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凌霄花 《第四章 身をつくしても…》

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「わたしもです。早苗さま」

 しばらくそのままでいたが、拙いと感じ身体を離した。

「旦那様に怒られないか?」

 すると意外な答えが返ってきた。

「申し訳ありません、言ってしまいました。格之進さまは、本当は早苗さまだと」

「……信じたのか?」

「はい」

「……そうか、お夏のこと信じてるってことだな」

 安心して大事な友を託せる。
そう確信した格之進は笑った。

「元気で」

「早苗さまも」





 その晩、格之進は美帆と共にお富の用意した夕餉をとった。
しかし、むすっとしてまともに返事をしない美帆。

「機嫌悪い?」

「悪くなんかない」

「ふぅん……」

 美帆は口が裂けても言えなかった。
格之進に抱きしめられているお夏に嫉妬していたことなど。
 自分自身、認めたくなかったのだった。





 寝間着に着替え、もう布団に入るというのに、美帆はむすっとしていた。

「ごめんな……」

 変な薬を飲ませ、女に変えたことを怒ってるのだと思った格之進は、しきりに謝った。
 しかし、それが理由ではなかった。

「もう謝らなくてもいい」

 そっぽを向いたままつっけんどんにそう言った。
すると……

「仕方ない。お詫びしよう」

「お詫びって?」

 振り向くと、格之進が唇を重ねていた。
 驚き、身動きが取れない美帆。

「……許してくれるか?」

 抱き締める以上のものが突然やってきた。
はっと我に変えると、布団にもぐった。

「し、知らない!」

「やっぱり可愛いなぁ……」

「うるさい!」





「……なんで朝から怒ってる?」

「それは!」

「嫌がってなかったくせに」

 美帆が怒っているのは、寝起きの口付け。
しかも昨晩より長かった。

 思い出して真っ赤になるその顔を見て、格之進もニヤけた。
 
「……やっぱり可愛い」





 昼前、突然玄関に人が立った。

「おはよう! 助ちゃんいる?」

 格之進は焦った。
 お富はちょうど出かけて留守。己は表向き謹慎処分なので居留守は使えない。
しかし、助三郎を出すこともできない。
 意を決して、格之進は玄関へ彼を出迎えに行った。

「あいにく助三郎は取り込んでおります……」

『早く帰れ、九壱郎』
 
 そう心の中で強く念じた。

「でもいいや。俺が用事あるの早苗ちゃんだから」

 ぎくりとしたが、平静を装った。

「姉は水戸ですが……」

「『表向きは』でしょう。早苗ちゃん、久しぶり」

 その瞬間、大刀を抱えるようにして美帆が怒りの形相で出てきた。

「お前! 約束破ったな!」

「破ってないよ! あれ、美帆ちゃん居るじゃん。相変わらず可愛いねぇ」

「黙れ! ぶっ殺す!」



 ひと悶着あったが、どうにか収め客人を部屋に通した。

「で、用事はなんなの?」

 不機嫌極まりない美帆が、九壱郎を睨みつけながらそう聞くと、

「……弥生の件。いい加減決めないと上が煩いんだよ。牢屋も経費がかかるから。で、考えてくれた?」

 いたって真面目な訪問理由だった。

「早苗に任せたの…… 考えてくれた?」

「あぁ…… 少々お待ちを」

 自室から何やら持ってきた格之進。
九壱郎の前にそれを広げた。

「この二択をあの女に選ばせようと思います。目を通してもらえますか?」

 しかし、彼は見ずに言った。

「あ、そうそう。敬語禁止だから。友達でしょ? あと、早苗ちゃんって言うと美帆ちゃんが起こるから、格ちゃんでいい?」

「はぁ? まぁ…… なら言わせてもらうが、お前いつもそれで仕事やってるのか?」

「ううん。……いたって真面目にやっておりますよ、渥美殿」

 言葉づかいのみならず顔つきまで別人のように切り替わった彼に驚いた。

「春恵とはどっちで生活してる?」

 親友の旦那。少し気がかりではあった。
忙しすぎて、結婚後の彼女に全く会えていない。

「夜のみこっちですよ……」

 その言葉に、一瞬格之進の脳裏に、生霊の荒々しい助三郎の姿がよぎった。
普段とは違う彼の姿。ふっと閨で見たくなった。
 しかし、今はかなわない。
 辛さを感じたが、棒読みの可愛い声にふきだしていた。

「あ、そう。よかったね。どうでもいいから早く仕事して帰って。春恵ちゃんがかわいそう」

 美帆は九壱郎の話に全く興味がないとあからさまに主張していた。

 彼はふだんのお気楽な彼に戻り、格之進の出した紙を読んだ。

「……本当にこんな甘いものでいいの?」

「……女にとってその二拓は甘いもんじゃない。それより死罪の方が楽だ」

 憎い天敵にする仕返し。罰。
一つは、自分が味わった苦痛以上の物を味わわせてやりたいという思いで書いた。
もう一つは、後で付け加えた。いったん恨みを捨て、彼女の生い立ちを鑑み、更生を少しながら願ってのこと。
 この二つを最後に選ぶのは、本人。

「そうか…… じゃ、すぐ手配するね」

「よろしく頼みます」

 業務が終わるや否や、美帆が九壱郎を追い出しにかかった。

「さ、用が終わったらさっさと帰った帰った!」

 しかし、彼もただでは帰らない。

「はいはい。美帆殿。超男前の旦那さまと二人っきりにしてあげますよ」

「うるさい!」

 再び大騒ぎの末、九壱郎は帰って行った。

「やっと帰った……」

 ほっと一息つく美帆をニヤニヤして見ていた格之進。

「そっかそっか」

「なに?」

「俺と二人っきりになりたかったんだ」

顔をまた赤くして美帆は怒鳴った。

「違う!」





 それから二日後の夕方。
玄関に転がり込んできた者があった。

「よ、よう…… 男前が、一段と増したようだな。我が、弟よ……」
 
 平太郎だった。
髪は乱れ、無精髭が目立ち、埃まみれ。
 へろへろになっている兄に格之進は驚いた。

「兄上!? 冗談なんか言ってる場合じゃないでしょう!? お富! 水を!」

 お富に水をもらい、人心地ついた平太郎は格之進に頭を下げた。

「すまなかった! 優希枝が勝手に変なものお前に渡したせいだ!」

 格之進は、兄から細かな説明を聞いた。

 
「……ということは、夫婦仲改善薬ではないと?」
 
「そうだ。夫婦で性を入れ替えるだけの意味不明な薬だ」

 いい加減だった兄が、研究熱心になったことは褒めたかった格之進だが、
なぜそんな厄介なものを破棄せず義姉が持っていたのか。
 疑問は多々残った。

「それで、今までの解毒剤は効かないのですか?」

「そうだ。効かない」

「では、どうすれば?」

「……一度夫婦で関係を持てば、解毒剤が効くようになる」

 格之進は耳を疑った。

「関係って……」

「今のお前は、本物の男とほとんど一緒だ。だから……」

「……美帆を抱けと?」

「……そうだ。一回で良い」

「……他に道はないのですか?」

「ない」
 
 助三郎に妻として扱ってもらいたかったのに、なぜ逆なのか。
 泣きたくなった。
 
「なぜ義姉上がそんな秘薬持っていたのですか?」
  
 格之進は初めて義姉を恨んだ。