天使への遺言
馬車の窓から身を乗り出し、おまえは私に手を振っている。
危ないからやめろ、と言ってはみたものの、自分の思うようにしか行動しないあたりは、口づけ合った前も後も変わらない。いや、そのように変わらないからこそ私は、おまえに惹かれるのかもしれない。
ひとしきり口づけて、息の上がったおまえが落ち着いた後、ぽつりとおまえは言った。
「私が女王になっても、どうか変わらず助けてくださいね」
そうだ……おまえこそ、私が変わることを恐れたか?
「私が助けずとも、おまえは自ら切り開いていける」私は変わらない。変わらず誓う。「けれど、守護聖たちや私は……おまえのことをいつも見守っている」
たとえ、見守る場所が変わってしまったとしても。
馬車が――おまえが――見えなくなるまで、私は見送った。
ふと、人の気配に気づいて振り返ると、よくおまえがやってくる時間帯に執務室にいる側仕えの者が私に歩み寄っていた。
「……お伝えしなくても良かったのですか」
おずおずとではあったが……よけいなことを言う。だが私を気遣ってくれていることはわかるので、文句を言うのはやめておいた。
「構わぬ……明日には知れることだ」
「こちらも準備が整いました」
別の側仕えが声をかけてきたので、頷いて私も馬車に乗る。
乗りながら思う。
そう。
明日には知れることだ――私の、守護聖としての力が尽きてしまったことなど。