黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 19
ヒナが全てを語り終えた時、彼女はイワンの心が乱れていると誤解していた。
これはもしかしたら、悲劇的な運命をでっち上げ、イワンの心を乱そうという策ではないかと、イワンは考えていた。
しかし、全ての話に偽りはなかった。ヒナの記憶を読み、彼女の思いや感じたことは全て事実であった。
「もしもボクを騙そうと、盛大な嘘を言っていたのなら、あなたを見損なっていた所でしたよ」
「…………」
ヒナが言葉に窮している間も、イワンは心を読み続けた。
「相当、お辛い日々を送ってきたのですね……」
イワンは同情の念を持っていた。しかしこれはまた、哀れむことによって、戦いの場において心が乱れてしまっている事を意味していた。
「イワン」
「分かっています、そろそろ終わりにしましょう」
しかしその実、乱れていたと思われたイワンの心は冷静であった。
ヒナが思ったことを口にしたからである。
「ふふ……、それじゃ、いくわよ!」
ヒナは縮地法で目にも留まらぬ速さで動き回った。そして沢山の選択肢をぶつけるようにしながら、縦横無尽、どこからでもイワンに迫るように攻めかかる。
イワンに滝の如く押し寄せる、ヒナの思考は、これまでの修行の成果により選定が可能となっていた。
大まかな思考は、イワンの脳に届く前に打ち消され、ヒナが攻めようとする思考、滝の水に流れる一枚の葉に存在する考えを、イワンは掬い取った。
「炸裂……」
「そこです!」
イワンはその答え、真横に現れたヒナの首に、切っ先を突きつけた。
ヒナは完全に面食らい、そのまま動けなくなる。
しばらく驚きの表情を見せていたヒナの顔は、次第に緩んでいき、やがて笑顔になった。
「お見事、よくやったわ。あたしの負けよ」
ヒナは片手を広げ、降参を宣言する。
「いえ、今回はヒナさんの心が乱れていましたから、偶然です」
「うふふ……、謙遜して……。まあでも、冷静でいたつもりだったのだけど、今になって分かったわ。確かに乱れてる。まさかあたしが、イワンに心乱されるなんてね。最後の最後にしてやられたわ」
ヒナは微笑んだ。
「これほどの心と力を得られたのは、他でもないヒナさんのおかげです。本当にありがとうございました」
イワンは深く礼をする。
「うん、今のあなたは強いわ。デュラハンを倒すのに、大きな力になるはずよ」
イワンも微笑み返した。
「はい、みんなで一緒にデュラハンを倒しましょう!」
こうして、イワンは心身ともに向上し、これを以て彼の修行は終わりを告げた。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 19 作家名:綾田宗