンを傍らに、機材のメンテナンスをする。そんな時間を過ごすのはとても久しぶりだ。
「ショウイチ」
バラした機材のビスを光に当て、穴の中を覗きながらスパナは横にいる正一を呼び、返事がないと分かるとビスの穴から彼を見た。
新しい飴をくわえると、スパナはビスを持たない方の手を正一に伸ばした。
正一は微かな鼻歌を歌いながら、余所から上がってきたデータをパソコンに打ち込んでいる。いつものように大きなヘッドホンをかけ、おそらく大好きなBLOOD+PEPPERを聞いている。
その音が、不意に消えた。打ち込む手を止めて見れば、普段はあまり表情を動かさないスパナが少し眉間に皺を寄せた不機嫌そうな様子で自分を見ており、その手には正一のヘッドホンが握られていた。
「どうしたの、スパナ」
「ショウイチが音楽を聴きながら仕事をすると集中できる、のは、知ってる。でも」
スパナはヘッドホンを床に置き、飴を口から離した。
「今、これはおかしい」
「…そう…だね…?」
今一つ分かっていない様子で、またヘッドホンを引き寄せようとした正一の手を、スパナが慌てて掴む。
「ヘッドホン禁止」
と真剣に言うのがおかしくて、正一はくすくす笑いながら、分かったよ、とスパナの手を空いている一方の手で撫でた。
「一人にしてごめん」
「ん。分かれば、いい」
2009.9.16 源