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At Any Rate ... (インテサンプル)

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 四月が始まって数日、私立大学に少し遅れて大学の入学式があった。ひどくつまらない話を聞き流し、始めて聞く校歌に欠伸をかみ殺し、立ち上がった時には身体が凝り固まっていた。
 講堂を退場する時間には、在校生たちが講堂の入り口でごった返しており、スーツを着た新入生がサークル勧誘に巻き込まれる様子が目に映る。その光景に、花宮はため息を吐いた。
 身長が百八十センチもあれば一般の男性からしてみれば高い方で目立つ。さらに、花宮のバスケで鍛えた身体はまだ衰えていない。そんな体格の真新しいスーツを身に纏った学生がいれば、運動サークルはもちろん、体育会の部からも勧誘の声が掛かるのは目に見えている。
 人混みに紛れて逃げるといっても、頭一つ出ているため、嫌でも目立ってターゲットになりやすい。しかし、人が少なくなるまでどこかで待つことも、どれほど時間が掛かるか分からない。不確実なことをしたくなかった花宮だが、考えた末に強行突破をすると結論を出した。要するに、全て無視して態度が悪いと諦めさせれば良いのだ。

「背高いね、運動とかしてた?」
「入る部活とか決めた?」
「お前ならきっとすぐレギュラーに」
「気軽に参加してもらえるサークルだから」
「あ、君――っ」

 話し掛けられても対応せず、しつこい場合には急いでいるのでと振り切る。押しつぶされそうな人混みでも、足を止めずに逃げることが最重要だった。腕を掴まれそうになっても、どうにかかわす。
 あと少し。人の波が薄くなった校門付近、花宮はほんの少しだけ気が緩んでしまったことを恨む。

「バスケ興味ない?」

 進行方向を遮るように現れた一人の男。ここの学生なのだろう、手には勧誘のちらしを抱えていた。その男の目的など、言われる前に予想がつく。それにしても、と花宮は思った。よりによって、高校時代に入っていた部活名を出されたため、わずかに反応が遅れてしまったのだ。

「……いえ、まったく――」
「お。なんや背ぇ高いの捕まえ……」

 背後から飛んで来た声に、振り返りそうになった衝動を堪える。普段、耳にしないイントネーションとこの声に覚えがあった。

「すみません、急いでいるので」
「そんな急ぎなや。のう、花宮?」

 ぎり、と音が鳴りそうなくらいの強い力で右肩を強く押さえつけられる。ちらりとそこを見れば、背後から誰かの左手が伸びていた。
 こいつの利き手、左じゃなかったよな。よく知っていた男のことを思い浮かべ、過去の記憶を引き出す。右肩に掛かり続ける異様な握力に、花宮は自分の失態を後悔した。

「力づくで勧誘しようなんて、普通の人は逃げてしまいますよ。ねえ、今吉翔一先輩」

 逃げる方法を考える。知らないフリをすることも出来たが、この状況では無意味だと悟った。
 花宮が言った嫌味の一つや二つなんてこの妖怪には通じない。むしろ、嫌がることを全て知った人間には、数倍返しで臨んで来る可能性だってあるのだ。そうとわかっていたものの、つい口にせずにはいられないのは花宮の生まれ持った性分だった。

「そやそや、どうせジブンは体育会入るつもりないんやろ? やったらサークル入らん?」
「残念ながら先輩に構ってる暇はないので。いい加減、手を離してくれませんかね」

 そのまま話を続ける今吉の手を、身体を捻りながら振り払うと、今吉のいる方へ向くことになり、相対する。一年以上振りに会った中学時代の先輩は、以前よりもわずかに伸びた髪の毛と、しっかりと整った目鼻立ちから大人びた印象を受けた。身につけている黒縁の眼鏡のデザインと、花宮とのわずかな目線の高さの差だけはまったく変わっていない。

「なんだ、今吉。知り合いか?」

 口を挟んだのは、最初に花宮を引きとめた男だった。

「ああ、中学の時の後輩で――」
「興味もありませんし、急いでいるので失礼します」

 今吉の気が反れた一瞬を狙い、手が届かない場所まで動く。足早にその場を去ろうとすれば、二人は追いかける様子はなかった。ただ、最後に今吉が手を振りながら呟いた言葉は聞かなかったことにしたかった。
 またな。なんて、次の再会を促す言葉なんて。