凌霄花 《第四章 身をつくしても…》
「俺も聞いてみた。優希枝はあの薬の実験台になって泣いたんだ。意味がわからん。そしたら口で言いたくないって、これもう一度読めって」
どうやら彼女は秘薬に文をつけていたらしい。
しかし、早苗は読まずに放った。
自分にも非がある。大人しく文に目を通した。
そこには、確かに口で言うには憚られるようなことが書いてあった。
同時に、早苗に向けての助言が細かく書いてはあった。
そこには義姉なりの気遣いが見て取れた。先ほど彼女を恨んだことを後悔した。
「……それで、兄上は義姉上と寝たのですか?」
「……あぁ。まぁ、夫婦だ。どうにかなる」
平太郎と優希枝の兄夫妻はそれでどうにかなり、おかげで夫婦間が良好になった。
しかし……
「……無理です」
「どうする気だ? 今までの秘薬と違って、ほっといて元に戻る保証はないぞ」
「……怖いんです。無理です」
「何が怖い?」
「こんな男の身体を見たうえに、抱かれたら…… 私が早苗に戻っても抱きたくなくなるでしょう……」
現に、口づけをしたら怒った。
怒ってばかりだった。
「早苗……」
「閨で男の身体を思い出したら、気持ち悪くて萎える…… とにかく無理です。兄上、他の方法調べてください。お願いします」
そう言うと格之進は部屋を出た。
「あっ……」
そこには美帆が立っていた。
「……聞いてたのか?」
「あたし……」
「心配するな。何もしないから。ごめんな今まで……」
笑顔でそう言ったが、目は泣いていた。
「兄上が、お前に話があるそうだ。じゃあな、助三郎」
美帆と呼ばなくなった。
「待って…… 格さん……」
去っていく彼を呼びとめようとしたが、彼は振り向かなかった。
作品名:凌霄花 《第四章 身をつくしても…》 作家名:喜世