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技術の時間。

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趣味と実益?




「スパナ、スパナ!」
 隊長の威厳が、と着衣を義務づけられている上着を小脇に抱え、正一はスパナの自室の前までやってきて、インターホンに呼びかけた。
「誰?ウチ、今忙しい」
 機械を通した声では分からなかったらしく、ぼうっとした声が返ってきたのに、正一はイライラと指で壁を叩きながらまた声をスピーカーに吹き込む。
「スパナ、正一だよ。話がある」
「ショウイチ?…なら、忙しいけど後にする」
 心なしか、ぼうっとした声の音がワントーン上がった気がするが構わず、やがてプシュッとロックの解かれる音がして開いたドアの向こうを目にした途端、正一は小さく、う、と呻いた。
「ショウイチ、今お茶を煎れるからそこに座って」
 うきうきとベッドを指して、スパナは手にしていたプラスチックのプレートとニッパーを置いて立ち上がった。
「いやお茶はいい、遊びに来たんじゃないんだ」
 引き留めながらちらり、彼の足下に目をやる。何かの機材が入っているには小さめの紙箱、ビニール袋、白や青の色が付いたプラスチック、大小のニッパー、紙ヤスリ…
「立ち話?」
「話というより」
 これ、と正一は手にしたジャケットの下から出した厚さ1cmほどの紙の束をスパナの目の前に突き出す。が、スパナは首を少し仰け反らせ、
「ショウイチ、近い」
「ん?あ、すまない……じゃなくって!なにこれ!」
「なにこれって…」
 受け取った紙束をペラペラめくる。
「…ガンプラ…とガンダムのDVD?」
「そう、その領収書。必要経費って、こんなの通らないよ!」
 ビシッ、と証拠品の散らばる床を指すが、スパナはきょとんとして首を傾げる。
「研究費は必要なだけ使っていいんじゃなかったのか?」
 確かに本部からも潤沢な費用が約束されているが、それはモスカの開発費用であって、けしてガンプラやアニメを見るためのものではない。
 どう言ったものか、正一は眉間を指で揉みながら溜息を吐いた。おまけに腹が痛くなってきたような気がして、うぅ、と声を漏らして断ったはずのベッドの上に腰を下ろした。
「ショウイチはロボットは必ずしも人型でなくてもいい、って言った。そしてキューブを作った…まだ実現化してないけど、あれは本当にスゴい」
 正一が座った向きの反対側で、スパナは小さな茶箪笥のようなものの中から湯呑みやら缶やら取り出しお茶の準備を始めている。
「な、なんだよ急に…」
「ウチは人型のロボットが作りたい、ショウイチのキューブに負けないスゴい奴」
 スパナはそう言いながら、煎れたばかりのお茶と一緒に一口大にした黒い塊を皿に乗せて正一に渡した。
「なんだい、これ」
「またお腹が痛くなったのかと思って。黒砂糖。お腹が痛い時に食べると良いって、テレビで言ってた」
 ありがとう、とその黒い塊をそろそろと口に含みながら話を戻す。
「その、君の目標とガンプラがどう関係するんだ?それに人型タイプならモスカがあるじゃないか」
 こちらを振り向いた正一の前に、スパナは組成済みのガンプラ…ヤクト・ドーガでガンダムではなかったが…を差し出した。
「一番進んでる、日本のロボット技術を知るにはコレが一番!世界も認めてる!」
「ガンプラじゃ技術関係ないじゃん…」
「それにロボットも装備兵器もカッコいい、ウチ、こんなモスカも作りたい!」
 そうしたらそれはもうモスカじゃないじゃん、とツッコみたいところだが、気持ちは分からないでもなかった。
 話しているうちに火がついたのか、棚に置かれたガンプラの箱や完成品の説明をしようと浮き足立っているスパナに、
「結果、出してくれる?」
 と言った。一瞬、何のことかとスパナの目が戸惑うように揺れ、正一はふっと目を細め、口元を緩めた。
「結果が出せるなら通してもいいよ。半分だけど」
「本当!?ウチ、ガンバル!」
 そう、抱きついてきたのを片手で受け止めながら、残りは君の給料から天引きだよ、と言ったのは伝わったかどうか。


 数日後、『基地内を動き回るガンプラの怪』でこの部屋を訪れるのは、また別の話。


2009.9.23 源
作品名:技術の時間。 作家名:gen