天使への遺言
ふっ、とその感触が離れる。
そのとたん、私の唇は一気に冷えてしまったような気がした。
目を開けるとおまえは、まだ腕を私の首に回したままだったが、私を見つめて微笑んでいた。その、急に大人びてしまったような表情に私は戸惑った。
「ありがとう……ございました」
律儀に、おまえは礼を言う。
「もう良いのか?」少しだけ拍子抜けして私は続ける。「『大人の』とやらはしないのか?」
くす、とアンジェリークは笑って首を横に振った。
「私にはもう、これで精一杯です……でも」私の首に回した腕を解くとおまえは、その手を私の胸のほうへと滑らせた。「でもその代わり、ちょっと……もたれていても良いですか?」
「ああ、良い」
そう私が答えると、おまえは安心したようにもう片方の手を私の腰に回し、頬を私の胸に当ててもたれかかってきた。
私は執務机に両手を置いて我が身を支えていた。そして、その手で、この胸の中にいるおまえをかき抱きたい衝動を懸命に抑え、堪えてみた――だがそれも、刹那のことに過ぎなかったけれど。
「……アンジェリーク」
「……はい?」
気持ち良さげな表情で、おまえは私の呼ぶ声に応えてくれる。
あとどのくらい、これが続くというのだろう。
「私もおまえに褒美をねだって良いだろうか」
「え?」
「おまえのような女王候補を、よくぞこうして立派な女王になるまで導いたと誉めてはくれぬか?」
「な、何ですか、それー!」
せっかく上機嫌で私の胸に埋めていたであろう顔を上げてまでして、おまえは文句を言おうと私を見た。だが私は、おまえに続きを言わせなかった。
「アンジェリーク……おまえという女王の御代に私が関わることのできた記念に……な」
はたして、私は笑って言えただろうか?
切羽詰まっているように見えていないだろうか?
「……いいですよ」そう言うとおまえは、ゆっくりと私から身をはがし、微笑みながら私を見た。「どんなご褒美をお望みですか?」
おまえも感づいたらしい――私の想いに。
執務机から離れ、今度は私のほうからおまえの前に立って告げる。
「おまえに……口づけたい」
私を見上げ、見つめていた瞳が、無言のまま閉じられた。
おまえの頬を両手で包み、私はそれを唇にあてがう。そうして何の躊躇もなく、おまえの唇に割り込み、深く口づけた。
おまえの躰が大きく揺れた。
すかさず強く抱き締めると私は、丹念に、けれど決して緩むことなく深くおまえの中をなぞり、入り込んでゆく。
おまえは懸命に私にしがみついているだけだったが、やがて私に応えようとぎこちなくも舌を絡めてきた。
愛しい。
愛しくて愛しくてたまらない。
このまま共に……たとえ女王と守護聖という立場であっても、共にいられたら私は……どのような苦労も厭いはせぬ。
それなのに。