タイトル(仮)
「たりめぇーだ。つか、負けてねぇよ俺ァ」
「はぁ?ボロボロのくせに何言ってるアルカ!」
「ボロボロじゃないですー、オシャレでぃ!」
「ちょ、ちょっと二人とも!!」
先ほどの空気を一変させて通常運転に戻った二人に新八が焦り出すと、土方たちがタイミングよく駆けつけてきた。
「良かった、三人とも無事だったか」
「無事じゃないヨ、見ての通りボロボロアル。とくにそこのサド」
「はぁ!?誰がボロボロだぁ?!」
「ま、まぁ命あっての、ってやつですよ」
「話は後だ。今はこの建物から逃げることが先決だろ」
疲弊して動けない子供たちを各自で背負いながら土方が言えば、神楽がその上で不安そうに振り返った。
「ま、待ってヨ!…まだ…まだ銀ちゃんもヅラも!!」
「近藤ォォォォォォオ!!!」
対峙したままの銀時が叫べば、近藤は土方たちにアイコンタクトをしてから出口へと動き出した。
「ちょっ、待てよ、ゴリラ!銀ちゃんが!」
「降ろしてください土方さん!!まだ、まだ銀さんが!!」
自分たちの意志とは逆に動き出した真選組に必死に静止を呼びかけたが、髪を引っ張っても思い切り背中に殴っても近藤たちは止まることなく階段を上っていった。
「なんでアル!」
「どうしてっ!!!」
「動けないお前等が残って銀時を殺す気か」
「「!!」」
近藤の太い声に自分たちの不甲斐なさに気付いて新八たちが顔を伏せれば、もう一度背負いなおして近藤が優しく声をかけた。
「あっちには逃げの桂もいる。きっと無事戻ってくるさ」
「ッ…う゛ん!」
***
階段を駆けていく音が小さくなれば、桂は刀を一度鞘に収めてから、懐にあった教本を取り出して高杉を見つめた。
「高杉、さっきの言葉でわかった。俺たちはまだあの頃に戻れる…」
「先生もいないのに戻れるわきゃねぇ」
「しかし、貴様とてッ!!」
「…ヅラ、いい」
「銀時…」
桂を押しのけるように銀時が歩いてから木刀を構えて高杉を真っ直ぐ見据えた。
「高杉、俺ぁこの世界が好きだ。それが例え先生を失った後に出来た繋がりで出来ていても…ここには守りたい奴らが沢山いるから」
「…ッ!!」
「銀時!!」
銀時の言葉を邪魔するように高杉が刀を振るえば、木刀でそれを防ぎ、髪の隙間から煌めく双眼で射抜くようにして高杉を収めた。
「お前にも新しい仲間が出来たじゃねぇか」
高杉の胸元にある教本に視線を移してから、銀時はいつもの憎らしげな笑顔でニタリと笑った。
「幸せだよ、俺ぁ」
「銀時…」
「お前はどうだ?」
「俺は……」
「ッ高杉…」
高杉の瞳が一瞬だけ不安げに揺れた気がして桂が手を伸ばせば、高杉と二人の間に一閃が振り下ろされた。
「晋助、どうしたでござる。そんな歌じゃ拙者は乗れそうにない」
「お前…ッ!」
「…万斉…」
「晋助様ァ!建物の方が危ないっす!」
「この猪女が馬鹿みたいに撃つからですよ」
「いや、武市変態の仕掛けた爆弾のせいっすから!なに人のせいにしてくれてるんすか!」
万斉に次いで、騒がしく現れた二人に桂が舌打ちをしてから刀を構えれば、高杉は鍔競り合っていた刀を突き飛ばして銀時と距離をあけた。
「てめぇらは先に行け」
「でもっ!!」
「ぁ、じゃあ私は先に行きますね。死にたくないんで」
「武市変態ィィィイイイ!!ほんと死ね!死んでくれっす!!」
「私には心優しい少女を守って死ぬという使命がありますから」
「ほんと気持ち悪いっす、ロリコン先輩」
「ロリコンではありません、フェミニストです。そして変態でなく先輩だっつってんだろうが猪おんガハッ!!!」
運悪く武市の頭に瓦礫が落ち、気を失ったそれを見てから、高杉がまた子に視線を送れば、また子は不服そうな顔をして武市に貸した。
「晋助様、上で待ってるっす」
そう言って武市を引きずり告げたまた子に小さく高杉が笑えば、安心したようにまた子は上へと上っていった。
「万斉、てめぇも」
「晋助1人では危険だろう。それに…」
───ガンッ!!!
「この建物が壊れるまで続けそうでござる」
目の前に落ちた瓦礫に万斉が呆れた様子でクスリと笑えば、高杉は一瞥してから銀時たちに向き直った。
「高杉、今の俺たちは先生にどう見えるんだろうな」
「ヅラぁ、んなもんわかりきってるじゃねぇか」
「仲良しこよしではないことは確かだな」
交わった視線の間にゴツンッと大きな瓦礫が落ちた瞬間に三人が動き、激しい乱打が続いた。
「ヴぁぁあっ!」
「ヅラぁ、銀時ィィィイイイ」
「クッ、だらぁぁあ!!」
──キィン!
───キィィン!
一太刀一太刀が殺気に満ちている攻撃とかち合う度に起こる火花は崩壊していく建物と不思議なコントラストを描き、万斉はドクドクと疼く感動に頬をゆがめた。
(三人は気付いてない……)
高杉に対して、互い互いに鍔競り合いを繰り返しながら銀時たちが大きく振りかざせばザンッと高杉の顔が切られた。
「ぐぁっ!」
包帯がほどけ、高杉はフラッと覚束ない足取りで顔を押さえた。
(三人とも表面上の音楽はバラバラなのに、心の奥底で奏でるリズムが全く同じでござる。……吉田松陽の魂のリズムがこれなのだとしたら…)
───ガシャッ!
─ドシャアッ!
(ここで終わらすのは面白くない)
一段と大きい瓦礫が落ちたのを合図に再び始まった三人の動きの間に万斉が入った。
「なっ!」
「…何だ貴様!」
「ッ万斉…」
「退くでござる。拙者は三人をここで終わらせるわけにはいかぬ」
万斉が投げつけた閃光弾によって、辺りが眩しくなり一時的に三人の視界を奪った。
────
───────***
「くそ…」
「……高杉を連れて逃げたか」
更なる崩壊に桂が険しい顔をしてから、教本を緩く握りしめた。
「…でも、これで良かったのかもな」
「先生にはまだ申し訳が立たんな」
「そんなもん昔からだろーが。いつまで経ってもバカやって先生に怒られるまで終わらない喧嘩やって…」
遠い昔に瞼を閉じてから、業物を腰に納めてビルを後にした。
***
「銀ちゃん!!」
「銀さん!!」
涙でぐずぐずになった表情で抱きついてくる子どもたちを抱きしめてやれば、流しきっただろう涙をまた目に溢れさせて銀時の服を濡らした。
「…桂には逃げられたか」
「出てきたところを、と思ったんだがな」
「まぁ、みんな無事に出てこれて良かったですね」
完全に崩壊した建物を見てから銀時は子どもたちの頭を撫でて、二人に見られないように目を細めた。
(先生、ごめんな)
胸内で呟いてから銀時は上を見上げ、憎らしいほどの満点の星空を眺めた。
「帰ろうぜ」
「うん!」
「はい!」
end